「news23 MUSIC」プロデューサーに聞く、報道番組で音楽を扱う意義 小田和正との出会いが転機に

「news23 MUSIC」報道番組で音楽を扱う意義

違うフィールドで音楽をやってみたい

――そして今回『NEWS23』内で「news23 MUSIC」が新たにスタートしました。こちらはどういった経緯で始まったのでしょう?

服部:『NEWS23』は、筑紫哲也さんがMCだった時代(『筑紫哲也 NEWS23』)から頻繁に音楽を扱っていた印象があって。もちろん筑紫さんがそういう人脈をお持ちだったのも理由だと思うんですが、とにかくまず、『23』に僕はそういうイメージがあったこと。それから、海外のアーティストやハリウッドセレブを見ていると、社会的・政治的なメッセージに対して非常に積極的に関与していますよね。つまり、世の中の空気、世相に対して近いところにエンターテインメント全体があるなと思って見ていて。日本にはどうしてもその雰囲気がないというか、音楽と世の中が、少しずつ距離が離れているのかもしれないと思ったんです。だから、ニュース番組で社会的なテーマやメッセージを持った楽曲、アーティストを紹介することは、音楽文化に寄与すると言ったら少し偉そうかもしれませんが、そういうことに繋がるんじゃないかなと考えていました。それにここ数年、そういうメッセージを発信したがっているアーティストが増えている気もしていて。たまたま『NEWS23』のスタッフと一緒に仕事をする機会があったときに「『NEWS23』で昔みたいに音楽を積極的に取り扱ってみませんか? 全面的に僕がお手伝いしますから」と言ったらとんとん拍子に話が進んで行きました。

――てっきりコロナの影響もあって始まったのかなと思っていたんですが。

服部:以前から考えていたことだったので、たまたま今の時期になったというだけです。キャスティングの窓口をやっていた頃から「音楽番組とは異なる視聴者層がいるので、報道番組や情報番組に出てプロモーションすると、反響が大きいことがある」というレーベルやマネジメントの意見もあったんです。そういう声があったことも、違うフィールドで音楽をやってみたいという気持ちをさらに高めました。

――第1回はLittle Glee Monsterとペンタトニックスでしたが、キャスティングはどのように決めていくんでしょうか。

服部:まず、社会的な背景に根ざした楽曲制作をストレートに発信しているアーティストです。例えばLittle Glee Monsterさんとペンタトニックスさんだったら、もともとロスでレコーディングしようとしていた企画が、コロナで渡航がNGになってしまった。その時に、企画自体を止めるのではなくてコロナ禍に「それでもやろう」と実現させた情熱が「news23 MUSIC」のテーマと合っていました。それから「いま」を体現している方々でしょうか。例えば、数年前の米津玄師さんがそうですけど、SNSなどを通じて創作活動の腕を磨き、今までとは違うプロモーション方法で世の中に認知されていく、そうしたマーケティングサイエンス的な視点でもいいと思っています。昨年末のLiSAさんみたいに、ほかの作品と一緒に社会現象を巻き起こしたケースでも良いでしょうし、世の中と直接的・間接的に結びついている楽曲やアーティストを求めています。

――TBSの音楽番組では『CDTVライブ!ライブ!』も好調だと思いますが、差別化は考えていますか。

服部:『CDTVライブ!ライブ!』は、フルコーラスにしてみたり、アーティストにアイデアを求めてライブを実現したり、ほかにはないアプローチを試みていてとても野心的な番組作りに挑戦しています。ただ、カテゴリーとしては「音楽番組」のど真ん中であることは間違いありません。『CDTVライブ!ライブ!』で、あまりにもジャーナルな目線のVTRをパフォーマンスの前に置くと、違和感があるかもしれません。でも『NEWS23』は事件や事故のニュースが並んだ中に企画が入るから、ジャーナルな視点から入りやすいですよね。アーティストが「このテーマは重いかな、でもこの話をしてから聞いてほしいな」ということも『NEWS23』の中では言いやすい、という特徴はあるかもしれないです。

――これまで音楽番組を見ていなかった人が「news23 MUSIC」を見たり、逆にニュース番組を見ていなかった人が『NEWS23』を見るというパターンもありそうですね。

服部:あの時間にニュースを見る層の中には、普段音楽番組をご覧になっていない方もいると思うので、新鮮なものに触れていただける機会になるのではないかなという気はしますね。テレビ局も今、色々と変わっていかなければいけない時期に差し掛かっている。トライアルしなくてはいけないという素地ができていると思うので、このタイミングで、しかも偶然とはいえコロナ禍という特殊な状況の中で、ニュース番組の中で音楽を取り扱うことができるのは意義があると信じています。『news zero』や『報道ステーション』も音楽を扱っていますが、パフォーマンスはないんですよね。僕はインタビューを聞いたら、曲も聴きたくなるんですよ。だから、パフォーマンスを必ずつけるのはなるべくこだわりたいなと思います。その瞬間に、その話をしたあとに、どんな顔をして歌うのか、視聴者にとっても、非常にリアリティのあるパフォーマンスになりますし、そうなるように一緒に作っていきたいですよね。

――では最後に、服部さん自身が今後挑戦していきたいことは。

服部:これまでもやってきたことですが、良いサウンドを作りたいのが一つ。それと、社会貢献をテーマに番組を作りたいんですよね。欧米だと、自然災害や大きな事件・事故などがあると、1カ月も経たないうちに、ポール・マッカートニーやミック・ジャガー、ビリー・ジョエル、エリック・クラプトンなどが集まってチャリティコンサートをやるじゃないですか。それは、ショービジネスが社会の一部だとすごく自覚しているからこそだと思うし、行動を起こすことが彼らのミッションという意識が強いんだと思うんですよね。テレビも音楽も、より社会と近い存在であるべきだし、近いのであればもっとそれを公に「困っている人がいたらちゃんと一緒になって、社会の一員として動きたい」と言えるような番組を作りたいなと思いますね。日本は個人の寄付総額が国家の規模と比べると低いですし、隠れてチャリティ活動をする人も多いんですけど、「あの人もしたんだ」というのは、今よりも世間の人がちょっとお財布を開く動機付けにも繋がるかもしれませんし、問題意識もそこで広がっていくと思いたいです。

 この1、2年、テレビやマスコミでもSDGs(持続可能な開発目標)が急に騒がれるようになりましたよね。僕も遅ればせながら一昨年から色々と勉強をして、企画を作るときに参考にしていますけど、2年前ですら、その話をしても周囲から「SDGs?えっ、何ですかそれ?」という反応をされたこともあったり、何となくマスメディア全体がSDGsっていうものから取り残されている感じがして。やっぱりメディアも音楽も、ある程度敬意を持たれたり愛されたりする存在じゃなきゃいけないと思うんです。そういう意味では今のやり方だと世の中との結びつきが、ちょっと足りていないのではないかと自戒の念を込めて思っているので、コンテンツとして提案して成功できるといいですし、そういうことを普通に積極的にやれるような業界になれるといいですよね。

■番組情報
TBS『NEWS23』
月〜木曜よる11時
金曜よる11時30分

「news23 MUSIC」
2月23日(火)
出演:AI

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