Chara、愛と向き合い続けた歌手としての歩み 30周年アニバーサリーライブを振り返る

 その当時に「旦那と喧嘩した時に作った」というこぼれ話を交えて「ミルク」を歌ったり、ユニット“jOnO”の相方である平岡恵子と「大切をきずくもの」を奏でたり。タイミングを見計らっては、娘であるSUMIREの子守歌として「せつないもの」を作ったことや息子であるHIMIを産むときマタニティブルーになって遺書を書くような気持ちで「大切をきずくもの」を作ったことなど、曲と日々にまつわることもぽつらぽつらと零す。あまりにも自然体なまま身近な人との姿を覗かせてくれるものだから、いつぞやの「あなたとミュージシャンが恋をしたとしたら あなたを想って作った曲があるはずだけど ひとつもないとしたら何も想われていない証拠よ」という彼女の呟きがストンと腹落ちする。Charaというアーティストは大切な人の記憶や温度を音楽に閉じこめ、いつでも呼び起せるように魔法をかける人なのだと。

 言葉を落とすように「hug」を歌ったかと思えば、余韻を与えずにアシッドジャズ調の「恋をした」を投下。懐かしいアップチューンの登場にオーディエンスも思わず立ち上がり、会場はクラブさながらのムードである。なによりも「ちょっと長生きしたくなっちゃったな。100歳まで生きるけどね!」なんて話しながら、曲に合わせて舞い踊るCharaが心底楽しそうで、自然と心が踊らされてしまうのだ。

 「Time After Time」を浴びながらステージを去ると、花びらをまとったようなピンクのニットドレスに衣装チェンジ。軽やかなドラムロールと共に「月と甘い涙」へ誘いこみ、パーティータイムの始まりだ。スカートをはためかせるロックナンバーの「Duca」、アダルトな雰囲気で色気を漂わせる「スカート」とCharaの魅力は止まらない。

 なかでも背筋をゾクッとさせたのは「世界 JEWEL ver.」だ。かきならされる2本のアコギ、大合唱のタンバリン、そして力強い歌声。“愛の鳥が怖がってる ここにおいで お願いよ”と唱える姿は神秘的で、世界のすべてに裏切られたとしても彼女だけは裏切らないと信じられる絶大なパワーを放つ。音楽の発する説得力こそ、まさしく彼女が愛に生きてきた証。シックな雰囲気で「Break These Chain」を祈るように歌うとステージの奥へ消えていった。

 アンコールは、ファンの大合唱が嬉しかったという思い出の曲である「あたしなんで抱きしめたいんだろう」から幕を開けた。合唱団のように並んだコーラスと視線を交わしながら遊ぶように音を描き、メンバーひとりひとりへの想いも語っていく。リズミカルなパーカッションに乗せて「やさしい気持ち」が始まるかと思えば、Charaの実物衣装をまとった木梨憲武が登場。当の本人は全く知らなかったようで、オーバーリップすぎる木梨のメイクに「私の唇ってそんなの⁉」と大爆笑である。ドラマチックに「Happy Toy」を演りきると、現実の世界へ再び戻っていったのだった。

 愛と真正面から向き合い、喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、人生の血肉にしてきたChara。『Chara’s Time Machine: 30th Anniversary Live』は、タイムマシーンに乗り30周年のなかで出会った愛ひとつひとつに会いにいくような豊潤な時間だった。100歳まで生きるという彼女は、ここからさらに瑞々しさを増していくことだろう。年を重ねたからこそ出会えた新たな愛の形を楽しみに待ちたい。

<Chara's Time Machine:30th Anniversary Live セットリストプレイリスト>
2021年9月20日(祝月)17:30@東京・LINE CUBE SHIBUYA
http://va.lnk.to/bEjbPP

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