『君を救えるなら僕は何にでもなる』インタビュー

黒崎真音が明かす、未曾有の事態に直面したアニソンシンガーの胸中 「歩みを止めるわけにはいかない」

今の時代にもリンクする“絶望の中にある希望”を描いた歌詞

ーーそれも意外というか。昨年、アルバム『Beloved One』をリリースしたとき、自分のポジティブな側面に気付いたとおっしゃっていた(参考:黒崎真音が語る、音楽で育まれた“自分らしさ”と“歌への愛情”「みんなと愛が共有できるようになった」)。

黒崎:そうですね。

ーーそして「君を救えるなら僕は何にでもなる」でも絶望的な状況を歌っているようで、ちゃんと前向きな言葉、強い言葉で聴き手を救済している。だから黒崎さんは最近、こういうモードなんだなあ、と思って聴いていました。

黒崎:あっ、歌詞の内容を考えることはあまり大変じゃなかったんですよ。今回の曲がオープニングになっているアニメ『禍つヴァールハイト -ZUERST-』はゲームが原作なんですけど、アニメの楽曲を担当させていただくことが決まったとき、私自身ゲームをやってみたんです。そうしたら、そのキャラクターたちがすごく前向きで。“光”というものに支配された絶望的な世界……その“光”を浴びると人ではないものになってしまう世界なのに、その中で戦っている人たちはすごくポジティブ。どのキャラクターも「絶望的な世界でもオレたちは生きていくんだ」という決意を秘めていたんですよね。それを見て「こういう世界でも希望を忘れないからこそドラマになるんだな」ということをあらためて確認できて。だから私も絶望だけが残るような曲ではなく、すごく救われる曲にしたいな、と思って書いただけといえばそれだけ。原作から受けたインスピレーションをそのまま言葉にしてみたんです。

ーーでは作詞のどこにご苦労なさったんでしょう?

黒崎:音数が多い上に、展開の多い曲なところに(笑)。「これだけ派手な構成の曲にはどんな言葉がはまるんだろう?」とか「日本語だけだとイカツくなりすぎるし、聴いている人はしんどいかもな」「英語や造語を入れようかな」みたいなことを考える作業がこれまでにない珍しい作業だったんです。

ーーでもそのご苦労がちゃんと歌詞に刻まれていますよね。日本語で抽象性の高い風景を歌っておいて、キメのフレーズとして〈open your eyes now〉、〈no more war〉とまっすぐなメッセージを英語で歌っている。だからより気になるし、さりとて、おっしゃるとおり聴いていてしんどくならないし、押しつけがましくもない。日本語詞と英詞のバランスのよさはすごく気になりました。

黒崎:確かに強いメッセージは英語で伝えたほうがより伝わるのかな、とは思っていました。全部の英語詞が私の一番伝えたいことなので、そこは感じ取ってほしいな、と思っています。ただ響きが面白いから英語にしたわけじゃないよ、って。

ーー先ほど原作ゲームをプレイしたときに受けたインスピレーションが作詞の種になった、とおっしゃっていましたけど、アニメ版の『禍つヴァールハイト -ZUERST-』はゲーム版の前日譚。また別の物語ですよね。

黒崎:確かに“光”というものが禍々しいものになっていくまでを描いた作品ではあるんですけど、台本を拝見させてもらったとき、一番根っこにあるテーマはゲームと一緒だな、と感じたんです。政治の世界はグチャグチャになっていて、そこに暮らす人たちはみんな貧困状態で、窃盗団と兵士の衝突があったりもするんだけど、みんな絶望はしていない。そこはゲームとリンクしているので、作詞の作業に入ってからアニメの台本を見せてもらったんですけど、それを読んだからといって歌詞がブレるということはなかったですね。あと、ゲームにもアニメにも、今、私たちが生きている現実と照らし合わせてみてもすごくリンクする部分があるな、と思ったんですよね。

ーーそこはまさに伺いたかったんです。新型コロナ禍で世界中の誰もが大変な時期だからこそ、その状況の中にも希望を見出す歌を歌いたかった面もあるのかな? って。

黒崎:作詞していたのは4~5月頃なんですけど、その頃まさにコロナ禍が本格的になったというか。いろいろなことを自粛しなきゃいけないんだけど、まだまだなにもわからない状況……みんなが今以上に困惑していた時期だったし、私ももちろん困惑していたので、今、私が思っていることや、今の私が置かれている状況っていうのも歌詞に乗せたかったんです。

ーー黒崎さんはこれまでアニメソングを作詞するときは、アニメの世界を第一にしつつも、そこに個人的な心情を重ね合わせるようにしているとおっしゃっていました。

黒崎:はい。

ーーところが今回はもっと射程が長いというか、黒崎真音個人のありようだけでなく、今の世界のありようも切り取ろうとしている。これって実はご自身にとって新しい表現なんじゃないのかな? という気もするんですけど……。

黒崎:それはすごく思いました。歌詞を書き始めたばかりの頃は、こういう状況の中にあってなお音楽を作ることが許された私が発するメッセージと、『ヴァールハイト』の世界とに重なるものが見つけられたら最高だな、と考えていたんですけど、自分の無力さに気付かされてしまって……。未知のものを前にしたとき、私は家族や友だちやファンの方になにをしてあげられるのかな? と考えていたんですけど、結局なにもしてあげられないなって感じた瞬間があったんです。

ーーその無力感が歌詞を書かせた?

黒崎:そうですね。『ヴァールハイト』に出てくるキャラクターたちも自分が無力なことに気付いた上で、それを乗り越えるために戦っていて。彼らの姿と、同じように無力さに気付かされてはいるものの「こういう状況でも音楽に希望を持ってもらえたらいいな」「音楽に楽しみを見出してほしいな」と思っている今の私の姿が重なってからはスラスラと書けました。

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