乃木坂46が“最初の聖地”で見せたグループの最新形 各期生の思いが紡がれた『9th YEAR BIRTHDAY LIVE』

 ここからはイレギュラーな1年となった2020年3月から2021年2月の乃木坂46を振り返る映像とともにパフォーマンスが展開される。昨年唯一CDリリースされたシングルは、白石が卒業センターを務めた「しあわせの保護色」、今回、そのポジションに立ったのは大園だった。誰もが納得するキャスティングに、彼女は自然体で応えて、幕張が柔らかな光に包まれた。2期生の歴史が凝縮された「ゆっくりと咲く花」の最後、寺田蘭世が堀のお尻をポンと叩いて微笑み、堀も返す場面にはグッときた。

 「世界中の隣人よ」で医療従事者への感謝を語った飛鳥には「乃木坂46のエース」として責任の強さを感じさせた。2020年後半にメディアで「Route 246」を披露し続け、乃木坂46の灯を消さなかったことは責任感の強い飛鳥の大仕事だったように思う。

 映画『映像研には手を出すな!』で親交を深めたことで心を開放した飛鳥、山下、梅澤は「ファンタスティック3色パン」を歌唱。それぞれのキャラクターが憑依する一幕も。3人は幕張メッセに「最強の世界」を描いてみせた。「I see…」は4期生が乃木坂46の未来の扉を開けた曲。本来はナイーブな賀喜が弾ける笑顔で踊ることができるのは、仲間たちへの信頼感の強さによるところが大きいはずだ。

 アンダーブロック。「口ほどにもないKISS」は、センターを務める阪口珠美の背中を樋口が見守るフォーメーションだけで「物語」になっている。もはや全体ライブでも定番曲となった「日常」では、センターの北野日奈子が赤い炎を滾らせる。『アンダーライブ2020』でも導入されていた天井カメラアングルで熱さは1.5倍増しに。北野のパフォーマンスこそ乃木坂46の軸だ。

 本編最後は「僕は僕を好きになる」。センターの山下が「いまの自分には背負うものが大きすぎて。『逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ』と言い聞かせていました。そんな時に手を差し伸べてくださったメンバーやスタッフのみなさん、ファンのみなさん、たくさんの方がのおかげで『ひとりじゃないんだ』と実感することができました」「こんな私でも笑顔で迎え入れてくださって、居場所を作ってくださったみなさんのおかげで、自分のことをちょっとだけ好きになれたような気がしています」「みなさんに恩返しができるように、たくさんの笑顔と幸せを届け続けることを約束します」と語ってから歌う。

 山下は乃木坂46に居場所を見つけ、その中で本当の自分と出会うために漂流し続けてきた。どんな自分も愛せるようになった山下のパフォーマンスには、ドキュメンタリー『僕たちは居場所を探して』で久保が呟いたように多くの人を惹きつける求心力がある。そして、最後に山下はあざとくはにかんでみせた。

 アンコール1曲目は、全体ライブは最後の参加となる堀がセンターを務める「そんなバカな・・・」。堀は期生ごとに肩を組んで歌うと、再び2期生のもとに駆け寄り、最後は恒例の変顔で締めた。クールなパフォーマンスの印象が強い堀だが、コメディも得意なエンターテイナー。その背中で後輩たちにアイドルのあるべき姿を伝えた。

 最後の曲は1stバスラと同じく「乃木坂の詩」だが、そのフロントは山下、久保、梅澤にアップデートされていた。いまの乃木坂46こそ〈自分を信じて前へ進むんだ〉という歌詞が相応しい。過去も現在も未来も愛せるような、そして、乃木坂46に会いたくなるようなライブだった

■大貫真之介(おおぬき しんのすけ)
フリーの編集・ライター。アイドルを中心に、サブカルチャー全般を多くの雑誌に寄稿。『EX大衆』、『月刊エンタメ』、『日経エンタテインメント!』、『OVERTURE』などで坂道シリーズの記事を執筆。

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