重盛さと美が開花させる音楽的才能 自らのポジションを武器にした“リアル”のあり方

重盛さと美が開花させる音楽的才能 自らのポジションを武器にした“リアル”のあり方

 3月26日にEP『PENGUIN』を配信リリースした重盛さと美。彼女は昨年春、YouTubeにて「重盛さと美 feat.友達 TOKYO DRIFT FREESTYLE」を公開して以来、同映像が2400万回再生を突破し、次いで客演参加したOZworld「Vivide(feat.重盛さと美)」MVも200万回再生を記録。そして、自身がプロデュースした“あの友達”の希帆「uchiseiuchi」のMVも370万回再生を超え、代名詞だった“おバカキャラ”に絡めたパーティチューンで、今まさに“打てば当たる”存在になりつつある(2021年4月1日現在)。

重盛さと美feat.友達 TOKYO DRIFT FREESTYLE🍜🔥
OZworld / Vivide(feat.重盛さと美)【Music Video】
希帆feat.友達(重盛さと美) / uchiseiuchi 【Official Video】

 そんな彼女の楽曲について以前、「重盛のラップは“普通に上手い”」という紹介をしたのだが(参考:再生数2000万回目前、重盛さと美「TOKYO DRIFT FREESTYLE」なぜヒット? “意外性”と“セルフプロデュース力”が鍵に)、今回の『PENGUIN』からは、一人の自立したアーティストとしてその存在に向き合い、作品をレビューしていきたい。そう思えるほどに『PENGUIN』はサウンド面でも非常に作り込まれた一作だ。

重盛さと美『PENGUIN』
重盛さと美『PENGUIN』

 作品の概要を説明すると、トラックメイカーとしてFuzzy Mollyが参加。重盛は自身のリリックを書き下ろすほか、セルフプロデュースをする形でトラックの細かな部分にもオーダーを施していたようだ。また、これまでもオントレンドなノリを解釈してきたが、今回はさらに“歌モノ”のフロウを用いて、聴き手の心にもたれてくるような気怠さを感じさせる。作品の全体像としては、周囲のスタッフから心配の声が挙がったというが、無理もないだろう。この作品は終始、ダウナーな雰囲気を纏っているのだ。

 実際に、表題曲「PENGUIN」は歌詞にある〈飛びたいでも飛べないpenguin〉という心の鬱屈を歌ったものに。その制作背景には、昨年春に立て続いた芸能界の悲しいニュースがあるとのことで、まるで足元をふわりと覚束なくさせるような彼女のコーラスと、ヒーリングやスピリチュアル……というより、軽くホラーな印象を受けるトラックの一曲だ(※1)。そのなかで、トラップビートで特徴的なハイハットの出力を弱め、その存在をトラックにくぐもらせるなど、楽曲としてのアンニュイな雰囲気作りがなされている。

「PENGUIN」

 そこからドリーミーな印象を与える「GOOD night」は、重盛が自宅で寝ぼけていた際に無心で書き下ろしたという一曲。続く「L.M.G」を含めて、この2曲は彼女が耳元でぼそっと囁いてくるような、ASMR的なサウンドミックスとなっており、「L.M.G」ではボーカルに加えられた揺らぎも上手く作用している。昨今の主流であるトラップビートや、ネットラップ界隈で女性アーティストが多用するようなオートチューンともまた毛色が異なる音作りだ。特に、重盛の歌声は“普通の女の子像”をイメージさせるポップさを備えながら、その奥底に苦味や毒を同居させているようで、こうしたエフェクトとも相性のよさを感じられる。社会全体へのやるせなさを歌うリリックにも相応しい。

「GOOD night」
「L.M.G」

 4曲目は、自身の存在を大いに知らしめた「TOKYO DRIFT FREESTYLE」のリメイク楽曲「自粛中ラップ ~アーメンver.~ feat.友達」。当時のリリックはそのままに、今回は神聖なクワイアを織り交ぜたローファイ調のトラックに仕上げるなど、作品を通して最後まで内省的な方向性を突き詰めたものに。重盛の歌声も、流れるような滑らかさだが、決して盛り上がりすぎないところがポイントである。

「自粛中ラップ ~アーメンver.~ feat.友達」

 “何がリアルで何がリアルじゃないか”という言説は、もはや時代遅れの産物ではあるが、それでも重盛が自身の心情をつらつらと言葉にし、それらの音楽を友人らとの“思い出ツール”としても機能させる姿は、従来のヒップホップシーンで使われてきたのとはまた別の意味で“リアル”な心情吐露の方法といえる。庶民感覚があると言われることの多い重盛だが、やはり芸能界に身を置く者として、その人とは違うフィルターを通して描かれた「PENGUIN」のリリックには、自分自身の心にある不安定な状況への怖さに気付かされるようで、思わずハッとした瞬間もあった。

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