『エンタの神様』、『ゴッドタン』、『キングオブコント2020』……お笑い番組から紐解く“歌ネタ”の変遷

『キングオブコント2020』で歌ネタはメッセージ性の時代に?

 歌が上手いだけではなく、考察や批評をしたくなるほど味わい深い歌ネタも出てきた。『キングオブコント2020』(TBS系)は、前年のどぶろっくの優勝もあってか歌ネタが大半を占めた。歌ネタが被り過ぎた傾向自体は「どうだろう」と感じるが、ただ、現代の芸人たちが歌ネタとコントを混ぜ合わせるとこれほどメッセージ性があらわれるものかと驚きがあった。

 ジャルジャルの1本目「野次ワクチン」は、競艇場でのライブに招かれた歌手が、事務所社長から楽屋で「野次対策」を講じられるもの。「何を言われても歌い切る練習」をさせられる。ありきたりな日本語の歌詞を口ずさむ後藤に、しつこく野次る福徳。後藤は、野次が気になってなかなか歌いきれない。共通言語を持つ者同士ゆえに噛み合わず。物事が順調に前に進まないという奇妙な捻れを訴えた。

 ニッポンの社長は、上半身が人間で下半身が馬の男が、顔が馬で胴体から下が人間の女性に一目惚れ。恋に落ちた瞬間をあらわす楽曲がHYの「AM11:00」だ。男は日本語で歌い、女は理解できない咆哮で応じる。言葉が通じ合わないデュエットでありながら、心のなかの歌でふたりは結びついていく。

 ニューヨークは、結婚式で楽器演奏の余興をすることになった男が、余興レベルを超える凄技の数々を披露。豊富な練習量を経て、言葉にできないほどの、溢れんばかりの祝福を音楽に託す。

 歌ネタではないものの、空気階段は1本目で口寄せが上手くいかないイタコの話、決勝ネタで定時制に通う美女と滑舌の悪いオジさんの恋愛模様を披露。言葉が通じることは決して当たり前ではなく、そんななかで想いが通じあえば、それは奇跡なのだという感動的なコントをやりきった。

 それらを踏まえた上でジャルジャルの決勝ネタは絶品。ひとりの泥棒(後藤)が、緊張が高まるとタンバリンを鳴らす相棒(福徳)のせいで捕まりそうになる。「うるさい」と口すっぱく注意されても、福徳は聞かない。タンバリンを打ち鳴らし続ける福徳を一度は見捨てそうになるが、次の瞬間、後藤は福徳をグッと抱きしめる。もう言葉はいらないのだ。そしてタンバリンの音が鳴り止んだとき、『キングオブコント2020』の数々の歌ネタが回収された気がした。

ハライチが「この時代に替え歌!?」と驚いた

 歌の上手さ。本格的なサウンド。深読みさせるメッセージ性。歌ネタは進化と洗練の時期を迎えた。逆に高い完成度の揺り戻しが来ているのか、吉本新喜劇・島田珠代は勢いと捨て身感で押し通す「パンティーテックス」や「おばちゃんダンス」でブレイク寸前。彼女の歌ネタからは、かつての“あらびき芸”的なものの復権を感じられる。

 11月2日オンエアの『ワラリズム』(フジテレビ系)では、ニューヨーク、チョコプラら技巧派が揃うなか、電気代の支払いの苦しみを「残酷な天使のテーゼ」の替え歌を披露した横山天音がハネた。あまりのベタさに意表を突かれたのか、ハライチの「この時代に替え歌!?」という感想が象徴的だった。

 そういった原点回帰な歌ネタのほか、ロバート・秋山竜次のナイロンDJ、土佐兄弟がカーテンを引く音で奏でるパリピ曲など、アイデアや目の付けどころの良いものがこれからブームを巻き起こす予感だ。

 丸山礼ほか、歌ネタで触れておかなくてはならない芸人はまだたくさんいる。しかしそれは別の機会に持ち越すとして、多様性が生まれまくっている歌ネタというジャンルは、今後ますますおもしろくなっていきそうだ。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter

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