稲垣吾郎は“理想を実現させる力”を持つーー『きれいのくに』などで発揮する、素材としての面白さ
稲垣吾郎は理想を実現させる力を持つーーそう思わせてくれるのが、現在佳境を迎えているドラマ『きれいのくに』(NHK総合)だ。
ほとんどの大人が同じ顔をした世界で暮らす高校生たちの青春群像劇『きれいのくに』は、その挑戦的な脚本や設定が話題となっている。その挑戦の一つが稲垣が演じている約10役にわたる“トレンド顔”の男性たちだ。啓発映画の監督に、高校生たちの教師や父親、果てはパパ活相手まで……。創作に熱心だったり、曖昧でいい加減だったり、狂気的な態度を見せたりと、一つの作品の中で様々な稲垣吾郎の演技を堪能できるのは、本作が初めてではないだろうか。
さらに驚くのが、最新AIを使ったトレンド顔で埋め尽くされた街の制作だ。稲垣自身が演じている役柄のほかにも、劇中には最新AIで稲垣の微細な表情を再現したトレンド顔がいたるところに登場する。全員が稲垣の顔のアイドルグループ「チーム轟」といった遊び心溢れる演出まで。これは実際に稲垣が演じている役柄……? これはCG……? と考えながら見ていてもその境界線は曖昧で、だんだんとゲシュタルト崩壊していく感覚に陥っていく。遺伝子操作によって生まれながらにしてトレンド顔を持つ、生徒の一人・中山(秋元龍太朗)は、そこにしっかりと線引きをしてくれる存在でもある。制作を手がけるVFXチームのインタビュー(※1)によれば、稲垣は検証テストの段階から参加。同チームの角田春奈ディレクターは、「通常の顔、笑った顔、怒った顔、まばたき、『あいうえお』母音を発音した状態で静止してもらったり、セリフを読んでもらったり、顔を回してもらったり、様々な表情を撮らせてもらいました」と明かしている。
1人10役余りの演じ分け、さらにAIのための撮影まで。通常の収録とはまた違った苦労も想像できるが、稲垣は「その世界の流行りの顔に選ばれたということは光栄なことだよね(笑)」と今回の挑戦に面白がって参加しているようだ。『ステラ』(2021年5月14日号)のインタビューでは、「視聴者の方の反応がこれほどまでに楽しみな作品は初めてです」とも答えている。きっと、稲垣にとっても『きれいのくに』での演技や体験は未知のものであったに違いない。