水瀬いのり、工藤晴香、堀江由衣……声優とクリエイター、双方の個性が結び合った最新曲

 2021年も7月に入り、多くの声優が新曲をリリースし始めた。新作アニメの主題歌、自身のアーティスト活動としての楽曲などあるが、ここで取り上げる3組の楽曲は、それぞれの個性と狙いとがしっかりと結び合ったプロダクトだと言えよう。

水瀬いのり『HELLO HORIZON』

 本日7月21日、水瀬いのりのニューシングルがリリースされた。彼女にとって10枚目となるシングルの表題曲「HELLO HORIZON」は、アニメ『現実主義勇者の王国再建記』(TOKYO MXほか)のオープニングテーマとなっている。水瀬は本作のヒロイン、リーシア・エルフリーデン役として出演中だ。

 早速同曲を聴いてみよう。ピアノから始まるイントロは7/8拍子で叩かれ、バンドサウンドとドラムのフィルイン、かすかに聴こえる弦楽器が加わり、メロディやアンサンブルが盛り上がる。Eマイナーの不穏な和音の響きも相まって、この曲の趣きをリスナーに示している。

 ここ最近のアニソンや声優ソングで差し込まれているようなメロディと歌詞が詰まった楽曲ではなく、一音一語のメロディが聞き取りやすい。ボーカルは一声または二声で大部分が構成されており、コーラスワークは最低限で、水瀬の柔らかなタッチの歌声とロングトーンが活かされている。

 聴きどころは、2分45秒からのブリッジから大サビへと至る流れだろう。バンド隊・ピアノ・弦楽器の絡まりは、拍の取り方を若干外すようなフレージングも相まって、一聴すると不協和音かのように響く。〈大きな渦と波動の先に 試され時代が移りゆくなら〉から始まる部分では、一定のリズムパターンで8ビートを刻みながら、ボーカルのメロディやオーケストレーションがより不安感を盛り立てていく。

水瀬いのり「HELLO HORIZON」MUSIC CLIP

 大サビに入ると、水瀬の声以外の音がほぼ止まり、〈世界に求められる僕なんて どこにもいないと思ってたのに 信じること 信じたとき ただ ありのままを許せたんだ〉と歌い上げる。それまでキレイに収まることなく漂い続けていたハーモニーやメロディが、このパートでキレイに締まるのだ。

 この一連の流れは、アニメのシナリオとも繋がっており、水瀬の歌声が作品のメッセージをドラマティックに描いてくれる。作詞は岩里祐穂、作編曲を務めたのは白戸佑輔、スペシャリスト2人による佳曲として彩りを与えてくれそうだ。

工藤晴香『Under the Sun』(通常盤)

 2作目は、工藤晴香の1stシングル『Under the Sun』だ。昨年から2枚のミニアルバムを発表し、7月25日にはワンマンライブ『PLANET SUMMER』の開催も控えている。表題曲の制作は4月下旬からスタートしたそうで(※1)、そこからシングルのリリースが7月上旬であることを考えると、驚くほど速いペースで制作されたと言える。制作スタッフ含めて、その速度感からは工藤の攻めの姿勢が感じられる。

 そうした流れで制作された今回の「Under the Sun」。ポストハードコアから直接伝播したギターサウンドは、工藤のライブメンバーとしてだけでなく、PassCodeなどをサポートするYoichiによるもので、作曲を務める平地孝次は、まさしくPassCodeのサウンドプロデューサーを務めている人物だ。ツーバスと数種のタムを活かしたドラミングとともに音像を追いかけてみれば、ヘヴィメタルらしいアンサンブルが決して崩れないことがわかる。

 歪んだシンセサイザー、工藤の歌声、タメが効いたアンサンブル、それらがないまぜとなり、夏晴れの空の下、夏フェスや野外で聴いてみたいパワフルなロックソングへと仕上がっている。

工藤晴香「Under the Sun」MUSIC VI

 歌詞は工藤が恋愛ソングを意識して制作したそうだが、〈人生は続いてゆく 別々でも同じ空の下で幸せでいて〉という部分には、恋愛というフレーミングを外し、この情勢でうまく興行できないライブやイベントのことを想像してしまいそうになる。

 これまでのシリアスなムードからは一変しつつも、コアの部分は変わらない、工藤のディスコグラフィに新しい華を添える1曲だ。

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