King Gnu、マスにもコアにもアプローチする“多層的な音楽性” 「白日」以降も群れを増やすバンドの圧倒的な力

 King Gnuは、常に両極端の要素が同居しているバンドだと思う。ポップさと芸術的な側面、荒々しさの中にある軽妙洒脱な余裕、端正に構築されたグルーヴで放つロックバンドのダイナミズム、凝ったサウンドの中で歌われるストレートな心情描写。言うなれば常田と井口理の歌声のハーモニーですら両極端な性質を持っている。この両極端な要素の同居から生まれるオリジナリティがKing Gnuの位置づけを特別なものとし、新鮮な音楽を求めるリスナーを惹きつけるのだ。その期待を裏切ることなく、コロナ禍を経てリリースされた現時点での最新シングル『三文小説 / 千両役者』も、顕著に両極端な要素が同居する作品となった。

King Gnu - 三文小説

 「三文小説」は、冒頭から井口の美しい歌声が紡がれ、楽曲全体をオーケストレーションが包み込む、厳かな響きを持つバラード。一方、サビで打ち鳴らされるダイナミックなドラミングや、常田が入れ続ける低音コーラスなど、楽曲にKing Gnuらしいパワフルさを与えている。「千両役者」は一転してスピーディで攻撃的な1曲。ライブでの熱狂が目に浮かぶ、瞬発力と爆発力を兼ね備えたナンバーだ。歌舞伎をモチーフにした歌詞も良いギャップになり、伝統芸能とミクスチャーロックの交差という新鮮な響きを持つ音楽を生み出した。歌詞の内容もKing Gnuがのし上がったスターダムについて歌っているようにも聴こえるし、未曾有の危機に見舞われた誰しものギリギリな心情を代弁しているようにも取れる。

 聴きはじめはどちらかの曲に惹かれていたリスナーも、繰り返し聴くうちに双方の魅力に気づくという、優れたパッケージが『三文小説 / 千両役者』だと思う。そして聴き込んでいくうちにきっと、“多層的な音楽性”にも辿り着くはず。流行音楽として聴き始めたリスナーも知らず知らず深い部分にまで引きずりこまれ、自身の嗜好の幅までも自然に押し広げられてしまう。常田のプロデュース力とバンドの圧倒的な地力によって創出される様々な要素を隠し持った音楽によって、いつしかバンドごと夢中にさせてしまうのだ。

King Gnu - 千両役者

 最後にもう1点。彼らの音楽をダイレクトに体感できるライブも、2019年の快進撃に繋がった要因だ。年末、初のアリーナツアーがキャパを絞り、ようやく開催された。しかしKing Gnuのライブへの飢餓感を持つリスナーはまだ大多数いる。ライブという最大の武器を存分に振るえない状態である以上、その制約が解き放れた時の彼らの求心力は想像し得ない。King Gnuが率いる群れは、まだまだ拡大を続けるはずだ。

■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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