Shihoが語る、日本語でジャズを歌うということ メジャーデビュー20周年の発見とシーンの変化

 Shiho(ex.Fried Pride)が、自身のメジャーデビュー20周年を記念して「Music & Life」と「Happy Song feat.HAMOJIN」を配信リリースした。福岡のジャズフェス『中州ジャズ』のテーマソング向けに作曲された2曲の明るく楽しげな曲調は、コロナ禍の先行きがいまだ不透明な社会のなかで、リスナーに爽やかな空気を演出してくれるだろう。

 メジャーデビュー20周年を振り返りつつ「若い人は私たちとは違う環境で育っている」と現行のジャズシーンを語る彼女。だが、その自由度がFried Prideをはじめとした、Shiho世代の先発隊が道なき道を切り開いた果てにあるものであることを顧みられる機会は少ない。母国語で歌うことさえ忘れていたカナリアの目を覚ましてくれたのは、憧れのディー・ディー・ブリッジウォーターの何気ないひと言だった。(小池直也)

ライブとは違い録音は別物

ーー今年はメジャーデビュー20周年ということで、今の活動はいかがですか。

Shiho:昔から変わらずライブがメインですね。ジャズミュージシャンはライブを中心に活動するのが当たり前なので、それが自分にとっては日常なんですよ。ソロでのCDはまだ1枚しか出せていませんが、また来年に出せたらなと思っています。

ーーソロとしては5年目となりますが、手応えや変化などは?

Shiho:Fried Prideの解散前からソロライブもしていたので、その延長線上でやっていることなんですよ。付き合いのあるミュージシャンも変わりませんし、大きく変わったこともありません。ただアレンジの良し悪しやミュージシャンの人選を決断する時に相談相手がいない、とソロアルバム『A Vocalist』の製作で感じました。

 でもユニットで活動していても、ふたりで決めたからといって合っているかどうかは分かりませんでした。決めるのは自分ですし、正解はない。だから今ソロアルバムを聴いても「あれでよかったな」と思えています。

ーー新作「Music & Life」のレコーディング風景をYouTubeチャンネルで拝見しましたが、リハーサルも現場で行なっているんですね。

Shiho:プリプロ(プリプロダクション:録音前のデモ製作)をすることもありますが、あの日は当日にリハを2回ほどやって「じゃあ録ろうか」という感じでした。自分でアレンジもしていますが、それをガチガチにやるというスタンスではないので、実際に演奏してみて「こうした方がいいんじゃない?」という意見に納得すれば取り入れます。繰り返しの回数も音を出してみて変えることもありますし。

ーー制作はどの様にスタートしたのでしょう?

Shiho:2曲ともにすでに作曲していた曲だったんです。「Happy Song」は福岡の『中州ジャズ』というフェスのテーマソングなのですが、その前に書いたのが「Music & Life」でした。配信に当たっては他の候補もありましたが、今はコロナ禍ということもあり、ハッピーになれる曲がいいかなと。

 普段の作曲は歩いている時や電車に乗っている時、お店のBGMを聴いた時などに思いついたフレーズをスマホに録音していて、その短い4小節くらいのモチーフを膨らませています。それから「曲を作ろう」というタイミングで制作を始めて、1、2日で出来上がることが多いですね。今回の2曲もジャズフェス向きな明るいモチーフを見つけて作っていきました。

ーー「Music & Life」はフリージャズ風のイントロが印象的でしたが、こちらについては?

Shiho:イントロから考えた曲は少なくて、必要な場合は後で書き足すことが多いのですが「Music & Life」では分かりやすいものじゃなくてもいいかな、と思って付けました。でも伝わりづらかったようで、不採用になってしまったんです。そこで「Happy Song」で「THEイントロ」を付けたら採用になったんですよ。

 アレンジといえば、ソロでサックスの田中邦和さんにジャズスタンダードの「ドナ・リー」と「コンファメーション」をキーとか関係なしに吹きまくってくれとお願いしたら「そんなに変なオーダーをするボーカルの人はいない」と(笑)。普通なら「歌の邪魔にならないプレイで」とか言われることが多いんじゃないですか。というのも、作詞をしてくれたギラ・ジルカがこの歌詞に2曲の名前を入れてくれたので、それが曲中に出てきたら面白いかなと思ったんです。

ーー「Happy Song feat. HAMOJIN」で客演されているHAMOJINさんはどの様な経緯で参加されたのでしょうか。

Shiho:前作に収録したのはバンドアレンジで、あちこちでプレイしてきましたが、どこでも喜ばれるんですよね。そこでマネージャーが「この曲、アレンジ違いで出来たりしない?」と提案してくれて、「アカペラでやったら面白いかも」と思ったんです。HAMOJINのメンバー(矢幅歩、KOTETSU、伊藤大輔、北村嘉一郎)はそれぞれソロで活躍していて、もともと知り合いだし、面白そうだったので声を掛けました。

 基本のアレンジは彼らにお願いしていて、私の歌っているラインはそこまで難しくないのですが、それ以外はめちゃくちゃ難しいです。ぱっと聴いても分からないかもしれませんが「こんなの歌ってたんだ!」みたいな。もちろん後で直したりもしますが、全員で一発録りですね。

ーー「直す」といえば、メイキング動画で「直し大会」と称して、「Music & Life」の録音をメンバーと修正していく作業が記録されているのも印象的でした。

Shiho:あれは公開するか迷ったんですよ。「直す」という言葉をあまり公にしない方がよいのかなと。でも日常的に直しているし、まあいいかと(笑)。あの様子だけを見るとボーカルのピッチを「直す」と思う人もいるかもしれませんが、間違えた1小節だけを録り直すこととかも当たり前なんですよ。

 「ジャズは直さないのが粋」という風潮もありますが、そんな気持ちはないんですよ。Fried Prideでデビューした時のアルバムでも一発録りで気合を入れていましたが、あまり意味がないなと。ライブとは違い録音は録音で別物なので。もちろん多用していたわけではありませんが、当時から多少パンチインして修正はしていました。

【メイキング】Music&Lifeレコーディング風景【Shiho】

ーー他にもそういう自身の変化などを感じることはあります?

Shiho:いつまで経ってもレコーディングには慣れないですね。実力を毎回思い知らされるので、自分の歌を聴くのが苦痛で仕方ないんですよ。歌っている時はあまり思いませんが、プレイバックを聴くと……。これは慣れるものじゃないなと思ってます。

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