Official髭男dism、レアなセットリストで臨んだFCライブ 今だからこそたどり着いてほしい数々の名曲
Official髭男dismがファンクラブライブ『FC Tour Vol.2-The Blooming Universe ONLINE-』を4月18日に開催した。
事前にファンから演奏してほしい曲を募集し、メンバーの希望も盛り込まれたなかなか稀有なセットリストとなったが、それ以前にオープニング映像のステージ設営の本格的な様子にまず驚いた。チラッと名称が映ったスタジオの規模感を調べてみたら1000平米弱で、大きめのライブハウス並のスケールだが、そこにステージを設営したのだろう。ステージの全貌が見えた時に度肝を抜かれた。お馴染みのサポートメンバー(ホーン3管、パーカッション、キーボード)はもちろんのこと、照明はアリーナ規模の物量だ。これは昨年9月に開催した『Official髭男dism ONLINE LIVE 2020 -Arena Travelers-』に匹敵するぞ、と。レア選曲のファンクラブ向けライブと言われてイメージしていた、レア選曲を現在の演奏力にアップデートするという予想を(もちろんそれが主眼でもあるが)「それだけではないんですよ」と軽々超えてきたことに驚きの笑いを禁じ得なかったのだ。
藤原聡(Vo/Pf)に寄ったカメラ目線でスタートしたムードが往年のテレビショー的だなと感じていたら、松浦匡希(Dr)のマーチングドラムがライブの幕開けを告げる「Second LINE」でスタート。続く「異端なスター」もキーボードはサポートに委ねて藤原はハンドマイクで表現力を増したパフォーマンスを見せる。アレンジも重層的になり、今のライブアレンジで演奏できていることに喜びが隠せない印象。ブラスアレンジが豊かな「ESCAPARADE」はアンサンブルもさることながら、無観客なのがもったいないと感じてしまうほどの迫力のライティングでアリーナクラスの演出だ。また、「What’s Going On?」はモータウン・ビートというポップな曲調でありつつ、言葉の怖さを歌うナンバー。〈生き抜くことが 反撃のビートだ〉というフレーズに、それぞれが働きながらバンド活動をしていた頃の4人の心情を想像してしまう。そういう意味では仕事と時間に追われて失いたくない人間性について歌う「コーヒーとシロップ」もそうだ。前半の5曲にはメジャーデビュー前の20代前半の働く青年のリアルが色濃くにじんでいた。ヒゲダンのインディーズ時代からの人気曲であると同時に、このニュアンスは初期のMr.Childrenの楽曲にも通じる部分があると感じた。音楽性はポップだが、いかに4人が時代ときっちり対峙していたかが、今、より鮮明に理解できる。
サブスクリプション全盛の今、聴かれる曲がどうしても上位の人気曲ばかりに偏る傾向にある。しかし、ツアーや企画色のあるライブを開催できない状況の中、今回のような選曲のライブはファンクラブ向けのライブという理由だけではなく、過去の楽曲にたどり着いてもらうきっかけ作りには最適だ。もちろん、バンドの気持ちとしては投票してくれたファンに対する全力の返答なのだと思うが、むしろファン以外にも、不安や焦燥も詰まった、それでいてポップソングに昇華していた時代の曲を聴いてほしいと切に思った。
普通にMCをしているだけでも4人それぞれがテンポよくお互いにツッコミを入れたり、素直にどの曲がしみるか、など改めて曲作りへの思いが伺えるのだが、ファン投票以外にメンバーがどの曲を選曲したかも開陳。楢崎誠(Ba/Sax)は「ゼロのままでいられたら」を挙げ、まだ山陰にいた頃、藤原の家に集まり、デモをアレンジしていったエピソードを話す。松浦は「Second LINE」で、ライブの始まりに置いてみたかったという。小笹大輔(Gt)は1曲ぐらい最新のヒゲダンから入れたかったと「Laughter」を選曲。この曲を歌うとき、藤原は「人格が変わる」と、ロックアンセムの重厚さを自認。仮タイトルが“信頼”だったことも明かした。当の藤原が選んだ曲はこのあと演奏した「ダーリン。」。ポップなソウルだからこそエッジの効いたギターを盛り込むなど、全体像から自らのアレンジを弾き出すバランス感覚のアップデートを実感させてくれた。藤原曰く、同曲収録の『ラブとピースは君の中』をレコーディング当時は1日に4曲歌録りをしていたそうで、正直、「ダーリン。」は音源では疲れが見え、今の歌で聴いて欲しかったのだと話した。