石井恵梨子のチャート一刀両断!
The Offspring、Liquid Tension Experiment......長年の沈黙破った海外バンドたちがチャート上位に
参照:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2021-04-26/
日韓のアイドルたちが目まぐるしく入れ替わる中、宇多田ヒカルの『One Last Kiss』がじっくりロングセールスを記録している最近のチャート。今週はどうかとチェックして、おっ、と声が出ました。5位にThe Offspring『Let The Bad Times Roll』、9位にLiquid Tension Experiment『Liquid Tension Experiment 3』。洋楽の、しかもロックバンドの作品を俎上に載せることも近年本当に少ないので、今回はこちらを取り上げます。
まずThe Offspring。懐かしいと感じるのはアラフォー世代でしょう。80年代からカリフォルニア州で始動したこのバンドですが、その名前が急浮上したのは1994年のこと。Bad Religionのメンバーが設立した自主レーベルから発売された3rdアルバム『Smash』でした。こちらは全世界で1400万枚(今では信じられない数字!)を売り上げたモンスター・アルバムとなり、同時期に『Dookie』でブレイクしたGreen Dayと共に、メロディックパンクを世界レベルのムーブメントに拡張させます。現在の「パンク=ポップなメロディと爽快な2ビート」というイメージは、それ以前にはありえなかったもの。パンクからやさぐれた不良性やアングラ臭を取り除いた功労者とも言えます。同じ流れの中から飛び出してきたのが日本のHi-STANDARDですね。
売れることは音楽家の成功を意味しますが、ことパンクシーンに限っては少し話が違います。インディで1000万枚以上を売り、その後堂々とメジャー進出したThe Offspringは、同じ出自のバンドたちを少なからず動揺させました。インディペンデントの活動を貫くべきだ。メジャーを目指すなんて間違ってる。あいつらはパンクじゃない一一。どこの世界にもあるやっかみとも言えますが、当時の風当たりはなかなか強かったものです。しかし、The Offspringは強かった。精神的にも戦略的にも。
パンクから不良性とアングラ臭を取り除く。それはThe Offspringが意識的にやっていたことでした。「10代の頃から〈オレたちはドン底を這っている、クソッタレ〉みたいな歌詞は書いたことがない」というようなことをかつてデクスター・ホーランド(Vo)は語っていましたが、自分の不満や鬱憤ではなく、キッズに気づきを与えるような社会的メッセージ(彼らの歌詞は皮肉とユーモアが強烈)を、ものすごく明るい(時には馬鹿みたいなコーラスを添えた)メロディに乗せて広く届ける。これが彼らの突出した才能でした。メジャー進出後の5thアルバム『Americana』は再び1000万枚のセールスを記録。人生で2回も1000万枚超えのセールスを叩き出したパンクバンドも、これまたThe OffspringとGreen Dayだけ。宝くじに2回当たるようなものですかね。すごいなぁ。