CYNHN、ステージで際立つ“表現者”としての存在感 『AOAWASE』ツアーファイナルを観て
綾瀬志希、月雲ねる、百瀬怜、青柳透からなる女性ヴォーカルユニット・CYNHN(スウィーニー)が2021年6月26日、『CYNHN LIVE TOUR 2021 -AOAWASE-』の最終公演を東京・LIQUIDROOMで開催した。「水生」「2時のパレード」といった近年の代表曲を中心に、「Redice」など有観客ライブでは久しぶりに歌うナンバーを加えた全16曲を披露。しなやかさと力強さが共存したオリジナリティあふれるパフォーマンスは、ファンのみならず、その場にいた人すべてを瞬時にして虜にしたことだろう。
彼女たちは2017年のデビュー以来、「青」をイメージしたサウンドメイクや「蒼」にこだわったビジュアルや演出をグループカラーにしてきた。あえてカテゴライズすると“楽曲派”のアーティストに入るのかもしれないが、今回の公演ではっきりわかったのは、既存の枠に収まり切らない魅力を確実に持っているという点である。
今回のライブで印象的だったのはダンスだ。オープニングを飾った「イナフイナス」における幻想的な振り付けや、続く「インディゴに沈む」で見せたミュージカルのように優雅な動きなど、どの曲でも彼女たちならではの輝きを放つ。特に「はりぼて」での自身の表現力をフルに発揮して歌い踊る姿は強烈なインパクトを残した。
ダンスというと、ここ数年はK-POPグループのような一糸乱れぬ振り付けや複雑なフォーメーションが人気を集めている。CYNHNの場合、そうした流れを意識せずに、歌の世界観に気持ちを集中して踊ることを何よりも大切にしているのが興味深い。今回のツアーでは装飾や演出をできるだけ排除したおかげで、この点がより鮮明になったと思う。
余談ではあるが、デイヴィッド・バーンによるブロードウェイショーの模様を収めた話題の映画『アメリカン・ユートピア』も歌と演奏にクローズアップしたもので、『AOAWASE』ツアーと同じ方向性を感じさせる。もしかすると次に来るトレンドは“シンプルに徹する”ことなのかもしれない。
今回の公演でもうひとつ注目したのは、各メンバーのヴォーカリストとしての成長ぶりだ。意思の強さが伝わってくる綾瀬志希。百瀬怜は自身の心の中にある不安や切なさを見せていく。月雲ねるは揺れ動く感情を繊細に表現し、青柳透はさまざまな感情をにじませた声を響かせる。十人十色ならぬ四人四色の歌声が、激しいリズムの上で絡み合い、時には合わさっていく様子は実にスリリングである。こうした個性の組み合わせがCYNHNならではの持ち味になっていると確認できたのも今回のライブの大きな収穫であった。
楽曲のクオリティの高さにも驚かされた。ロックをベースにしながらも、EDMやアコースティックポップ、メロコアなど他のジャンルの要素を加えた疾走感のあるサウンドは、メンバーのボーカル&ハーモニーと相まってさらに勢いづいていく。
どんなスタイルの音であっても自分たちの個性を全力で出しきるCYNHNは、何と呼ぶのがいちばんふさわしいのだろうか。アイドル、シンガー、アーティスト――。いずれもなんとなくしっくりこない。あくまでも個人的な意見ではあるものの、現時点では“表現者”という言葉が最も似合うような気がするのだ。
ライブのアンコールが始まった直後、次回の単独公演(2021年9月25日、渋谷・WWW X)がアナウンスされた。「今年9月23日までに3000人キャパの会場を埋める」ことを目指してきた彼女たちだが、期限までに実現できなかったことに関して、「少し悔しい気持ちがあるんですけれども、目標は変わっていません」(百瀬怜)と言葉を詰まらせながらも語っていた。
夢は終わったわけではない。アイドルやアーティストといった枠から抜け出し、表現者として新しい景色を見せてくれるCYNHNの活躍はこれからも続き、着実にファン層を広げていくはずだ。3000人、いや、それ以上の観客を収容して単独ライブを行う日はそれほど遠くないと信じている。
■まつもとたくお
音楽ライター。ニックネームはK-POP番長。2000年に執筆活動を開始。『ミュージック・マガジン』など専門誌を中心に寄稿。『ジャズ批評』『韓流ぴあ』で連載中。最新刊は『K-POPはいつも壁をのりこえてきたし、名曲がわたしたちに力をくれた』(イースト・プレス)。