【特集】グローバルを取り巻く“ロック”の再評価
連帯から生まれる新たなロックバンドのムーブメント black midi、BCNR……拡大続けるサウスロンドン・シーン中心に考察
Boygeniusが体現するUSインディ・シーンの連帯
USにおいては(Sandy) Alex GやBig Thiefなどインディフォークの流れや、フィービー・ブリジャーズ、サッカー・マミー、スネイル・メイルなどのオルタナティブなシンガーソングライターの流れがあった。お互いに影響を受けたところもあったのかもしれないが、シーンとしてではなくそれぞれが独立した価値観を持って自身の音楽を突き詰めていったような印象だ(それぞれの拠点が離れていることも関係していたかもしれない)。そんな中でフィービー・ブリジャーズは少し趣の異なった活動をしていた。自身のミュージシャンとしての活動もさることながら、大手のインディレーベル<Dead Oceans>(フィービー・ブリジャーズのリリースを行っているレーベルでもある)と組んで自らのレーベル<Saddest Factory Records>を立ち上げたのだ。こうした動きはUKシーンにおいてのレーベルの受け渡しや、Sports Teamが<Holm Front>を立ち上げたこととリンクしているように思える。自身の音楽をそこでリリースするのではなく、自分がいいと思った若手の音楽を出して引っ張り上げ、コミュニティを作り、次代のバンドが出てきやすくなるような体制を築き上げていく。フィービー・ブリジャーズは自覚的に次の時代のリーダーたらんとしているのかもしれない。<Saddest Factory Records>から第1弾として「Gold」をリリースしたブルックリンのシンガー Claudは繊細でポップで愛おしさを感じるし、チャーリー・ヒッキーはフィービー・ブリジャーズの感性で動く若きBright Eyesのような雰囲気で、UKのシーンと同じように、結果が信頼を生んで、信頼が期待感を生むような流れができている。
また「ギターバンド」や「連帯」をキーワードにして考えると、フィービー・ブリジャーズがジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダッカスと共にBoygeniusというバンドを組んでいるというのはことさら重要なことなのかもしれない。フィービー・ブリジャーズもジュリアン・ベイカーもルーシー・ダッカスにしても、3人それぞれ独立した素晴らしいアーティストで、バンドを組んだ時点ですでに自身のアルバムをリリースしていた。もともとバンドを組んでいた人間がソロになって活動するのではなくて、ソロとして活動していた人間がバンドを組む、いわゆるスーパーグループと言われるような状態だが、一人でいくらでも発信できる現代においてわざわざバンドを組むという選択をしたことこそに意味がある。『Loud And Quiet』のインタビューで、ジュリアン・ベイカーが「ソロミュージシャンがこんなことを言うのはおかしな話だけど、誇大妄想的なコントロールフリークでいるよりも、コラボレーションをした方が満たされて、それはそれでいいのかも。コントロールを放棄できるっていい」(※6)と発言していたが、バンドを組むというのはそういうことなのかもしれない。自分のアイデアと誰かのアイデアが合わさり変化していき、思いもよらないものになる。それこそがバンドの魅力なのだ。テクノロジーの発展によって一人で全て完結できるような時代を経て、今再び「連帯」することに意味を見出すようなタームに入っているのかもしれない。
オーバーグラウンドとアンダーグランドの交点
もっと大きなところに目を向ければ、オーバーグラウンドでMåneskinが凄まじいエネルギーを放っている。情熱と快感が燃え上がり、ギターの音が突き抜ける。1970年代のロックスター然とした佇まいで、黄金のハードロック時代のエネルギーを持って、2000年代のロックンロールリバイバル期のエッセンスを滲ませる。これで流行らなきゃ嘘だというくらいの突き抜けた凄まじい音。ど真ん中を打ち抜くような、音楽雑誌の誌面に踊る「ロック」という文字を見て思い浮かべるような、そんなサウンドで見事に2021年のロックバンドというものを体現している。レコードブームにおけるレコードの売り上げを見ても、メジャーな音楽雑誌の表紙を見ても、何が求められているかは明らかで、そんな中で登場したMåneskinの音楽は、ヒップホップの時代に乗れず少なからず抑圧された思いを抱えていた人々を解放する“オーバーグラウンドのカウンター”なのかもしれない。突き抜けた過剰さはエネルギーの渦となって周囲を飲み込む。ここから先、Måneskinのようなバンドが続くのかはわからないが、少なくとも彼らは時代に渦を巻き起こしたと言えるだろう。
アンダーグラウンドからもオーバーグラウンドからもギターの音が聴こえてくる。それぞれに事情は異なっているのかもしれないが、両サイドから、同じ時代にギターバンドの攻勢が起こっている。だからこそ、それらが交わる音楽を聴いてみたいという欲求に駆られるのだ。だから僕はイヴ・トゥモアを聴く。アンダーグラウンドよりも高い場所に立ち、垣根を越えた違った方向からの表現として、2021年のイヴ・トゥモアはギターの音を求めた。ライブの映像を観ても、イヴ・トゥモアは現代の刺激的な最高のロックスターの姿としか言いようがないパフォーマンスを見せている(その姿はなんとも未来的でSFを感じさせるようなもので……)。最新作『The Asymptotical World』の1曲目「Jackie」の歪んだギターの音が全てを物語る。SF世界の未来と今とを繫ぐ架け橋になり得るものとして、ギターやギターバンドの価値が再定義されていく。画面の中でイヴ・トゥモアとバンドメンバーの姿が重なる。歪んだ音が空間を切り裂いて、輪郭ができて、そうしてまた繋がっていく。ギターの音にロマンを感じるのは、それが連帯することの象徴になっているからなのかもしれない。
※1:https://girl.houyhnhnm.jp/culture/rock_for_the_girls_voice
※2:https://i-d.vice.com/jp/article/zm4b3y/shames-guide-to-the-south-london-music-scene
※3:https://twitter.com/SpeedyWunder/status/1002508521563443200
※4:https://www.loudandquiet.com/interview/dan-carey-a-long-talk-with-the-producer
who-has-bossed-2019/
※5:https://youtu.be/nUNUlc5ifbE
※6:https://www.loudandquiet.com/interview/boygenius-a-mrs-and-mrs-interview-withphoebe-bridgers-julien-baker-and-lucy-dacus/