『止まらない風ぐるま』インタビュー
Little Parade 太志が語る、“再スタートの決意”と音楽に向き合う自由な心 「過去を無理やり切り落とさずちゃんと連れていく」
Aqua Timezが解散をしてから約1年後、2019年10月にボーカルの太志が再び活動を始めることが発表された。プロジェクト名は、Little Parade。デザイナー/アーティストとして活動しているMakoto Tonoもジョインし、「情景が浮かぶ詩、絵、それらを合わせた音楽を制作し、作品やライブを披露していく」というコンセプトで活動してきた。
そして2021年1月27日、1stミニアルバム『止まらない風ぐるま』のリリースにて本格始動となる。2回目となるメジャーデビューを前にして、太志は今何を思うのか。『止まらない風ぐるま』に込めた想いや、アーティストとしての在り方について語ってもらった。(高橋梓)
「自分にできない部分を知りたいし、世界を広げていきたい」
ーーAqua Timez解散後、音楽から一時期離れていらっしゃいましたが、再び音楽活動をしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
太志:解散後半年くらいは、音楽と関係ないところに身を置きたいなという気持ちでいました。でも、自然と作りたいという気持ちになっていって。Aqua Timezとしてバンド活動や楽曲制作を20年近く続けてきて、自分の生活に足りないのはやっぱり音楽だなって思ったんです。他にやりたいことができたという感じでもなかったですし、何かきっかけがあったというより、時間がそうさせてくれました。
ーーそういった想いから、Little Paradeという形ができていったんですね。
太志:またイチからバンドメンバーを集めてという感じではなかったんですよね。今でも手探りな部分はありますが、視覚を刺激するアートと一緒に何か作れたらいいなという形で始まりました。
ーーそもそも、なぜ音楽とアートを融合するという形に至ったのでしょうか。
太志:僕はずっとSNSをやっていなかったんですが、やり始めてみたらいろんなものを投稿している人がいて。料理をアップしている人もいれば、絵を上げている人もいたり、海の写真、空の写真、自然の写真をアップしている人もいる。「みんなこうやって楽しんでいるんだな」って知って、自分も参加したいと思うようになりました。いろんな投稿を見ている時に、Tonoくんのイラストを見て直感的にいいなと感じて連絡をしました。
ーーLittle Paradeという名前の由来はあるのでしょうか?
太志:響きですね。Aqua Timezの時と同じく、深い意味を持たせたわけではないです。
ーー配信シングル「ユニコーンのツノ」や、風詩というユニコーンのキャラなど、Little Paradeに関わるキーワードの一つとして、「ユニコーン」があると思います。それはなぜなのでしょう。
太志:なんだろう……。解散して初めて作った曲が「ユニコーンのツノ」だったからでしょうか。「ユニコーンのツノ」では、自分の経験を歌っています。「1本ツノを生やして前に進みたい」という気持ちがあって、そのツノで前に進んだり、壁を突き崩したりしてきた。でも、人を傷つけてしまったこともあった。単純に「前に、前に」という気持ちだけでは進めないんだなという反省を込めて作った曲です。それと、ユニコーンの絵は自分が飼っている4匹の犬に似せてTonoくんに描いてもらったものですね。
ーーイラストを制作する時は、太志さんからTonoさんにがっつりディレクションをするのですか?
太志:ほんのちょっとだけですね。Tonoくんが持ってるインスピレーションをまず優先してもらって、「もうちょっとこうしてほしい」と伝えるくらい。ユニコーンもそうでした。リアリティのあるものだったら馬のようなキャラクターになると思うんですけど、うちのワンちゃんはシーズーなので「鼻はぺちゃんこに描いてほしい」みたいな。写真を送ってそれを伝えて、描いてもらいました。自分でイラストが描けるわけではないので、伝えるのは何となくのイメージです。
ーー自分の得意分野ではなく、あえてできない分野を選ばれるのはすごいです。
太志:逆にできない部分をやっている人のことを知りたいと思ったし、世界を広げていきたいと思って。広げ方を失敗したとしても、失敗から学べるかなとは思いました。自分にできない部分をTonoくんに補ってもらうことで世界が広がるのかなって模索しましたね。
ーーそう考えると、Aqua Timez時代とは異なることもかなりありそうです。
太志:やっぱり楽曲を作ることが一番ですから。絵のことを考えて作るというよりは楽曲ありきだと思っていて、そこに関しての作業工程は変わらないですね。絵やMVなんかも曲に合わせて作ってもらう感じなので。ただ、「作り方」の勝手は少し違うかもしれませんね。Aqua Timezの頃は作詞・作曲は僕がしていましたが、アレンジの細かいところは楽器陣に任せていました。今回はアレンジャーさんにお願いする形なので、バンドとはちょっと勝手が違うかなって。それにリモートでの制作になりますから、プリプロは基本ありませんでした。このプリプロの有無は大きくて、いつもだったらレコーディング前はスタジオにずっと入っていたんですけど、今回はでき上がったもののジャッジしかできないんですよ。プリプロがあれば、細かな部分も口で言ったり、身振り手振りで伝えられたりするんですけど。
ーーリモート故のやりづらさはありますよね。
太志:僕も周りも慣れてないので、やっぱりみんな手間取っています。たぶん今、こういう新しいやり方や文化を覚えている段階なんだと思います。ライブに関しても、今の時代フルバンドでできないっていうのはありますよね。でも音源自体はちゃんとフルバンドでやっているので、社会の状況が変わって収束した時にはフルバンドでツアーをやりたいですね。
「自分で自分を縛るのはもういいかなって」
ーー試行錯誤しながらでき上がった『止まらない風ぐるま』ですが、新たにメジャーデビューを果たす心境というのはいかがですか。
太志:新人という気持ちでやっていこうと思っています。バンドは5人いて成り立っていたし、メンバー同士の関係性も含めて好きでいてくれた人もたくさんいたと思うんです。メンバー同士の絆を含めて愛してくれる人がいるから、どのバンドも成り立っていると思います。でも、今回はそういったものが一旦無しになる。1人でやっていくことに慣れてないし、今までは無言でフォローし合っていたことにも気付きました。なので、今回はゼロからのスタートという気持ちでいます。
ーーアルバムタイトル『止まらない風ぐるま』にはどんな想いが込められていますか?
太志:Aqua Timezの1stアルバムが『風をあつめて』というタイトルだったので、「その続きをやっていくよ」という気持ちを込めました。自分にとってLittle Paradeは第二章だと思っているので、『止まらない風ぐるま』の中にはAqua Timezの頃とリンクさせている部分を散りばめています。
ーー確かに「色彩の行方」には〈千の夜をみんなで乗りこえて行けたのは〉という歌詞もあります。
太志:そうなんです。アーティストによっては完全にイチからやるっていう人もいますけど、僕は過去を消し去る必要はないという気持ちがあるので。やってきたことが出るのが自然かなって考えています。一番心地いいスタイルでやりたいので、自分にNGを課さないようにしていますね。NGが多い世の中なので、自分で自分を縛るのはもういいかなって。
ーーこういうケースで曲調もガラッと変えるアーティストもいますが、太志さんはあまり意識されていない、と。
太志:していないですね。曲の作り方のノウハウもたくさん持っているわけじゃないですし、何も変わらない。何を変えたらいいんだろうっていうくらい選択肢がない感じがします。以前は僕のデモをプリプロで作り込んでいて、今はアレンジャーさんとディスカッションしながら作っているので、そういう意味では多少違いますが、デモをふくらませるということには変わらないんです。なので、脱皮したいという気持ちより、また楽しい何かをしたいという純粋な気持ちが大きいですね。
ーーなるほど。では『止まらない風ぐるま』に収録されている6曲、それぞれの制作意図をお聞きしてもいいですか?
太志:「on the BLEACHers」は、Aqua Timezの頃から1コーラスあった曲なんですね。その続きをしっかり作りました。「こういう風にしてほしい」「ああしてほしい」という要望を一番分かってくれるのが大ちゃん(大介)だったので、元メンバーにアレンジャーを頼みました。元メンバーには頼まないというアーティストもいますけど、僕は彼に頼むべきだと思ったので……。おかげで、1曲目にふさわしいものになりました。
ーー『BLEACH』に関わる楽曲なのでしょうか。
太志:タイトルは一番最後につけたんですけど、僕は『BLEACH』という作品に育ててもらったという気持ちがすごくあって。「bleacher」は観客席、観覧席っていう意味があるので、「僕は今舞台にはないけど、『BLEACH』という育ててもらった場所を観覧席から見ている」という意味を込めました。
2曲目の「ユニコーンのツノ」は、解散してから一番強く思ったことをノンフィクションでそのまま曲に込めています。ファンタジーっぽく捉える人もいるかもしれないですが、自分の心の話、バンド時代の話をしています。どうしても進まなきゃいけないっていう強迫観念みたいなものがあったのですが、それよりも大切なものがあるんだって気が付いて。がむしゃらさだけでは進めないと感じていた時期に作った曲です。
ーー「色彩の行方」はまた色が違う楽曲ですね。
太志:これはメロディ先行でできた曲です。僕はロックも好きだけど、自分をロックミュージシャンと思っていないんですよ。ホップスが大好きですし、「色彩の行方」のようなポップなものを作るのが好きです。歌詞はメロディにふさわしいもので、“色”をたくさん使って書いてみようかなって。色縛りで歌詞を書くということをやったことがなかったですし、力を抜いて作れた楽曲でした。
その次の「群雨」は、解散後にSNSを始めてみての気持ちです。人と比べてしまうっていうのがすごくあるじゃないですか。みんな良いことしか載せないから、普段の自分と比べて勝ち負けを感じてしまう。そうするとすごく不幸な思いをしてしまうというか。みんなは幸せそうに見えるけど、実はそうじゃなくて。自分に言い聞かせる意味でも、「みんなからいいねって言われなくてもいいんだよ」と伝えました。
ーー「ウィスキー」はポエトリーリーディングの楽曲ですが、あえて歌わなかった理由があるのでしょうか。
太志:メロディってある意味ルールになっちゃうんですよね。譜割りの中でしか言葉を使えないっていう。でもそこを頑張る曲じゃなくて、本当にあったことを書き連ねることが一番の目的だったので。自分の記憶として大切なものを出したので、すごくパーソナルなものになりましたね。形にできてよかったです。