The Birthday、新境地『サンバースト』に宿ったリアリティ 真実を歌い鳴らすことで体現する“ロックの本質”

 我々は、物事の明るい面と暗い面、どちらかだけを見て生きることはできない。どんなに楽しく生きたいと願っても、いやが応にも突き刺さってくるのが、厄介な現実というもの。MVが鮮烈だった「月光」は象徴的な楽曲で、〈無知でいるのは罪か?〉と問いかけ、〈お前の想像力が現実をひっくり返すんだ〉と、一面的とは限らない現実に向かって叫ぶ。そして〈この世に意味のないものなんてないよね/愛し合ったがために殺し合って/殺し合ったがために愛し合って/ただその繰り返し〉と、世の中の真理を鋭利なギターサウンドに重ね合わせていくのだ。月は自ら輝いているのではなく、太陽光を跳ね返して光っているが、それはある場所からはそう見えても、別角度から見ることで新たな一面が浮かび上がってくることの示唆でもある。月をひっくり返してみれば、太陽に照らされていない面は真っ暗であり、我々が生きている現実にも同じことが言えるのではないか。〈想像力〉を持って、現実の裏側の“真実”に思考を巡らせなければならない。「月光」には、暗にそんなメッセージが込められているような気がしてならないのだ。

The Birthday - 月光

 優しいギターストロークと水面が光るような美しいメロディの「スイセンカ」にも、どことなく通ずるものがある。何気ない風景が淡々と綴られていくが、ハッとさせられるのは、〈ハカイが始まったその瞬間に/海辺の彼女 寝そべってる/ビーナッツバターの香りがした〉という終盤のフレーズ。世界が滅ぶ瞬間、案外こんな穏やかな光景が広がっているのかもしれない。あるいは穏やかな日常の裏で、世界は刻一刻と腐り続けているのかもしれない。

 だが、もちろん『サンバースト』が伝えるのはそれだけではない。〈支離滅裂なのは百も承知さ〉と言いながら、〈小さな愛〉について叫ぶ「ギムレット」は非常に印象的だ。The Birthdayが得意とする“語り系”の楽曲で、特に2番の〈青い蝶のブローチ〉についてのエピソードはとびきりユーモラス。こうした〈絶滅なんてしない すげー小さな愛〉が地球上に溢れていることもまた、同じように真実なのである。そこから繋がるラストの曲は「バタフライ」。まるで全てが終わった後に残った、世界の片隅の風景のようだ。世の中が平和を取り戻したとしても、痛みや争いが消えることはなく、それを繰り返していくのが人間の現実なのであるーーそんな予感を残しながらアルバムは締め括られる。

 チバは、今作のタイトルを最初から『サンバースト』に決めていたと語っており、雲間から差し込む太陽の光を指しているそう(※2)。The Birthdayのディスコグラフィの中でも殊更リアリティの高い作品だと感じるが、それは決して“暗い”という意味ではなく、太陽が誰に対しても平等に降り注ぐように、今作もまた聴き手に対して開かれているのだ。その証拠に「レボルバー」や「晴れた午後」など、メロディの突き抜け方はThe Birthday史上随一のキャッチーさであり、悩みながらも踊らせるロックンロールの本質を体現している。そして、先が見えないコロナ禍の今、何が真実なのかを見極め、考えを巡らせていくのはとても大切なことでもある。真実というのは、誰からも見える太陽のように本来開かれているべきだが、世の中に埋もれてしまっている以上、我々の想像力で現実をひっくり返し、探し当てていくしかないのだから。その意味でも、とびきりロマンティックな言葉で“世界を肯定”してきたThe Birthdayのキャリアは今、新たな局面に到達したのかもしれない。

 『サンバースト』は何かを押し付けるような重い作品ではないし、手放しの希望を謳歌するような作品でもない。真実がポツンと“ただそこにある”のと同様に、この作品もただそこで鳴っている。だが、そういったものをしっかりと受け止め、それぞれの立場で問題提起していくことが必要だ。先鋭的な音と言葉で時代と向き合い、それが普遍的なメッセージ性を帯びていくのがロックの本質であり、同時に今ロックが失いかけているものだとするならば、2021年に誰よりもロックの在り方を研ぎ澄ませているバンドはThe Birthdayなのである。多くの人の心に届き、それぞれが真実について考えを巡らせ、悩みながら踊ってほしい。

 地上を照らす太陽のように、大きくて、眩しくて、どこか得体の知れない、“ただそこにある”ようなアルバム。それが『サンバースト』である。

※1:『MUSICA』2019年4月号
※2:https://natalie.mu/music/pp/thebirthday03

The Birthday『サンバースト』(CD)

■商品概要
The Birthday『サンバースト』
2021年7月28日(水)発売
・初回限定盤(CD+Blu-ray)¥6,300税込
・通常盤(CD)¥3,300(税込)

<CD収録曲>
1.12月2日
2. 息もできない
3. 月光
4. ラドロックのキャデラックさ
5. レボルバー
6. アンチェイン
7. 晴れた午後
8. スイセンカ
9. ショートカットのあの娘
10. ギムレット
11. バタフライ

<Blu-ray収録内容>
・『GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR 2020』LIVE MOVIE
ヒマワリ / 青空/KISS ME MAGGIE / SOMBREROSE / DOOR / ROCK YOUR ANIMAL / 木枯らし 6 号/ 春雷 / プレスファクトリー/ 24 時/ Red Eye / BITCH LOVELY / 1977 / OH BABY! / COME TOGETHER /オルゴール/くそったれの世界/声/なぜか今日は
・「月光」MUSIC VIDEO
※映像部分のみプレイパス対応

The Birthday『サンバースト』(アナログ)

■アナログ商品概要(2枚組)
The Birthday『サンバースト』
2021年7月28日(水)発売 ¥4,800(税込)
<DISC-1>
SIDE A
1.12月2日
2.レボルバー
3.ショートカットのあの娘
SIDE B
4.息もできない
5.晴れた午後
6.月光
<DISC-2>
SIDE C
7.スイセンカ
8.ラドロックのキャデラックさ
9.アンチェイン
SIDE D
10.バタフライ
11.ギムレット

■ツアー情報
『SUNBURST TOUR 2021』
9月1日(水)神奈川 川崎 クラブチッタ
9月13日(月)奈良 EVANS CASTLE HALL
9月15日(水)兵庫 神⼾ チキンジョージ
9月17日(金)佐賀 佐賀 LIVE HOUSE GEILS
9月19日(日)⼤分 ⼤分 T.O.P.S Bitts HALL
9月23日(木・祝)⾼知 ⾼知 キャラバンサライ
9月25日(土)静岡 LIVE ROXY 静岡
10月1日(金)北海道 根室 HYWATT HALL
10月3日(日)北海道 釧路 NAVANA STUDIO
10月7日(木)⻑野 松本 ALECX
10月9日(土)⽯川 ⾦沢 EIGHT HALL
10月15日(金)福島 郡⼭ HIPSHOT JAPAN
10月17日(日)新潟 新潟 LOTS
10月20日(水)三重 四⽇市 CLUB ROOTS
10月22日(金)⼭⼝ 周南 RISING HALL
10月24日(日)⾹川 ⾼松 festhalle
11月3日(水・祝)福岡 Zepp Fukuoka
11月5日(金)広島 広島クラブクアトロ
11月7日(日)大阪 Zepp Osaka Bayside
11月14日(日)名古屋 Zepp Nagoya
11月20日(土)北海道 Zepp Sapporo
11月23日(火)宮城 仙台PIT
11月28日(日)東京 Zepp Haneda
Tour Total Info:https://rockin-blues.com/

The Birthday OFFICIAL WEBSITE

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