エド・シーラン『=』、新たな人生の幕開け飾る4年ぶりのアルバム パーソナルな歌に刻まれた喪失と成長

 アルバムで初披露された楽曲も聴いてみよう。冒頭を飾る「Tides」は、アップテンポなビートに乗せてエドが軽快に歌い上げるポップナンバー。自分の現実とキャリアを見つけ直すことを歌詞にしており、途中のブレイクでは、プリスマイザーもしくはメロダインと思しきボーカルエフェクトを駆使したボン・イヴェール風味のクワイアが登場するなど、内省的なアプローチも心にしみる。エドの兄で作曲家のマシュー・シーランがストリングスアレンジで参加した「First Times」と「The Joker And The Queen」は、どちらも「愛の形」の多様性を謳ったもの。前者はアコギによる弾き語りにピアノやストリングスが徐々に重なっていくも、全体を通して静謐な雰囲気を保つ美しい楽曲。後者もピアノの弾き語りを基調としつつ、中盤からどこか懐かしいストリングスセクションがレイヤーされていくクラシカルなナンバーだ。

 個人的に胸が熱くなったのは、米国のシンガーソングライター、ベン・クウェラーが「Collide」に共同作曲者として名を連ねていたこと。ベンは2015年のエドのUSツアーにオープニングアクトとして参加し、5月19日のソルトレイクシティ公演では、前月に他界したたベン・E・キングの「Stand By Me」を一緒にカバーした仲でもある。〈You brought me to the morning through my darkest night(君は暗い夜を乗り越え、僕に朝を迎えさせてくれた)〉〈You lost your wedding ring, but I didn’t mind(君が結婚指輪を失くしても、僕は気にしなかった)〉と歌われる「Collide」は、子供の頃からの幼馴染みだったという自身の妻との絆を歌ったものだろう。

Ed Sheeran - Collide [Official Lyric Video]

 さらに、「僕が関わっている訴訟をテーマにした」(※3)と公言する「Stop The Rain」、父親としての自覚を歌ったレゲエ調の「Sandman」や、どこかサイケデリックな「Leave Your Life」など、どの曲もエドの実生活で起きたことを綴っており、これまでリリースされたどのアルバムよりもパーソナルな内容に仕上がっているのだ。

 なおアートワークは、アルバムのテーマである“新しい命”を象徴する蝶のイメージをコラージュしたもの。その背景にはエド自身が描いた抽象的な絵画が配置されている。

 パートナーとの間に「新しい命」を授かり、大切な人との別れを経て生み出された『=』は、エド・シーランが新たなフェーズへと突入したことを告げるアルバムといえよう。

※1:https://realsound.jp/2021/08/post-841209.html
※2:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/98378/2
※3:https://music.apple.com/jp/album/1581087024

エド・シーラン『=(イコールズ)』

■アルバム情報
ニュー・アルバム『=(イコールズ)』
2021年10月29日発売
国内盤CD ¥2,200(税込)
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収録曲:
1. Tides / タイズ
2. Shivers / シヴァーズ
3. First Times / ファースト・タイムズ
4. Bad Habits / バッド・ハビッツ
5. Overpass Graffiti / オーヴァーパス・グラフィティ
6. The Joker And The Queen / ザ・ジョーカー・アンド・ザ・クイーン
7. Leave Your Life / リーヴ・ユア・ライフ
8. Collide / コライド
9. 2 Step / 2ステップ
10. Stop The Rain / ストップ・ザ・レイン
11. Love In Slow Motion / ラヴ・イン・スロウ・モーション
12. Visiting Hours / ヴィジティング・アワーズ
13. Sandman / サンドマン
14. Be Right Now / ビー・ライト・ナウ

エド・シーラン WMJアーティストサイト

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