『A Tiny Winter Story』インタビュー

南條愛乃×あさのますみ、心の距離を近づけた二人だからこそ描けた大切な人との別れ 「素敵な恋愛は“余韻”が残る」

「お別れした人を愛おしい気持ちで思い出すことは誰にでもある」(あさの)

ーーそれが2021年6月に出版された『逝ってしまった君へ』ですよね。読んでどう感じましたか。

南條:本の内容は事前にインタビューなどで知っていたので、絶対に泣くのはわかっていて。あさのさんの大切な方が亡くなられた実話ですし、残された側の心情がリアルに生々しく描かれているので、一旦閉じて泣いて、開いて読んで、また閉じては泣くという感じで、ずっと泣きながら読んでました。あさのさんの思い出や実体験を本を通して教えてもらったというか。勝手にすごく心の距離も近く感じてしまって。

ーー南條さんが心の距離が近くなったと感じたのは、あさのさんがご自身の過去も赤裸々に描いているからですよね。

あさの:本にしようと思った時に、全部、嘘なく書こうと思って。それこそ、今まで言ってこなかった、水商売をしていたこととかも全部書いて。献本したらなんちゃんがすぐに読んでくれて、ありがたいことに感想をツイートしてくれて。なんちゃんにめちゃめちゃ感謝しました。そのあと、作詞でお声がけいただいたんですよね。

ーーあさのさんに歌詞をお願いしたのはどういう経緯でしたか。

南條:相談していて、いろいろなアドバイスをいただいていくうちに、どんどん素敵な人だなと思って。いただいた本も読んで、その中での言葉の紡ぎ方や伝え方が、リアルなんだけど、すごく優しくて。特に最後の方の情景ですよね。私が体験したわけではないのに、まるで自分が体験したかのように頭の中に浮かんできました。

ーー水商売からクタクタになって帰ってきて、自分のアパートの窓にオレンジの灯りがついているのが助けになっていたという場面ですよね。

南條:そこにグッときてしまって。ちょうどアルバムを作るのが決まっていて、“冬”というコンセプトを出したあとだったんですね。本の中で冬にみんなで集まるシーンがあったので、何か関わっていただけたら嬉しいなと思って。ただ、実体験ですし、あさのさんの大切な思い出だから、ダメもとでお願いしたら、快く引き受けてくださって。

あさのますみ『逝ってしまった君へ』

ーーこの本にまつわる歌詞をお願いしたんですか。

南條:「最後の情景のシーンを入れ込んでもらったら嬉しいです」ということはお伝えしました。悲しい実体験ですけど、なんかもう、声をかけなければ! という気持ちに駆られてしまって。

あさの:ふふふ。すごく気を遣ってくれているのがわかるお手紙も一緒にいただいて。「あさのさんの大切な思い出だと思うので、できる範囲で構いません。とにかく歌詞を書いてくれたら嬉しいです。無理はなさらずで大丈夫です」みたいな。私は元々なんちゃんの歌が素敵だなと思っていたので、歌ってもらえるのはありがたいし、歌詞をかけるのは嬉しいことだなと思って。

ーー作曲者である井内舞子さんにも読んでもらったんですよね。

南條:そうなんです。もしもあさのさんが歌詞を書いてくれるのであれば、曲に携わる人にも本を読んでから取り掛かって欲しいなと。そしたら、井内さんも読んでくださって。

ーー楽曲を受け取ってどう感じましたか。

あさの:書きやすいなと思いました。悲しい曲になりすぎると、私の本を読んでない人が楽しめるものにならないかもしれないと思っていて。でも、ほっこりと温かくて、ちょっと切ない感じの曲だったので、本を読んでない人が聴いても、歌詞としてちゃんと成立するものが書けるな、と。実際の恋人は亡くなってしまっているんですけど、そうではなくても、お別れしてしまった人のことを愛おしい気持ちで思い出すことは誰でもあると思うんですね。だから、本を読んでくれている方はバックグラウンドが浮かぶけれども、本を知らない人が聴いても、歌の世界が楽しめるものになるといいな、という意識で書きましたね。

ーー改めて、歌詞にはどんな思いを込めましたか。

あさの:素敵な恋愛をすると、その恋愛が終わった後も、心の中にずっと残っているものがあると思うんですけど、それをどういう言葉で表現しようかなと思って。嫌な恋愛だと「トラウマ」だと思うんですけど(笑)、素敵な恋愛だった場合は、「余韻」が残るというところからイメージを膨らませて。あと、なんちゃんが好きだって言ってくれた場面を入れたいなと思っていました。ただ、あくまでも、なんちゃんの曲だから、主人公は私ではなく、なんちゃんが主人公になって歌う曲にしたいなと。いいお別れをした恋愛の切ない曲、というところに持っていけたらいいなと思っていました。エッセイを読んでいただけた人だけが、どうして終わってしまったのかとか、違う聴き方ができたらいいけど。大半の人がそうじゃないと思うので。

「歌詞を1回読んだだけでダーって涙が溢れて」(南條)

ーー個人的には、井内さん同様、リスナーの皆さんにも読んで欲しいなと思ってます。

南條:なんなら抱き合わせでね(笑)。私も曲順を決めるときに、一番大事なポジションに入れましたから。

あさの:ありがたいです。私がつけた「余韻」というタイトルを、なんちゃんも「素敵です」ってLINEで送ってくれたんですけど、アレンジもタイトルを汲んでくださったのか、ふわっとした余韻が残るような感じになっていて。「あ、今、雪が降ってきてる」と感じるところもあったし、何よりも、なんちゃんが情感たっぷりに、いろんな思いを彷彿とさせるように、とても表現力豊かに歌ってくれていて。これはすごいなと思って、感謝しながら何回も聴きました。

南條:ありがとうございます。本当に、訥々と君への思いを綴っていくお手紙のような歌詞になっていて。今は一緒にいない君に向けて、自分の思いを語っていく世界観なんですね。だから、最初、仮のデモを聞きながら、この歌詞を見て、1回読んだだけで、もうダーって涙が溢れて(笑)。ちょうど〈部屋の明かり〉が出てくるあたりで盛り上がってくるし、ピンポイントに何が悲しいとか、何が切ないじゃなく、積もり積もって、なんだかわからないけど、泣いてしまうみたいな感じがあって。最初、練習しながらも泣けてきちゃって。私、これ、レコーディングできるのかな? みたいな感じだったんですよ。

あさの:(笑)。そうだったんだ。

南條:そうなんです。泣いてしまうんですよ。だから、レコーディングの時は、しんとした冬の夜の街を二人で歩いている空気感とか、そういう細かいニュアンスをどれだけ盛り込めるかに集中して歌ってました。

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