GRAPEVINE「Gifted」レビュー:“現実という光”の消えた先に見出したもの

GRAPEVINE「Gifted」レビュー

 この新曲をはじめ、新作に向けて昨年頭ころにはデモテープを作っていたそうだ。だが、曲を詰めていこうというところでコロナ禍のために作業が止まり、再開できたのは秋風が吹く季節。その間に起こったこと・経験したことが、曲に反映したと考えていいだろう。曲を作りバンドと演奏し観客に聴いてもらう、そんなありふれた現実が遠のいた日々は光が届かないような心持ちだったに違いない。ライブを楽しみにしていた人たちにとっても同様だ。確信のない情報に振り回されている状態を打破する、神をも超える天才が現れないものか。そんな戯言を言ってみたくなるのもわかるというものだ。

 もっとも、あながちこれが戯言とも思えないのは、コロナ禍で注目を集めたイスラエル出身の哲学者 ユヴァル・ノア・ハラリの主張と通じるものを感じるからで、〈薹の立った世界で/狩る者と狩られる者と/ここでそれを嗤っている者〉とは、いわゆる「ニューノーマル」のことのようだし、そんな経済重視の言葉遊びに〈さよなら〉するのがこれからの世界だろう。 

 その〈さよなら〉で気づくことがある。自分が信じていた光が明日も照らしてくれる平穏な日々ではないかもしれないが、過去の規範にはおさらばして、“Gifted”ーーすなわち新たな可能性を持った存在として進もうということ。Giftedは神から贈られたとする特別な才能を意味することが多いが、より広い意味でこの曲には使われているように思う。これから才能を開花させるべく生まれてくる命や新しく成長していく存在を、あるいは自分の中にある可能性を、“Gifted”と呼んでいるのではないだろうか。

GRAPEVINE - 「Gifted」(Official Lyric Video)

 GRAPEVINEは安易な共感を求めないし、安直に希望を持たせたりしない。けれども絶望をちらつかせてもそのまま置き去りにはしない。冷静に状況を見て自ら進むことが必要だと気づかせてくれる。〈若い私が見えないか〉という歌い出しに、彼らのデビューミニアルバムが『覚醒』というタイトルだったことを思い出した。

 もちろんこれは筆者が個人的に「Gifted」から感じたことにすぎず、この曲をどのように解釈するかは聴いた人それぞれに委ねられる。時を経たらまた受け取り方が変わるかもしれない。GRAPEVINEの楽曲が、そうした時間経過や解釈の変化に耐えうるものだと「Gifted」もまた示している。

※掲載時より一部表現を修正いたしました。

■今井智子
音楽ライター。『朝日新聞』『ミュージックマガジン』『ロッキングオン』『ロッキングオンジャパン』『EMTG MUSIC』などで執筆中。

GRAPEVINE「Gifted」

■リリース情報
GRAPEVINE「Gifted」
2021年3月17日(水)配信リリース
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