AKB48の軌跡を辿る 第3回:震災、スキャンダル、前田敦子らの卒業……戸惑いながらも駆け抜けた迷走期

 5月23日に結成15周年記念の単独コンサートを終えたアイドルグループ、AKB48。同コンサートは柏木由紀演出のもと「48曲ノンストップライブ」に初挑戦。また9月29日にリリースする58枚目のシングル曲では、姉妹グループは参加せずにAKB48メンバーのみで歌唱することを発表。これは19作目『チャンスの順番』以来、約10年ぶりのことだ。5月28日には、「最後の1期生」である峯岸みなみがAKB48劇場公演をもって卒業。7月からは、自虐的なタイトルが話題の新番組『乃木坂に、越されました〜AKB48、色々あってテレ東からの大逆襲!〜』がテレビ東京でスタートした。

 15周年の区切りが過ぎて、AKB48は変革の兆しを見せはじめた。今回の短期連載では、グループの今後に期待を込める意味でこれまでの軌跡をまとめていく。第3回は、東日本大震災時におこなった支援活動「誰かのために」プロジェクトから前田敦子、大島優子の卒業までをまとめていく。

大島優子が前田敦子に勝利、『総選挙』が国民行事化

『神曲たち』

 2010年4月、2000年代におけるAKB48の歴史を一区切りとするかのように2ndベストアルバム『神曲たち』がリリースされた。高橋みなみが「大人はいつもウソをつく」と感情を露にした『組閣祭り』により、チームA、K、Bの3チームは解体されて新体制へ移行。さらに、一部メンバーの姉妹グループへの移籍が進められた。賛否両論はありながら、間違いなく新しいステージへ向かおうとしていた。

 『第2回選抜総選挙』では大島優子が、中間発表で首位だった前年チャンピオン・前田敦子を逆転して初の1位に輝いた。第1回の前田の4630票を大幅に上回る、31448票を集めた。大島はスピーチの場で「嘘のようです」と涙を流し、「いつも2位の大島優子としてやってきました。これからは自分に付いてきてください」と力説。一方の前田は、「優子に『おめでとう』という気持ちで抱きしめたとき、強く抱きしめ返してくれた。そのとき『AKB48をやっていける』と思いました」と、切れかけた気持ちの糸を何とか繋ぎとめられたという。

 他メンバーでは、「神7」は順位の変動はありながら全員が7位以内に。W松井ことSKE48の松井珠理奈、松井玲奈がメディア選抜入り(12位以内)を果たし、指原莉乃も前年27位から19位へ順位を上げ、少しずつ新しい風が吹き始めた。イベント全体としても、総合司会を徳光和夫がつとめ、全国29カ所の映画館で生中継されるなど規模感もアップ。2010年の『総選挙』がそうやって注目を集めたことで、これまでアイドル事業に携わってこなかったレコード会社や芸能事務所が多数参入するようにもなった。『総選挙』が与える社会への影響力も、さらに大きくなっていった。

【MV full】 チャンスの順番 / AKB48[公式]

 同年には、じゃんけんでシングル曲の選抜メンバーを決める『AKB48 19thシングル選抜じゃんけん大会』が日本武道館で開催。優勝した内田眞由美はこれまでグループ内で陽の目を浴びていたとは言い難い存在で、グループを辞めようかと考えていたそうだ。内田がセンターをつとめ、決勝で敗れた石田晴香と3位の小嶋陽菜が脇を固める形でリリースされた『チャンスの順番』はオリコンウィークリーチャート1位を獲得。リリース日の12月8日は、劇場オープンからちょうど5年目の記念日だった。AKB48を取り巻く様々な物事が大きく変貌していった。

柏木由紀は生涯アイドル宣言、大島優子は「いつかソロに」

 テレビドキュメンタリー『DOCUMENTARY of AKB48 1ミリ先の未来』(NHK総合/2011年)のなかで、AKB48がコンサート『薬師寺奉納公演2010「夢の花びらたち」』を終えた後、前田敦子がこんな言葉を口にしていた。「次、薬師寺でライブができるのは10年後だそうですよ」と。このドキュメンタリー番組は冒頭、各メンバーが「自分はこの先、何者になりたいか」について話していく。峯岸みなみは、自分の10年後について「きついものがあるかもね」と苦笑いしていた。デビュー当時は何者でもなく、その未来が不確かだった彼女たち。しかしこのときには、自分にとって理想的な未来を思い描き、そして先々への意識を強めて活動するようになっていた。同時に「このままの自分で良いのだろうか」と迷いが生じたり、決断を迫られたりするようにもなる。

薬師寺奉納公演2010「夢の花びらたち」 / AKB48 [公式]

 松谷創一郎は書籍『ギャルと不思議ちゃん論―女の子たちの三十年戦争』(原書房/2012年)のなかでAKB48について触れており、「日本のアイドルは“未完成”を売りにすることが多い。K-POPのように完成されていなくても、その成長のプロセスもコンテンツとして提示する」と指摘している。『ASAYAN』(テレビ東京系)でのモーニング娘。の例も含め、アイドルの成長過程を見せてファンを惹きつける流れは、2021年現在のアイドルシーンにも引き継がれている。逆に言えばメンバー自身、もしくはファンが「アイドルとしてひとつの完成を迎えた」と判断したとき、アイドル以外の進路をとる可能性が出てくるということだ。

 書籍『AKB48ヒストリー 研究生公式教本』(集英社/2011年)に記載されているメンバーの言葉を抜粋すると、柏木由紀は「私はずっとAKB48にいたい。そしていつかアイドルを極めたい」と生涯アイドルを宣言する一方で、大島優子は「いつかソロ活動をやりたい」とした上で「今は目の前のことを一生懸命やるだけ。今はまだ、夢は叶ってないと思うから」と何らかのゴールを意識したコメントを発していた。AKB48をいつまで続けられるのか、その考え方や行動は当然ながら異なっていた。

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