乃木坂46 久保史緒里、十代から二十歳への成長の日々 アイドル・役者の幅を広げた様々な“出会い”を辿る

 宮城県出身の久保が仙台を中心とした様々な観光名所を訪れ、その魅力を動画で紹介していくシリーズ企画「宮城・仙台 旅しおり」は、スタートから約4年が経過した。スポンサーである菓匠三全の広報担当者は「相手の方が話しやすいように気を使いながら、自然な振る舞いができる久保さんを信頼してお任せしています」と撮影時の具体的なリクエストはしていないと語る(『日経エンタテインメント! 2021年2月号』より)。その「宮城・仙台 旅しおり」でも訪れているのが、東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地である楽天生命パーク宮城。久保は2020年1月にイーグルスガール代表に就任。今年5月には昨年のリベンジとなる始球式に挑んだ。

【のぎマネ日記】久保史緒里、楽天イーグルス始球式編

 4歳の頃から家族でスタジアムに通っていた生粋のイーグルスファンである久保は、小学3年生から中学3年生までの7年間「東北ゴールデンエンジェルス」のジュニアチアに所属。久保にとってスタジアムのマウンドは特別な思いが詰まった場所だ。ノーバウンドで見事リベンジを果たす久保。初選抜曲「シンクロニシティ」、そして「僕は僕を好きになる」がスタジアムに鳴り響く光景は、自身の過去と未来を、愛する乃木坂46と宮城県を繋ぐ存在を久保が担っていることを示している。

 「乃木坂46の外に出て、まだ一人でお芝居をした経験がなくて、まずはそういう経験をするところから始めていきたい」(『CM NOW 2021年 3月号』より)という思いは、連続ドラマ初主演を務める『クロシンリ 彼女が教える禁断の心理術』(関西テレビ・BSフジ)で叶うこととなる。久保が演じるクロノサキは、ブラック心理術を巧みに利用し、相手の心を翻弄するミステリアスな女性。ドSで毒舌な役どころは久保の本来のイメージとはギャップのあるキャラクターであった。しかし、久保はコント番組『ノギザカスキッツ ACT2』(日本テレビ系)にて、このクロノサキと奇跡的にも似通ったキャラクター「恋のディーラーSHIORI」を演じている。感情の起伏が激しく、目を見開いたリミッターの外れた役柄。キャラ設定は異なるものの、ブラックな久保という点では共通しており、新たな演技の扉を開けたのが『クロシンリ』と「恋のディーラーSHIORI」である。

 そして、久保が20歳を迎える直前の期間に上演された舞台『夜は短し歩けよ乙女』は、これまでの活動の集大成とも言える作品であった。舞台では『三人姉妹』『ザンビ』『ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」2019』と経験してきてはいるが、グループの枠を飛び出し久保史緒里として一人での舞台に臨むのはこれが初めて。しかも、歌舞伎俳優の中村壱太郎とのダブル主演。演じるのは、人気の高いヒロイン・黒髪の乙女だ。

 そもそも、森見登美彦のベストセラー小説『夜は短し歩けよ乙女』を、ヨーロッパ企画の上田誠が脚本・演出を手がけた今作は、乃木坂46のファン以外も大勢観劇に来る舞台である。原作/演劇ファンも納得させるのが大前提となるが、結果的に久保の演技は多くの反響を生むこととなる。学生時代から三谷幸喜の演劇に通い、上田とも交流のあるテレビプロデューサー佐久間宣行は、『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)で久保の演技を「天才だよね」と絶賛。終演後に、上田と話した「すごいっすよね。あの人振りも0秒で覚えるんですよ」という裏話を明かしている。アニメーション映画『夜は短し歩けよ乙女』で同じ乙女役を演じた花澤香菜も「久保さん可愛いよう!」とツイート。3期生初公演『3人のプリンシパル』から久保の演技力は高い支持を受けていたが、あらゆる層にリーチしていくこの現象を目の当たりにすると、ありきたりな表現ではあるが「見つかった」という言葉がぴったり来る。

劇中曲「夜は短し歩けよ乙女」歌稽古(舞台「夜は短し歩けよ乙女」メイキング⑤)

 筆者も千秋楽を含めた東京公演を2回とライブ配信で大阪の大千秋楽を観劇した。「音楽劇」とも言われるくらいに、久保の演じる乙女の軸にあるのは歌である。随所で披露される「ポエトリーラップ」は、久保の歌唱力とピッチの良さを活かしながらアイドルとしての要素も滲ませる。天真爛漫で自分の好きなことに一直線な姿は久保のイメージと一致。3時間近い舞台で膨大なセリフ量を暗記し、時にはナレーションを、時には「偏屈王」として少々ドスを利かせながら、時には竹中直人のアドリブに翻弄されながらも、歌、踊り、演技で乙女を愛らしく体現していく。

 東京千秋楽。満員御礼、スタンディングオベーションの中、久保は達成感と自信に満ち溢れた表情で堂々と挨拶していた。重ねたのは「僕は僕を好きになる」を経た久保の姿。劇中では、乙女が出会った人間同士が、また別の場所で出会い、ご縁が繋がっていく。乙女の「こうして出会ったのも何かの御縁」は作品を象徴するセリフであるが、久保がこうして乙女という役柄に出会えたことも意味しているようでならない。「自信を持って『私の居場所はここです』って言えるためには、個人として力をつけないといけないなって思います」(『blt graph. vol.53』より)と乃木坂46を居場所にできなかったかつての久保はもういないだろう。

 本日7月14日は久保の20歳の誕生日であり、『乃木坂46 真夏の全国ツアー2021』の初日。7月17日、18日の宮城県・セキスイハイムスーパーアリーナでのライブは、久保にとって2017年以来の凱旋公演となる。人一倍の乃木坂46愛は変わらず、たくさんの出会いを経て自信をつけた久保は、乙女のように勇気ある一歩を踏み出す。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter(@AKI_W_)

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