斉藤由貴、不変の魅力と確かな表現力 Billboard Live TOKYOに響かせたいまの歌声
斉藤由貴が4月25日にBillboard Live TOKYOで『斉藤由貴〜Billboard Live Tour “水響曲” featuring 武部聡志〜』を開催した。歌手デビュー35周年を迎えた斉藤は、今年2月に武部聡志をプロデューサー/ピアノに迎え、デビュー初期の曲をセルフカバーしたアルバム『水響曲』をリリース。3月から大阪、横浜、東京を回ったBillboardツアーを開催していた。各公演の即日完売を受けて実現したのが、この日の追加公演だった。本稿では当日昼夜2回行われた公演から昼公演の模様をお届けする。
武部が弾くピアノの音色に誘われて、濃青のドレスを着た斉藤がステージに登場する。最初に歌ったのは「AXIA〜かなしいことり〜」。武部のピアノと1st及び2ndヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのカルテットが奏でる旋律とともに、斉藤の語りかけるような歌声が会場に響き渡る。
そして、最初のMCでは、追加公演にしてツアー最終日という、この日の特別なステージの実現を切望していた思いと、来場した観客への感謝を丁寧に語り、 「初戀」、「情熱」とヒットチューンを続けて披露。いずれもストリングスの流麗な旋律と武部のオブリガートが素晴らしい。斉藤が胸の奥に秘めた感情を抱きかかえるようにしゃがみ込む姿や、消え入りそうな声を振り絞るような歌唱が印象的だ。
さらに『水響曲』以外のレパートリーからも、ファニーな雰囲気の「うしろの正面だあれ」、朗々としたボーカルが胸を打つ「3年目」と、自身が作詞を手掛けた二曲を歌い上げると、彼女はいったんステージを降りた。
このツアーでは斉藤の衣装チェンジを兼ねた本編折返しのタイミングで、武部がインストゥルメンタルを一曲弾いてきた。今回は何と(※'04〜’14年放送の)テレビ番組「「僕らの音楽」オープニング・テーマ」だった。
ジャジーな旋律による贅沢な余韻のなか、白いドレスを着た斉藤が再びステージに登場すると、荘厳なストリングスから「白い炎」へ。訴えかけるような哀切の歌声に思わず息を呑む。そしてテンポが一転、アンサンブルとの呼吸もぴったりな「青空のかけら」、観客の手拍子に乗せて朗らかに歌う「悲しみよこんにちは」を経て、最後は、「まだデビュー直後だった高校の卒業の日、クラスメイトたちが自分へのエールとしてこの曲を歌ってくれた」というエピソードと共に、85年のファーストシングル「卒業」を歌って本編の幕が閉じた。
武部はMCで「究極の不安定」と評していたが、斉藤には何色にも染まるようで、しかしやっぱり何色にも染まらないような歌声と存在感がある。その不変の魅力に、長年培ってきた女優としての確かな表現力がプラスされた「いまの斉藤由貴」がそこにいた。多くは80年代の曲なのに、良い意味で「かつてのアイドルが懐かしのヒット曲を歌う」といった空気が流れない、今日の斉藤のパーソナルがきちんと伝わってくるライブだった。
そしてあらためて彼女に楽曲を提供してきた松本隆、筒美京平、銀色夏生、谷山浩子、玉置浩二らの確かな感性に膝を打ち、リリース当時、自身も制作に参加したサウンドから敢えて音を“削ぎ落とす”プロデュースで、過不足ないリアレンジをまとめた武部のバランス感覚にも唸らされた。
アンコールでは「一生忘れられない瞬間を重ねてここにいる」と語り、渾身のボーカルで「MAY」を歌った。本編のMCでは「(ツアーが)終わるのが寂しい」(斉藤)、「いつか『水響曲 Ⅱ』を」(武部)という感想も口にしていた二人。7月21日には、4月2日に同会場で行われた公演の模様を収録したライブBlu-ray & DVDも発売される。「忘れられない瞬間」の続きを大いに期待したい。
■リリース情報
『Billboard Live Tour “水響曲” 』
Blu-ray & DVD
発売:2021年7月21日(水)
【プレミアムコレクターズエディション(完全生産限定盤)】
9,900円(税込)
《限定特典》 ○LP サイズ リバーシブルジャケット仕様 ○ボーナスディスク「水響曲」インストゥルメンタル集 ○フォトブック封入(「水響曲」ジャケット撮影時の未発表写真) ○ポスター封入
【Blu-ray 通常盤】
6,000 円(税込)
《限定特典映像》 ○スタジオライブ「卒業」 ○スタジオライブ「土曜日のタマネギ」(未発表映像)
○斉藤由貴×武部聡志スペシャル対談映像(未発表映像) <DVD通常盤>
5,280円(税込)
[収録曲] ※3 形態共通、全 15 曲収録 AXIA〜かなしいことり〜 初戀 情熱 土曜日のタマネギ 予感 morn〜透明な壁〜(instrumental) 白い炎 青空のかけら 悲しみよこんにちは 卒業 MAY さよなら 《 bonus track》 うしろの正面だあれ
三年目 砂の城