秋山黄色、複雑な想いにケリをつけた地元 宇都宮公演 ツアーを経て確かめた観客との信頼

 サンプラーでビートを手打ちしながら変化をつけた中盤、ファルセットで高音域へ上がっていくアウトロなどからボーカリストとしての伸びしろが読み取れたバラード「夢の礫」、観客を根こそぎノせた「モノローグ」~「アイデンティティ」間のディスコ/ファンク的なセッション……と、幅広いアプローチを見せながらも、全体の熱量は一瞬たりとも弱まらない。特に「猿上がりシティーポップ」、「とうこうのはて」、「ガッデム」と『FIZZY POP SYNDROME』以前の曲を続けた本編終盤では、明日のことなど考えていなさそうなほどの燃焼ぶりを見せた。本編ラスト1曲を残したところで息を切らし、「曲行けねえ……」と秋山。そうなるのも無理はない。しかしこの尋常ではないエネルギーはどこから来ているのか、とも思う。

 結論を言うと、おそらく秋山黄色は、今日この日を以って呪い(のろい)を呪い(まじない)に変える覚悟でステージに立っていたのではないだろうか。最新アルバム『FIZZY POP SYNDROME』と同じく、本編を締めるのは「PAINKILLER」。『FIZZY POP SYNDROME』は、音楽で人の痛みを消すことはできないが、酒を割る炭酸のように、痛みを薄めることぐらいはできるんじゃないかと歌ったアルバムだった。同じように、秋山が抱える地元へのコンプレックスはきっともう染みついてしまっているが、ライブハウスの中では自由に生きることができた。自分の音楽も、リスナーにとってのそんな生き場所になれたら……。大嫌いだった街の中にある唯一呼吸できる場所だったライブハウスで――そして目と目をしっかり合わせて、その存在を確かめられる人たちを前にして、アルバムラストに配置された〈居てくれ〉という言葉が歌われる意義はあまりに大きい。それこそ関係性を確かめるように、長い前髪の奥で開かれた目は、フロアにいる一人ひとりをしっかり捉えている。「1公演も中止にならなかったのは(ガイドラインを守ってくれた)みなさんのおかげ」と伝えていたように、ツアーを経て確かめられた信頼もあったことだろう。

 「PAINKILLER」までを終えたところで肩の力が抜けたのか、アンコールは一段と自由。ベースやドラムも好き放題演奏した「ゴミステーションブルース」(笑って楽器を貸すサポートメンバーの温かさよ)、そして「宮の橋アンダーセッション」と、宇都宮を舞台にした曲がとにかく楽しく演奏されたことも、彼が呪いから解放されたことを物語っていた。因縁にケリをつける地元公演を終え、この先秋山がどんな音楽を鳴らすのかが楽しみだ。なかなか鳴り止まない拍手が熱演の証明だった。

秋山黄色公式サイト

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