いま、ジャスティン・ビーバーは皆を肯定し続けるーー新作『ジャスティス』で果たした役目

 2015年の傑作『パーパス』と同作のツアーはジャスティン・ビーバーにとっての「贖罪」の期間だった。だが、背負った罪は重く、身も心もボロボロになった彼は、もはやキャリアの存続すらも危うい状態となる。そんな彼を救った「信仰」と現在の妻である「ヘイリー・ビーバー」への想い、それらを自身のルーツであるR&Bのサウンドで表現した2020年作『チェンジズ』はある意味で彼自身にとっての「救済」だったと言えるだろう。

 YouTubeで公開されているドキュメンタリー『Justin Bieber: Seasons』では、『チェンジズ』に至るまでの過程について、これまで公にされることのなかった持病やメンタルヘルスといったトピックについても触れられている。だが、同じくらい印象的だったのは、創作活動におけるジャスティン・ビーバーの積極性だ。闇に飲み込まれていた状況からついに脱した彼は、これまでにないほど創作意欲に溢れていた。それを証明するのが、前作からわずか1年で到着したニューアルバム『ジャスティス』だ。そして本作は、彼が自らの「役割」に明確に向き合った作品でもある。それは、ジャスティン・ビーバーがこの時代における「ポップスター」であり、人々にポジティブなエネルギーを与えなければならないということでもある。かつて自らを縛る十字架となった「ポップスター」という呪いを、彼は再び背負うことに決めたのだ。

 本作に至るまでの道のりは『チェンジズ』のリリースからわずか半年後の2020年9月、自身のInstagram上で「新たな時代(“new era”)」の到来を宣言した時に遡る。この時リリースされた2つの楽曲「Holy」と「Lonely」は、現在の彼を構成する2つの要素を見事に切り取った作品だ。ゴスペルサウンドを取り入れ、多幸感に満ちた「Holy」は自身の信仰心とヘイリーへの愛情をベースとした「光」を描いており、ピアノの音色と歌声のみで構成された美しくも苦しい「Lonely」は若くして成功した自身の孤独と壮絶な批判に襲われ続けた苦悩に満ちた「闇」を描いている。彼は救済を経て、この2曲によって今の「ジャスティンビーバー」という存在を改めて定義したのである。

Justin Bieber & benny blanco – Lonely (Official Music Video)

 このリリースを経て実施された、久しぶりのフルパフォーマンスとなった2020年のカウントダウン公演『T Mobile Presents: New Year’s Eve Live with Justin Bieber』では、「闇」の時期を象徴するキャリア初期のポップアイドル的な楽曲を、まさに「ポップアイドル」として全力で披露し、「Sorry」などのヒット曲で場を盛り上げる姿を見ることができ来た。それは、彼がかつて諦めた光景でもある。だが、「特別な曲」と語り「Lonely」を丁寧に歌い上げた今の彼は、「ジャスティンビーバー」という存在を受け入れ、今度こそ人々に喜びを与え、救いの手を差し伸べようとしていた。このライブにおけるクライマックスとして初披露され、『ジャスティス』にも収録されている「Anyone」は予測不能な未来を恐れながらも、それでも目の前にいる相手を絶対的に肯定する楽曲である。

Justin Bieber – Anyone

 そして彼は『ジャスティス』の制作へと向かっていった。本作に込められたテーマを象徴するのが、先行シングルとして発表された「Hold On」である。これまでに発表された楽曲は、あくまでパーソナルな内容がメインとなっていたが、この楽曲においてジャスティンが見つめているのは、紛れもなくこの曲を聴いている「あなた」の姿である。自分を見失ってしまいそうな、ボロボロになってしまった人々を目の前に、彼はかつての自分の姿を重ねながら全力でその手を差し出す。「誰かを必要としているなら、僕のことを頼っていいんだ」と優しく語りながら。

 本作において、ジャスティン・ビーバーは時にそこにある不安や孤独の存在をしっかりと確かめながら、それでも徹底して相手を肯定し続ける。それこそが今の彼の役目だから。

Justin Bieber – Hold On