K-POP、ジェンダーレスなスタイリングはいつから始まった? 日本のボーイズグループにも影響与えるヘアメイク

 次にヘアスタイルとメイクの両面で大きなインパクトを与えたのが、2013年のVIXX「On and On」だろう。VIXXは「コンセプトドル」と呼ばれるほど毎回スタイリングにはっきりとしたテーマがあるが、この時のテーマは「貴族のヴァンパイア」。カラフルな髪色とシアトリカルなメイクに加え、最も特徴的だったのは「カラーコンタクト」の登場ではないだろうか。元々の目の色に近い「ナチュラル盛り」のカラコンはそれまでも使われていたが、青や赤などの非現実的な色のカラコンがKPOP界で使われるようになるのはこの時期辺りからだろう。2012年のBIGBANG「MONSTER」MVでもカラコンは使われていたが、曲自体の活動はなくMVのみだったため、TV番組等の活動時もカラコンを着用してのパフォーマンスが一般的になったのはVIXX以降と言えるだろう。

VIXX - On and On, 빅스 - 다칠 준비가 돼 있어, Music Core 20130309

 カラコンの普及に伴い、アイメイク自体はもっとナチュラルでジェンダーレス寄りになっていった印象だ。おそらく、カラコンで目元のインパクトを出しやすくなったためアイラインは抑え目になり、目元の色味とのバランスをとるために唇にも色味を加えたメイクが一般的になっていったのではないかと思われる。韓国のメイクの流行自体も、目元より唇を強調する方に変わっていった時期だ。2014年に韓国で話題になったのが、EXOベクヒョンの「バーガンディメイク」だ。バーガンディのアイシャドウを使った印象的なメイクが評判になり、それ以降男子アイドルの間でもカラーメイクへのハードルが低くなっていったとも言われている。

イ・ホンギ『LEE HONGGI NAIL BOOK』

 一般人でも男子のメイク率が高いと言われる韓国だが、元々は熾烈な就職活動を有利にするための方法として大学生以上の20代を中心に行われていたもので、ルッキズムの影響が強くジェンダーレス的な価値観からのメイクというわけではなかった。しかし近年は美容YouTuberや男子アイドルからの影響で「男女の価値観の区別にとらわれず、きれいになりたい」という意志を持ってメイクをする10代の男子も珍しくなくなってきているという。(※1)

 男子アイドルのメイクの歴史も、流れを見ればいわば「女子ウケの歴史」ではあるが、現代の価値観の変化とともに若い世代の男子のロールモデルにもなってきている部分もあるようだ。日本以上に「男性が着飾ること」への目線が厳しかった韓国において、当初は日本のアイドルやビジュアル系などからの影響を受けていたスタイルが独自の流れを持ち始め、今では日本の芸能界や若者に影響を与えるようにもなっている。アメリカのショウビズ界でもハリー・スタイルズなどのジェンダーレスなファッションやメンズネイルが最近注目を集めているが、K-POP界隈では2013年にFTISLANDのイ・ホンギがメンズネイルブックを出版しており、日本のネイルクイーン・メンズ部門の授賞経験もある。世界的にジェンダーレスなスタイルが一般的となりつつある時代の流れも、K-POPのスタイルが世界的に注目される理由のひとつでもあるのだろう。

<参照>
※1:https://m.hankookilbo.com/News/Read/201811021781081713

■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
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