米津玄師、『news zero』テーマソング「ゆめうつつ」に見る最新モード 楽曲で描く“夢と現実”
米津はこれまでも夢に関する曲は多く作ってきたが、一貫して穏やかなものとして描いてきたわけではない。「ペトリコール」、「ゆめくいしょうじょ」およびハチ時代の「沙上の夢喰い少女」といった曲では夢をどこか恐ろしいもの、不安なものとしても描いていた。しかし、現実世界が混迷を極めるにつれてこれまで以上に夢の中へと安寧を求めることが増えたのではないだろうか。その結実として「ゆめうつつ」が生まれたことは自然なように思える。
また、先述のインタビュー内で米津は2020年8月7日に開催したオンラインゲーム「FORTNITE」内でのバーチャルライブを「救いとして機能する」場所と表現した。一定の匿名性を保って集まれる、現実とは異なる世界。仮想空間だとしてもそこにある楽しさや喜びは不変であり、時には現実からの逃げ場所になるというこの実感もまた「ゆめうつつ」が内包している“ここではない場所”の安寧へと繋がっているように思う。
一方、現実世界における営みや他者との直接的な関わりを捨て去ったわけではない。ツアーが中止となったこと、そして自身のライブ観を語った2020年10月8日のブログの記事にも明らかだ。活動を重ねる中で、作り上げた音源がライブの場で“全く別のものとして再定義される”ことに価値を見出し、ライブツアーが制作へと影響を及ぼすという循環に意義を感じた彼だからこそ、現実の世界も同等に大切に思っていることは間違いない。
夢と現実、そのどちらの世界にも意味を見出して肯定する。「ゆめうつつ」には彼のそんなアティチュードが強く刻まれているように思う。2020年にコロナ禍で埋め尽くされた現実は過酷な状況が続く。刻一刻と変わりゆく世界のスピード感に疲れ果てることも増えた。そんな現実を伝える報道番組のエンディングにせめて夢の中では安心できるように、そしてまた現実を歩んでいけるようにと綴られたこの曲は力強く、そして優しい。生き辛さに寄り添い、赦しと共に眠りへと誘ってくれる意義深い子守唄のような曲だ。
「ゆめうつつ」のリリースを待たずに4月から放送のTBS系列ドラマ『リコカツ!』の主題歌「Pale Blue」を米津が書き下ろしたことが発表された。『STRAY SHEEP』を締めくくる「カナリヤ」で〈あなただからいいよ 歩いていこう最後まで〉と歌い上げた米津が、離婚をテーマにしたドラマにどのような楽曲を寄せたのか、とても興味深い。『STRAY SHEEP』の先で鳴らされる「ゆめうつつ」と「Pale Blue」。この2曲で米津はリスナーをどこへ導くのか、楽しみでならない。
※1:https://lineblog.me/yonezu_kenshi/archives/8450932.html
■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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