荻原梓が選ぶ、2020年J-POP作品年間ベスト10 アーティストの在り方が問われる1年に必要だった作品たち

米津玄師『STRAY SHEEP』
嵐『This is 嵐』
星野源「うちで踊ろう」
藤井風『HELP EVER HURT NEVER』
折坂悠太「トーチ」
yama「春を告げる」
Rin音「snow jam」
りりあ。「浮気されたけどまだ好きって曲。」
香取慎吾『20200101』
赤い公園『オレンジ / pray』

米津玄師『STRAY SHEEP』

 アーティストの在り方が問われた一年でした。ライブが軒並み中止になり、作品の発売も延期されるなど、八方塞がりとも言える状況だった今年。何をすべきか悩んだアーティストも多かったと思います。そんな中、今年の国内の音楽作品でセールス的にも内容的にも存在感のあった米津玄師の『STRAY SHEEP』と嵐の『This is 嵐』の2作は、非常に対照的でした。

 『STRAY SHEEP』:タイトルを直訳すると“迷える羊”。転じて、どうしていいか分からず迷っている人を意味します。まさに未曾有の災禍に悩まされた2020年の私たちを言い表す言葉です。最後の曲「カナリヤ」はそんな迷える私たちにこれからの生き方の道しるべを指し示してくれるような一曲でした。

 『This is 嵐』:これぞ嵐と言える一枚。これまで彼らが積み重ねてきた活動の総決算です。米津が書いた「カイト」も収録されてます。ジャニーズのエンターテインメントが世界に放つ鏑矢的作品とも言えるかもしれません。とにかくポップで明るく楽しい気分になれました。

 時代の空気を敏感に察知した米津と、最後までポップスターで居続けた嵐。どちらが優れていて、どちらが善いのかという話ではありません。どちらも2020年には必要な作品だったと思うのです。両者ともが今年のアーティストの在るべき姿を象徴していたと思います。

 年間を通して強かったこの2作に対し、自粛期間中に存在感を放っていたのは、やはり星野源の「うちで踊ろう」でした。4月の始めにInstagramに投稿された約1分ほどの動画からスタートしたこの企画は瞬く間に他のSNSに波及し、時の首相が参加するにまで膨れ上がりました。そして緊急事態宣言が全面解除された5月25日のちょうどその夜に『おげんさんと(ほぼ)いっしょ』(NHK総合)が放送されます。初回放送から変わらない欄間額の“ばらばら”の4文字は、本を正せば彼の1stアルバムの1曲目のタイトルですが、まるでこの日のために掛けてあったかのようでした。「ばらばら」から「うちで踊ろう」へ……。ソロ活動10年の時を経たこの鮮やか過ぎるシナリオに今でも鳥肌が立ちます。

 一方で、コロナ禍以前に作られた作品が、コロナ禍中にリリースされたことで、より現在性が高まった例もあります。それが藤井風の『HELP EVER HURT NEVER』と折坂悠太の「トーチ」の2作です。

 『HELP EVER HURT NEVER』:「常に助け、決して傷つけない」と題された1stアルバム。その1曲目「何なんw」は、自分と、その自分を正しい道に進むよう説教したり嘆願したりするもう一人の自分とのせめぎ合いの歌です。つまり自分を律する自分を持つということ。遣る瀬ない出来事の多かった2020年に、生まれるべくして生まれた作品だと感じました。

 「トーチ」:元々は2019年の台風被害を受けて書かれた曲ですが、どこをどう聴いても2020年の歌なのです。今年感じた他人との距離感や社会に対する違和感がはっきりと浮かび上がってきます。と同時に、心の中にある大事な自分をこの曲で発見できた気がしました。

 『HELP EVER HURT NEVER』と「トーチ」、どちらも自分自身との向き合い方がテーマのように思います。目まぐるしく変化する社会状況の中で、冷静さを取り戻させてくれる貴重な作品でした。

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