The Birthday、爆音のメロディで紡ぎ出す“今を生きているという希望” 新曲が美しく鳴り響いたNHKホール公演レポート

The Birthdayが鳴らした“爆音の希望”

 前半のハイライトとなったのが、1stアルバム『Rollers Romantics』から披露された「春雷」。10分にわたってバンドの演奏を堪能できる名曲で、ブルージーなフジイのギターソロに酔いしれた。次の「プレスファクトリー」もそうだが、語るような言葉選びで淡々と風景を歌い上げるこうした曲は、最近のライブではむしろ新鮮な輝きを放つものになってきているかもしれない。演奏から滲み出る“渋み”も文句なしにカッコいい。さらにステージ後方に「The Birthday」のスカルロゴが入ったバックドロップが降りてくると、「24時」で後半に向けて一気にブーストをかける。歯切れのよいフジイのギターと、うねるヒライハルキのベースの絡み合いが抜群で、続く「Red Eye」でもセッションアレンジや各々のソロパートが火を吹く。これがNHKホールの音響で聴けるのはなんとも幸せだ。

 そして、まさか「BITCH LOVELY」が聴けるとは思わなかった。ゆったり聴かせるレゲエ調の前半と、転調して一気に駆け抜けていく後半のコントラストがとにかく気持ちいい。近年だと例えば、アグレッシブなハードコアパンクからメロディアスな転調を見せた「DISKO」にも顕著だが、前半から後半へ大胆に転調し、しかもそれを自然な流れとして聴かせるソングライティングがバンドの十八番になっている。すなわち、単にジャンルとして取り入れるだけでなく、敬愛と経験によってオリジナルなミクスチャーを作ることができるということであり、「BITCH LOVELY」にもロンドンパンク好きなチバらしいレゲエ愛がたっぷり込められている。この曲が体現する、“今この瞬間を生きているという実感”こそ、我々がロックを聴く理由、ライブに行く理由じゃなかろうか。根拠はないけど希望はある、だって今生きてるんだからーー続く「1977」「OH BABY!」「COME TOGETHER」もそんな想いを体現するような楽曲たちだ。

 あっという間に時間はすぎ、いよいよ本編の締めくくり「オルゴール」である。暗転してキラキラとミラーボールが輝き出す演出は幻想的で、本当に止まった時間のなかで聴いているかのようだった。ハルキによる全力のサビのコーラスもグッときた。永遠だと思っていたものも実は脆く、オルゴールの音も止まってしまったーーどうしても今の時代の空気とリンクせざるを得ないが、最後の〈魔法のオルゴール鳴らした〉にはスッと胸をなでおろしたような安心感を覚える。新しいメロディが紡ぎ出される限り、希望の光は絶えないのだ。演出含め、そのことを身をもって体感できたのがよかった。そしてアンコールでは定番の「くそったれの世界」から「声」へ続く。客席から声を届けることはできないけど、〈声 聞こえるか 声〉〈声 届け 声〉のサビをその場にいた全員が心のなかで大合唱していたはず。最後は「なぜか今日は」で一気にフィナーレへ。今だからこそのメッセージと音楽愛に満ちた、素晴らしいライブだった。

 ライブを生業にするロックバンドにとっては依然として厳しい情勢が続くが、だからこそThe Birthdayのようなバンドが歌ってきたことの意味がますます浮き彫りになる。世界がどん底に堕ちたのは今に始まったことじゃなく、昔からそうだった。そんななかでもわずかな光を頼りに希望を紡いできたのがThe Birthdayの歴史であり、30年以上バンドを続けているロックミュージシャンたちに通ずることなのかもしれない。『ヒマワリ/オルゴール』から始まったThe Birthdayの新たなタームは、来年以降どんなアルバムに着地するのだろうか。そんな未来に想いを馳せたくなった『GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR 2020』。クリスマスの夜にはこの日のライブの模様がWOWOWで放送される。素晴らしい一夜を、ぜひもう一度体感してほしい。

■セットリスト
The Birthday『GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR 2020』
2020年11月18日(水)@NHKホール

1. ヒマワリ
2. 青空
3. KISS ME MAGGIE
4. SOMBREROSE
5. DOOR
6. ROCK YOUR ANIMAL
7. 木枯らし6号
8. 春雷
9. プレスファクトリー
10. 24時
11. Red Eye
12. BITCH LOVELY
13. 1977
14. OH BABY!
15. COME TOGETHER
16. オルゴール
-encore-
くそったれの世界

なぜか今日は

The Birthday アーティストHP

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