『TREASURE BOX』インタビュー
空音が語る、自身へのヘイトを恐れず新たな表現に挑み続ける理由 「無色透明だからこそ何にでも染まれることを武器にしたい」
「みんなそれぞれが自分の正義を持つべき」
ーー「player」で〈やる事なす事/認められず 立てるミドルフィンガー/さぁどうするんだ 坊主〉と歌っていますが、これは昔の空音さん自身に向けて言っているようにも聞こえます。
空音:1ヴァース目は完全に僕自身に向けて歌っていますね。自分がやっていることって、いきなり芽が出るわけないじゃないですか。ゆっくり認知されて、確実に浸透していくのがベストだと思っているのですが、昔の自分はたぶんいきなり上手くいくと思っていたから、思うようにいかないことに怒っていたんだと思う(笑)。そういう意味では、『Mr. mind』リリース時にインタビューしてもらった時とは、かなり考え方も変わった気がします。変に尖ることなく、ありのまま音楽に向き合えるところにやっと立てたのかなと思いますね。
ーー10代にして、すでに次世代の人たちのことも考えているような歌詞内容もありますよね。
空音:それはもう、前作で「Daddy feat. yonkey」という曲を書いたことが発端ですね。「Daddy feat. yonkey」はチャンス・ザ・ラッパーの「Angels feat. SABA」という曲からの影響が大きいのですが、子供たちが犯罪を犯して有名になるのではなく、自分の個性を磨いてカッコよく生きていって欲しいという願いを込めて作り上げました。
僕、チャンス・ザ・ラッパーやビリー・アイリッシュ、サム・ヘンショウにもメールを送ったことがあるんですよ、「音源を聴いてください」って(笑)。そうやっていろんな人たちにメールを送り続けて、ちゃんと繋がれたのがBASIさんなんです。
ーーShun Marunoさんにトラックを依頼したのも、Twitterのヘッダーを見てセンスがいいなと思ったからとおっしゃっていましたよね。それで空音さんから直接メッセージを送ったと。
空音:そうなんですよ。今やShunくんは引っ張りだこですからね。これからも気になる人はどんどんフックアップしていきたいです。「我こそは」という人は、僕のところにもどんどん作品を送ってきてほしいし、忙しい時には聴けなくても、なるべく聴くようにはしています。僕と一緒に何かやりたいと思っている人は、遠慮せずに送ってきてください!
ーー今回、新たにチャレンジしたこと、苦労した楽曲などはありましたか?
空音:「Future skin」で、A.G.Oさんに初めてトラックをお願いしたのですが、ビートが難しすぎて最初はめちゃくちゃ苦労しました。全然歌詞が書けなくて、確かレコーディング前日に録音ブースで仕上げたんですよ。めちゃくちゃ苦労した甲斐あって、スタッフの中にはこの曲が一番好きと言ってくれる人もいますね。僕自身もすごく気に入っています。
ーー先ほども話に出ましたが、この曲や「MenU」のようなSFっぽい設定は空音さんの作風の一つですよね。どんなところから思いつくのですか?
空音:この曲はまず「Future skin」というフレーズが思いついて、そういうツールが存在する世界で人はどう動くんだろう? と思考を巡らせていきました。あり得ないものごとをテーマとしておいて、それについて考えるということを最近あまりしていなかったので楽しかったです。「Future skin」を作っているときは、『ソードアート・オンライン』や『Re:ゼロから始める異世界生活』のようなアニメを集中して観ていたので、そこから触発された部分もあると思いますね。あとは『スパイダーマン』。Future skinはスパイダースーツみたいなものだと思ってもらえば。
ーーあははは、なるほど。
空音:そういう、あり得ないような設定も、音楽の中ではあり得るようにできるんだ、ということが言いたかったのかもしれないです。ヒップホップを聴いていると、自分が強くなったような気持ちになったりするじゃないですか。同じように「Future skin」も、聴いているだけで自分が未来の世界にいるような、そんな気持ちになれたらいいなと思って作っていますね。
ーー「モウマンタイ」は、タイトルとは裏腹に上手くいっていない恋愛を歌った曲です。
空音:例えば〈君を疑わない/だけど 固く閉めていたはずの/蓋が見当たらないのさ〉の部分は、目の前にいる相手のことを信じたい、だけど何かモヤモヤする……みたいなアンビバレントな気持ちを言葉にしている。だから、曲名も内容とはチグハグな方がいいと思ったんです。
僕が書く恋愛ソングは「Love ya all」と「Room 103」以降、実体験を基にした曲ってあんまりなかったと思うんですよ。この曲も自分ではフィクションを書いたつもりだったんですけど、今こうやって改めて読み返してみると、自分のことを歌っている部分もありますね。〈アーティストじゃ心配 君のパパとママ〉の部分とか(笑)。現在進行形の恋愛というよりも、もっと過去のこと……『Mr.mind』の頃の恋愛を引っ張ってきて書いているかもしれません。
ーー「誰かの正義の歌 feat. yonkey」は、今の空音さんの偽りない真剣な気持ちを綴ったメッセージソングだと思いました。
空音:この曲をアルバムの締めに持ってくることがとても大切でした。コロナ禍で感じたことを、最もダイレクトに落とし込んだ歌詞ですね。SNSを見ていると、何が本当なんだろう? みたいな。一つひとつ真偽を確かめていかないと、何も信じられない世の中になっていますよね。結構、若い子たちは影響力のある人たちの声に引っ張られてしまっているような気がします。自分が好きなアーティストの言ってることを盲信してしまったりするじゃないですか。大人はもっと自分の頭で物事を考えられると思うんですけど、この曲は、それに対して警鐘を鳴らしたつもりなんです。「俺には俺の正義があるけど、みんなもそれぞれ自分の正義を持つべきだよ?」って。それで〈君だけの正義があるだろう〉という言葉を入れたんです。
ーー「大人」である僕の世代からすると、空音さん世代の方がよっぽど情報をフラットに受け取っている気がしますよ。
空音:確かに若い子の方が柔軟に考えられるところはあるのかもしれないですね。いずれにせよ若い子が未来を作っていく鍵を握っているわけだから、それを忘れないでいて欲しいんです。
ーー〈僕ら 死ぬまで/死ねない理由を探す旅へ〉というラインは、どんな気持ちで書いたのですか?
空音:そこはもう純粋に、リスナーのみんなに「死なないでほしい」という気持ちです。それぞれ事情があって「今すぐこの世からいなくなりたい」と思う子たちもいるかもしれないけど、そこまで思いつめなくとも、生活の中で苦しいことつらいことってたくさんあるじゃないですか。親や学校、友人や社会に対して思うこと、つらいことなどはいろいろあると思うんですけど、そこから逃避するための楽しみ、つまり「死ねない理由」をどれだけ見つけられるかにかかっている気がするんです。
ーー「生きる意味を探そう」と言われると大袈裟だなと思うし、「意味がないと生きちゃダメなのか」という気持ちにもなるんですけど、「死ねない理由を見つけよう」と言われると「確かにそれがあるうちは生きてみるか」と思えるかもしれないですね。
空音:ほんと、簡単なことでいいと思うんですよね。「今すぐ死にたい。でも明日まで待てば空音の新譜が出るらしいぞ?」とか(笑)。そういう「死ねない理由」になるような楽しいことを、これからも与えられる存在でいたいです。
■作品情報
空音『TREASURE BOX』
2020年12月16日(水)発売
ダウンロードはこちら
<収録曲>
・scrap and build [Produced by yonkey]
・only one [Produced by illmore]
・Future skin [Produced by A.G.O]
・MenU [Produced by RhymeTube]
・player [Produced by maeshima soshi]
・BLOOM feat. TENDRE [Produced by TENDRE]
・モウマンタイ [Produced by Shun Maruno]
・宝箱 [Produced by MADLISK]
・誰かの正義の歌 feat. yonkey [Produced by yonkey]
通常盤(CD)¥2,500+ 税
ビクターオンラインストア限定盤(CD+Tシャツ)¥4,200+税
予約はこちら
■ツアー情報
『空音 -TREASURE BOX TOUR』
3月6日(土)仙台 Live Studio Ripple
OPEN17:00/START18:00
3月11日(木)札幌 cube garden
OPEN18:15/START19:00
3月13日(土)東京 LIQUIDROOM
OPEN17:00/START18:00
3月20日(土・祝)大阪なんば Hatch
OPEN17:00/START18:00
3月24日(水)福岡 BEAT STATION
OPEN18:00/START19:00
3月26日(金)名古屋ボトムライン
OPEN18:00/START19:00