Chara、愛と向き合い続けた歌手としての歩み 30周年アニバーサリーライブを振り返る
ドイツの哲学者かのエーリッヒ・フロムは、著書『愛すること』のなかで「愛は技術であり、学ぶことができる」と説いた。愛を考えると、どうしても思考は愛されることへ動いてしまいがちだが、真の意味で愛することこそ幸福に生きるための最高の技術。Charaが歩んできた30年間もまた、愛することと向き合ってきた過程だったように思う。そうでなければ受け止めきれないほど、9月20日にLINE CUBE SHIBUYAにて開催された『Chara‘s Time Machine: 30th Anniversary Live』は愛に溢れた時間だった。友愛、恋愛、無償の愛。たくさんの愛を直視してきた彼女の生き様が、まばゆいほどに煌めいていたのである。
会場の照明が落ちると、ステージの奥から聴こえてきたのはピアノの音。視線が誘われた先へ紗幕に浮かび上がる形でCharaが姿を現すと、幻想的なアレンジの「せつないもの」でオーディエンスを物語のなかに引きずりこんでいった。
ライブを封切ったのは、滅多に歌わないという「初恋」だ。妹が失恋したときに作られたナンバーは、“新しい人と出会うために別れはある”がテーマ。この夏に盟友である渡辺善太郎が亡くなったことも、少なからず関係しているのだろう。30年間で経験した幾多の出会いと別れに想いを馳せるように、大切に歌い上げていく。
愛しい人を脳裏に描く「FANTASY」、フリューゲルホルンが温かく響く「才能の杖」と、のびのびしたステージングを展開。妖精のような白いドレスは、彼女が揺れるたびに魔法の粉を散らしながらふわふわと揺れる。「Tiny Dancer」では、「詩が先にできて、くるり岸田君にメロディをつけてもらった」と語り、ギターをかき鳴らして自ら先陣を切っていく。無言ライブで定番となったオーディエンスのタンバリンもステップを踏むように軽やかに弾み、できることが限られる状況のなかで一体感ある音楽を作っていった。
「すごく大好きなお友達ミュージシャンがなくなりました」と、渡辺善太郎とのエピソードを話すChara。「次に歌う曲は急遽セットリストにいれさせてもらった」と紹介し、「悲しみと美」を導いた。目を閉じながら言葉を紡ぐ姿は、記憶のなかの善ちゃん(渡辺善太郎の愛称)にたくさんの思い出を語りかけているよう。たくさんの人がいるライブ会場でありながら、教会さながらの厳かさを香らせていた。