荻原梓が選ぶ、2020年J-POP作品年間ベスト10 アーティストの在り方が問われる1年に必要だった作品たち
さて、今年は社会的にも変化の年でしたが、音楽シーンとしても大きな変化が見て取れた一年でした。それを最も象徴する作品がYOASOBIの「夜に駆ける」です。この曲は最初にTikTokで火が付いたと言われています。その後各種ランキング上位を席巻し、一気にブレイクを果たしました。他にも今年発表の作品では、yamaの「春を告げる」やRin音の「snow jam」、りりあ。の「浮気されたけどまだ好きって曲。」なども同様の方法で注目され、いずれもほぼ無名の状態から爆発的な人気を獲得しています。従来とは異なるこのような形のヒットは、来年以降も加速しそうな予感がします。
また、こうしたユーザー主導の自然発生的なヒットには、世間のムードが如実に反映されているように思います。例えば、「春を告げる」にはどこか深夜のトリップ感覚があります。先の見えない不安がもたらす絶望と表裏一体のトランス感覚とでも言えばいいのでしょうか。「snow jam」にはありふれた日常や日々の大切さを噛み締めてる雰囲気を感じます。都会よりは地方のイメージです。「浮気されたけどまだ好きって曲。」のプライベートフォークな質感は、まさにステイホーム期間の孤独そのものです。3曲とも2020年を確かに表している作品だと感じました。
ところで……。
今年は割と「SMAP」がキーワードでした。そもそも今年の日本の音楽シーンは、香取慎吾のソロアルバム『20200101』の発売からスタートしたのです。アルバムは音楽性豊かで、若手ミュージシャンを積極的に起用したチャレンジ精神溢れるものでした。しばらく経って乃木坂46が「I see…」のMVを公開すると、“SMAP感”なる言葉がTwitterでトレンド入り。SMAPサウンドの立役者の一人である小森田実がワルキューレに提供した「ルンに花咲く恋もある」なんて曲も登場しました。SMAPフォロワーと呼び声の高いボーイズグループのCUBERSが発売したアルバム『MAJOR OF CUBERS』も力作です。このように各方面からSMAP再評価の機運が確認できた一年だったと思います。どれも今年の暗い気分を払拭してくれる作品でした。
そして、そんなSMAPの不朽の名曲「JOY」を生み出した津野米咲が亡くなったのも今年でした。国内音楽シーンを彩る紛れもない才能の持ち主でした。赤い公園が11月に発売したシングル『オレンジ / pray』を最後に挙げて、この場をお借りして心よりご冥福をお祈り申し上げます。
■荻原梓
J-POPメインの音楽系フリーライター。クイックジャパン・リアルサウンド・ライブドアニュース・オトトイ・ケティックなどで記事を執筆。
Twitter(@az_ogi)