『BARAKAN CINEMA DIARY』

ピーター・バラカンが語る『サマー・オブ・ソウル』 映画で描かれた、1969年のハーレムとブラック・カルチャー

当時19歳のスティーヴィー・ワンダーも登場

黒田:その後に登場するThe Fifth Dimensionなどは、サイケデリックに影響を受けているバンドだと思いますが、やはりこの頃のブラック・ミュージックには、サイケデリックの影響が大きかったんでしょうか。

バラカン:彼らはサイケというよりもポップな感じですね。僕がThe Fifth Dimensionを映像で見たのは、この映画が初めてです。ティーネイジャーのときに彼らの音楽をよくラジオで聴いていましたが、音から黒人のグループだと思いませんでした。本人たちも「我々の音楽は白いってよく言われるけど、音楽に色ってあるの? 我々は単にやりたいことをやっているだけだ」と、お客さんの前で言っています。黒人のお客さんにとって、彼らの音楽は新しい体験だったのではないでしょうか。映画では、当時小学生だった中年男性が、当時のことを振り返って話すシーンがあります。「僕にとってマリリン・マクーは最大の憧れだった」と。マリリン・マクーは当時子供たちのアイドルだったんでしょう。この映画で彼らは、ミュージカル『ヘアー』の「Aquarius/Let The Sunshine In」を歌いますが、ビリー・デイヴィス・ジュニアがこの曲をどうやって歌うようになったかという話もしていますね。そのシーンはとても面白かったです。これは映画を見てのお楽しみということで。

黒田:当時のフィルムを現在のメンバーが見て、色々と感想を言うシーンも面白かったですね。

バラカン:メイヴィス・ステイプルズもインタヴューで昔のことを語っていますね。彼女と一緒に出ていたThe Staple Singersは、1972年に発表したアルバム『Be Altitude: Respect Yourself』の中の「Respect Yourself」と「I'll Take You There」がミリオン・セラーの大ヒットとなり、世界中で人気者になったグループです。この2曲はゴスペルというよりメッセージ・ソウルという感じなんですが、1969年の時点ではまだまだゴスペルのグループとしてやっていて、72年以降ほどの強い存在感はなく、ちょっと地味なんですね。途中でマヘイリア・ジャクスンが出てきて、メイヴィス・ステイプルズと一緒に「Take My Hand, Precious Lord」を歌うシーンもありましたね。本当なら、アリーサ・フランクリンがマヘイリアとデュエットする予定だったらしいんですが、本番の3日前にアリーサがドタキャンしたようですね。

 (映画には)スティーヴィー・ワンダーも何度か出てきます。まず冒頭、他の演奏者が出てくる前に彼がドラムを叩いているシーンがありますが、あれは画期的だと思いました。監督のクエストラヴもドラマーなのでとても興奮して、その映像を見ただけで「ぜひこの映画の監督をやりたい」と思ったようです。スティーヴィー・ワンダーは当時19歳で、その後成人になって完全に自分でプロデュースしたレコードを作りますが、この時点でもかなり大人になってきた雰囲気が見て取れます。

黒田:『INNERVISIONS』などのアルバムを出す前ですね。

バラカン:『INNERVISIONS』の4年くらい前ですが、1971年くらいになるとスティーヴィー・ワンダーはどんどん新しいことをやりだしますよね。1969年の時点ではもちろんわからなかったけど、今振り返ってみると、そろそろブレイクするなという雰囲気もあります。クラヴィネットを弾いているファンキーな演奏は素晴らしい。

 度肝を抜かれたのは、Sly & The Family Stoneです。当時、黒人のエンターテイナーはスーツ姿でビシッと決めてやるものだと思い込んでいた人が多かったみたいで、スライたちが出てきたときはみんな驚いていました。全員ヒッピーのような恰好だし、黒人のグループなのにドラマーは白人だし、トランペット奏者は黒人だけど金髪の女性だし。みんな彼らをどう捉えたらいいかわからないという困惑していたんですが、演奏が始まったら圧倒されてたちまちファンになっていましたね。スーツを着ていた一人のお客さんは、その日のスライの演奏を見て「もう二度とスーツなんか着ない」と決め、生活態度をガラリと変えたと話していました。それだけのインパクトがあったんです。マイルズ・デイヴィスも、1966年くらいまでは必ずスーツを着て演奏していましたが、若いガールフレンドのベティ・メイブリーと付き合うようになり、彼女からジェイムズ・ブラウンやスライ・ストーン、ジミ・ヘンドリックスを紹介されて、マイルズの服装がはいきなり変わる。そして音楽の雰囲気も次第に変わっていく。そういう時代だったんですよね。

黒田:映像を見ていると、ファッションの移り変わりもよくわかりますね。

バラカン:1968年くらいから“ブラック・パワー”、“ブラック・プライド”、“ブラック・イズ・ビューティフル”などと言うようになって、ブラック・パンサー党が登場して、アフリカ回帰運動みたいなものが段々形になっていきました。この映画はその直前ですね。当時のハーレムの様子は、色々なニュース素材や映像で紹介されているので、フェスティヴァルだけではなく、ブラック・カルチャーがその時どのようになっていたかがインタヴューでも見られますね……。

第6回『サマー・オブ・ソウル』

■配信情報
『BARAKAN CINEMA DIARY』#6
出演:ピーター・バラカン、黒田隆憲
第6回作品:『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
初回配信:9月10日(金)19時公開
配信メディア:Spotifyほか各種配信サイト
配信はこちら

■公開情報
『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
公開中
監督:アミール・“クエストラブ“・トンプソン
出演:スティーヴィー・ワンダー、B.B. KING、ザ・フィフス・ディメンション、ステイプル・シンガーズ、マヘリア・ジャクソン、ハービー・マン、デヴィッド・ラフィン、グラディス・ナイト・アンド・ザ・ピップス、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン、モンゴ・サンタマリア、ソニー・シャーロック、アビー・リンカーン、マックス・ローチ、ヒュー・マセケラ、ニーナ・シモンほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題:Summer of Soul (…Or, When the Revolution Could Not Be Televised) 
(c)2021 20th Century Studios.All rights reserved.
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