YUI、自然体な歌声で包み込む“あの頃” セルフカバー作に感じた進化
また2000年代の活躍当時は、一貫した媚びない表情と姿勢から感じた不器用さも魅力のひとつだった。活動休止を発表した際に語られた理由も大きい。「限界」を用いた率直な言葉は、彼女が真摯に追いかけた音楽家の姿と周囲の人々が期待する姿の乖離を意味していたと思う。
求めるものと求められるもの。私たちは大人になるにつれ、迎合や妥協を心得ていく。人生は、望んだ素材だけで作られるのではないのだと知る。しかし、そんな中で絶対に譲れないことだってある。YUIにとっては、それがきっと音楽への誠実さだった。変わらず歌を愛するために、多くを手放さなければならなかった。歌い続ける自分を守るために、バンドのボーカルという新境地を切り開いた。
時が流れ、発表された『NATURAL』で触れられるのは、アルバムのタイトルにもなった自然体のYUIだ。恋が始まる高揚感を歌った「CHE.R.RY」、夢を追いかける葛藤を描いた「GLORIA」、夏がもたらす可能性を綴った「SUMMER SONG」。聴いていると、YUIの音楽とともに駆け抜けた青春の日々を思い出す。そしていつかの自分が心に刻んだ切なさや痛みの存在に気づく。現在のYUIが歌声で包んでいるのは、あの頃の彼女と私たちなのかもしれない。
これまで多くのアーティストがセルフカバーを発表しているが、ほぼ同時期に活躍・活動休止したレミオロメンもその1組だ。2019年春にボーカルの藤巻亮太が個人名義で『RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010』をリリース。同作のトレイラーでは「レミオロメンの藤巻亮太として歌うんじゃなくて、藤巻亮太の中にあるレミオロメンを大切に歌おうと逆に思えた」と語っている。両者に共通しているのは、音楽を続けたくても続けられない大きな危機に見舞われた点。だからだろうか。どちらの作品でもそれぞれの楽曲を慈しむ温度感が心地良く、過去を塗り換えるのではなく内包するような優しさに満ちている。
『NATURAL』では、楽曲の感想や思い出のエピソードを募るハッシュタグ企画 「#YUI_NATURAL」を展開中。復活を心待ちにしていたリスナーから、すでに多くの投稿が寄せられている。「あの頃」と対峙する照れ臭さと愛しさが、セルフカバー作品にはある。
■平井みか
在宅編集者・ライター。情報誌、フリーペーパーの制作会社で編集及び広告制作に従事。現在はフリーでWebメディアを中心に活動中。
Twitter:https://twitter.com/mica_clip