乃木坂46という“場”が生まれ成熟するまで ドキュメンタリー『10年の歩み』が捉えたものを考える

 2011年に結成した乃木坂46は今年、活動開始から10周年を迎えた。12月15日に発売された初のベストアルバム『Time flies』の完全生産限定盤には、この10年の足跡を追ったドキュメンタリー映像「“10th Anniversary” Documentary Movie 『10年の歩み』」が収録されている。アルバムリリースに先立って、12月2日には『10年の歩み』の完成披露試写会も催された。

 この作品の監督を務めるのは、乃木坂46の映像コンテンツでは「友情ピアス」MVや大園桃子個人PV「ももことまめぞうと」などを手がける高野寛地。本作では、乃木坂46結成以来、メンバーに密着してきたメイキングカメラの映像素材を主体に構成し、10年間の活動をまとめている。乃木坂46はアルバムリリースに向けて、活動年次ごとの出来事を振り返るCMも順次制作してきたが、それらの映像もまた同ドキュメンタリーの予告的な機能をもっている。

10th Anniversary Documentary Movie「10年の歩み」予告編

 約150分のドキュメンタリー『10年の歩み』が追うのは、ひとつの型や様式のようなものを持った〈場〉が生まれ、熟していくまでの軌跡である。

 乃木坂46が歩んできたこの10年余りは、女性アイドルシーンがかつてなく活況をみせた時代だった。乃木坂46が結成されてデビューに至る2010年代初頭には、すでにAKB48に先導されて様々な活動スタイルのグループが多数生まれ、豊かな土壌が作られつつあった。『10年の歩み』はまず、そのアイドルシーンに足を踏み入れたばかりの乃木坂46の、今日とは趣の異なる姿を映し出す。

 現在の乃木坂46との違いは、もちろんちょっとしたスタイリングの時代感や、キャリアを重ねていないための初々しい振る舞いといったディテールにも見て取ることができる。しかし何より大きいのは、当初の乃木坂46が組織としても個々人としても、まだ己のオリジナリティを確立していない者たちだったということだ。

 それが象徴的にあらわれるのが、特に活動初期の2011~2012年頃を振り返るブロックである。グループの歴史の起点となる最終合格者から暫定選抜メンバー確定、いわゆる“福神”メンバーの決定や演劇公演『16人のプリンシパル』まで、映されるイベント自体は乃木坂46の代表的な活動をごくオーソドックスに収集したものだが、それらの多くは選別や競争といった価値観に導かれて駆動されている。そもそも、グループ結成時のアイデンティティは、「AKB48の公式ライバル」という、既存の他者との相対的な位置関係を旨としたものだった。まだ己のうちにオリジナルの強みを持っていなかったゆえに、他者間の競争・選別を前面化したアングルによって物語が作られる局面も多くなる。その枠組みに対峙するメンバーたちを捉えた映像には、そうした草創期ならではの寄る辺なさも滲んでいる。

 もっとも、年を追うごとに見えてくるのは、活躍するステージも大きくなり、組織としてあるいは個々の芸能者として多方面に活路を拓いて己のカラーを獲得していく、今日の我々がよく知る乃木坂46の姿である。2010年代なかば~現在に至る映像には、独自のブランドを固めていくグループの成熟が強くうかがえる。

 同時にこの期間は、多くのメンバーが卒業していき、また他方で新メンバーが加入していく日々でもあった。このとき、メイキングカメラの素材を中心に構成された映像だからこそクローズアップされるのは、乃木坂46という場所を基点に行き交うメンバーたちの関わり合いの愛おしさである。

 そこに育まれていたのは、メンバーそれぞれが自身の道を見つけていくための基盤でもあり、新たな人々を受け入れていくコミュニティでもあるような、ひとつの〈場〉である。『10年の歩み』は、よりどころを持たずに2010年代アイドルシーンに足を踏み入れた人々が、やがて自らのホームを豊かに築いていくまでを捉えた作品といえるだろう。

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