Homecomings 福富優樹&畳野彩加インタビュー “引っ越し”がバンドの制作に与えた影響、新たな始まり告げる充実作を語る
Homecomings、約2年半ぶりとなる4作目のアルバム『Moving Days』。アルバムタイトルが“引っ越し”を意味しているように、4人のメンバー全員が関東を拠点とするようになり、ポニーキャニオン内レーベル・IRORI Recordsでのメジャーデビュー、マネージメントもカクバリズムに移籍と、活動は新しい段階に進んだ。日本語詞への取り組みやサウンド面でのチャレンジがもたらしたフレッシュさと自分たちらしさを意識した一貫性の両方が、彼らの新たな船出にふさわしいこの一枚に結実したと思う。その新作に至った経緯や作品への手応えについて、バンドのフロントでありソングライターである福富優樹と畳野彩加に話を聞いた。(松永良平)
2020年に起きたことがちゃんとアルバムになっている
ーー新作『Moving Days』、すごく窓がひらけた感じがあります。通算では4作目のフルアルバムですが、初めて日本語歌詞に挑戦した前作の3rdアルバム『WHALE LIVING』(2018年10月)に続く2作目。とはいえ、映画『愛がなんだ』(今泉力哉監督)のエンディングテーマとなった「Cakes」(2019年4月)からの新しいステップという感じがしますね。日本語詞での表現もさらにはっきりと自分たちのものになってきてます。自分たちの手応えとしては、どうですか?
福富優樹:そうですね。『WHALE LIVING』からあまり間を空けることなく映画のテーマ曲として「Cakes」が書けて。あれは「こういうふうに日本語詞が書けるんだ」というひとつの指針が明確にかたちになった曲だと思います。『WHALE LIVING』ではやりきれなかった日本語でのもう少し踏み込んだ表現というか、風景描写だけじゃなく何かをちゃんと歌うということがよくできた。今回の『Moving Days』の雛形になった曲だと思います。
畳野彩加:私も「Cakes」の曲作りに関しては、日本語詞でのやり方をつかんだ状態で進められた印象があります。これからやりたいことの方向性を決める大事な曲になったのかなという気がしていました。
ーーこの2年半の間で、何よりコロナ禍は大きな影響だったと思うんですけど、福富くん、ドラムの石田成美さんが京都から東京に引っ越しして、メンバー4人全員が関東を拠点に暮らし始めたという環境の変化も大きかったと思うんです。
福富:出てきた時点でメジャーデビューが決まっていたわけでもなかったし、「上京するぞ!」という気合いよりは、成ちゃん(石田)が栃木に行ったとか、いろんな個人的な理由が積み重なっていた感じでした。でも、バンドを続けるためには4人集まってやったほうがいいなという選択でもありましたね。
ーー一時期は京都二人と関東二人、遠距離に離れてバンドを続けていたわけですもんね。
畳野:遠距離の間、成ちゃんと私は関東で、トミーと穂那ちゃん(福田穂那美)は京都で。何かやるにしてもいろいろと大変という感じはしてました。当時はそんなに意識はしてなかったんですけど、メンバーとの距離の近さも曲作りには影響があったんだなと後々になって気がついて。二人が上京してくれて以前の状態に戻って、やっと自分の心の安定も戻ったようなところがありました。
ーーその引っ越しという話題は、今回のアルバムタイトル『Moving Days』とも関係してくる話です。ちなみに、アルバムには「Moving Day Part 2」という曲が入ってますが、じつはシングル『Cakes』のカップリング曲として「Moving Day Part 1」もある。
福富:「1」は、アルバム『WHALE LIVING』にあった“優しさ”というテーマの延長で、だけど、歌詞に出てくるカップルのひとりがそれに疑いを持っちゃってるんです。それが、「2」ではやっぱり“優しさ”は大事なんじゃないかと思い直すという救いを描いてます。その変化が次のアルバムのテーマになっていくというのは「Cakes」の頃から考えてましたね。
ーーそうなんですか。事実上の起点が「Cakes」だけでなく、そこにもすでにあった。
福富:それに「Cakes」の頃には、僕が引っ越すことはもう決まってたんですよ。だから、“変化”という意味でもあるし、シンプルに“引っ越し”というのはアルバムタイトルとしていいなと思ってたので、前々からこのタイトルは決めてはいたんです。本当は「1」と「2」、それからアルバムも、「Cakes」からの流れで、あまり間隔を空けずに出したかったけど、コロナ禍もあって時間がかかってしまった。一年くらい出るのがズレたという意識もあります。
ーーでも、この2020年という一年があったことで、曲作りに作用したものもあったのでは?
福富:そうですね。じっくり歌詞が書けたというのはある。別にコロナ禍の状況とかははっきり書かないようにしたんですけど、それに付随すること、たとえばBlack Lives Matterとか、社会の出来事はアルバムにすごく影響を与えています。2020年に起きたことはちゃんとアルバムになってる。どの段階で出ていてもそうだと思うんですけど、そのときにあったことを反映しているものを作りたいんです。『WHALE LIVING』まではフィクション的な物語を作って、そのなかに自分を入れ込む作り方だったんです。今は、その頃よりも言いたいことが先にある感じというか。自分の生活や社会のなかで見ているものを歌いたくなったし、歌わなくちゃいけなくなった。そこは今までの3枚のアルバムとは明確に違う気がしています。
ーー「Moving Day Part 2」はHomecomingsのカクバリズムへの移籍で同じ事務所になったサイトウ“JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)のサウンドプロデュースで、R&Bっぽいですよね。今回はサウンド面でもチャレンジが増えた印象です。
福富:そういう取り組みも自然というか、ずっとチャンス・ザ・ラッパーみたいなことやりたいなというのは前々から思ってたんです。「Moving Day Part 2」はコロナ前からあった曲で、それをスタジオセッションではなく遠隔でやることで、逆にHomecomingsっぽくなった気もしていて。この4人がソウルの要素を自分たちのサウンドに入れようとする方法として、打ち込みに目がいったというか。
畳野:今まではデモができたらスタジオに入って4人で合わせてガッとやってみるみたいな感じだったんです。今回は、デモの段階から4人でリモートのやり取りをして時間をかけて作り込んでいけた。具体的なことをみんなで細かいところまで話し合ってできたし、曲を理想に近づけてゆく作業としては、今回のやり方がいちばん今の私たちには合ってたのかな。成ちゃんはもともとヒップホップとかを好きで聴いていたけど、その感覚をHomecomingsでもやってもらおうとドラムのパターンを任せたし、それに合わせて穂那ちゃんのベースもいままでとは雰囲気が変わった。リズム隊の進化は今回のアルバムではわかりやすくなっていると思います。
ーーストリングスやホーンを足したりするアイデアも4人で?
福富:ストリングスやホーンについても、いつものスタジオでの作業だったら僕や彩加さんの意見が強くなりがちなんですけど、今回のリモート環境では4人で話しながら曲を作っていく感じができて、意見もポンポン出るし、風通しがよくなった。今後もこうやって作っていくんだろうなというのが見えました。
ーー4月16日に羊文学を対バンに迎えて行われたHomecomingsによるツーマン企画『"here"』を見ていてもあらためて思ったんですが、英語で歌っていた時代の曲も普通にセットリストに入れてましたよね。今回のアルバムでも「Summer Reading」という曲は英語詞。その分け方に力みがないというか、とても自然に消化してきた歴史を感じました。
福富:「Summer Reading」については、最初にオケのできたときに英語かなと思ったんです。もともと、アルバム全曲を日本語にするつもりもなかったし、曲に合うやり方をそのときどきでチョイスしてゆくやり方でいいのかなと思ってます。結果的にあの曲は英語ですごく良かったと思うし、そこは柔軟にやれたらいい。彩加さんも歌い方も日本語でも英語でも非常に進化してると思うので、両方できるというのは魅力にもなるのかなと。
ーー2ndアルバム『SALE OF BROKEN DREAMS』(2016年5月)の時点で、英語詞でもちゃんと意味があって物語として成立している世界観というのを自分たちで突き詰めたじゃないですか。そういうことも糧としてバンドに根付いてるんですよね。
福富:そうですね。そうやってきたことがライブでも音源でもちゃんと混ざってるのがいいなと思います。あとひとつ思うのは、台湾やイギリス、韓国にツアーで行ってできた友だちにも、英語で歌う曲のほうが伝わっている気もしてるので、それができるのもいいことかなと。
ーーHomecomingsのやり方なら、その共存が不自然じゃなくできるのかなと思います。そういう意味でもHomecomingsって、つくづく恵まれたバンドで、それなりに長いキャリアができてきてるんだけど、常に新しい気持ちでアルバムを作れてるというか、何回もデビューできている感覚がある。
福富:『WHALE LIVING』も日本語になるってことで1stアルバムみたいな気持ちだったし、今回は今回でメジャー1stアルバムになってるし。別にそこは意識してないけど、常にフレッシュでいられる。自分たちというよりは周りの環境によってできてることだと思うんですけど、ありがたいですし、不思議な気分でもあります。
ーーその一方で、積み重ねてきてるものもすごくちゃんとあるんですよ。ライブレポートでは“トラディション”って言葉を使ったんですけど、自分たちのやりたいことを普段着でちゃんと貫いてきてるし、それが後続の世代から憧れられるバンドスタイルにもなっている。
福富:僕らがシャムキャッツとかミツメをそう思っていたように聴いてもらえるのは、シンプルにめちゃくちゃうれしいです。