Little Black Dress、豪華バンドメンバーとの堂々たるステージ 成田昭次ゲストに迎えたビルボードライブ横浜公演
7月2日にメジャーデビューした“新人”のステージとは思えなかった。
曲ごとに物語を紡ぐように歌の主人公に寄り添う歌声やパフォーマンスだけでなく、曲間にギターを持ち替える時の何気ない仕草まで、その一挙手一投足に貫禄がすでに漂っていた。もしこのライブが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言の影響で延期にならず予定通り5月に行われていたとしたら、まったく違うものになったのではないだろうか――Little Black Dressは今、アーティストとしての加速度的な成長の真っ只中にいる。7月15日にBillboard Live YOKOHAMAにて行われたワンマンライブは、そう確信させられるパフォーマンスだった。
「Mirror」「双六」「野良ニンゲン」という冒頭に披露された3曲は、5月12日にリリースされた1stデジタルアルバム『浮世歌』に収録された楽曲だ。歌謡とロックを融合させた彼女のDNAともいうべきものが刻み込まれたこれらの曲、実は難易度がめちゃくちゃ高い。例えば「野良ニンゲン」は歌謡をベースにしながらもサビからスカビートが入り混じり、無国籍なサウンドへと進化していく。人間の抱える混沌を歌詞とメロディ、サウンドで表現した味わい深い曲だ。
先に種明かししてしまうと(実際のライブでのバンドメンバー紹介は本編後半でされた)、バックを固めるバンドメンバーがちょっとすごい。ゲスの極み乙女。などで活躍する休日課長(Ba)、その休日課長とDADARAYで活動しているえつこ(Cho/Key)、YouTubeチャンネル登録者数150万人超えの世界的に名の知られたギタリストIchika Nito(Gt)、超絶技巧で知られるDevin Kinoshita(Key)、数々のアーティストのサポートで有名な青山英樹(Dr)と、まさに鉄壁の布陣というやつだ。彼らにかかれば曲の難易度というものはさして問題ではないだろうが、ポイントは、これほどツワモノ揃いのバンドメンバーを束ねつつ、一筋縄ではいかない楽曲を難なく乗りこなしていく彼女のポテンシャルの果てしなさだ。それをわからせるのに、冒頭の3曲で十分だった。
ショートMCを挟んで披露したのは、メジャーデビューシングル「夏だらけのグライダー」。この楽曲は川谷絵音がプロデュースしたもので、これまで彼女が自作していた曲とはテイストが異なるものだ。しかしその溝も軽やかに飛び越えてしまった。どんな曲でも自分のものにできるという自信がみなぎっていた。それは、セットリストの組み方にも現れている。この曲の後には、「妖精の詩」「愛まみれ」「優しさが刺となる前に」という『浮世歌』収録の中でも濃厚な楽曲が続くのだが、これら3曲と冒頭3曲とに挟まれた真ん中に新曲である「夏だらけのグライダー」をあえて持ってくるというところに彼女の不敵さが窺えて頼もしく感じられた。
「愛まみれ」の前に披露したMCが印象的だった。
「やっぱり人は一人では生きられないんだな、人は人に生かされて、人は人の思いに突き動かされて、人は人によって形勢されていくんだなって思いました」
それは同時に、彼女が音楽をやる理由でもあるのだろう。音楽が好きという絶対的な気持ちのほかに、自分の音楽が発生する根元を見つめることができている。だからこそ、どんな曲でも自分のものにしていけるのだろう。