『LIVE’20「DECIDE THE CASE」』レポート

lynch.がファンとの絆を確かめ合った配信ライブ 濃密な二日間の模様を振り返る

 近年の楽曲で構成された1日目に対し、『LIVE'20「DECIDE THE CASE」CASE OF 2004-2012』と銘打たれた9月11日。バンド初期から中期までの年代を冠していることから、最近はあまりライブで聴けなかった楽曲が飛び出すのではと期待に胸が躍る。1日目とは打って変わって荘厳なSEの中、メンバーが昨日と違った衣装で登場。息を呑むような緊張感の中、ポツリポツリと鍵盤の音が響き「LAST NITE」からスタート。昨日よりも引き締まった低音と艶やかな歌声が画面の向こうに浸透していく。ピアノの余韻を切り裂くように「I’m sick, b’cuz luv u.」が繰り出されると、インディーズ時代からのOFFICIAL BOOTLEGのライブ映像と今この瞬間の映像がミックスして映し出されていく。リアルでなくとも皆に楽しんでもらおうという粋な演出に思わず笑みが零れる。初期からの楽曲と映像、そして現代のサウンドという対比がバンドの圧倒的な進化の歴史を感じさせる。

 ライブの定番曲で空気が温まったところに「I BELIEVE IN ME」、「JUDGEMENT」とメジャー移籍前後の楽曲を畳み掛ける。明徳(Ba)の加入が発表されたインディーズファイナルのO-EAST公演から10年、当時より格段に増した色気がこちらまで香ってくるかのようでもあり、特効が弾けた瞬間の葉月の無邪気な笑顔は少年を感じさせるようでもある。画面の向こう側に向かって「まだまだ暴れますよ! 準備はいいですか!」と呼びかけ「THE FATAL HOUR HAS COME」へ突入。間奏部分では「さぁ、誰が好きなんだ、教えてくれ!」と画面が5分割に。各々カメラへサービスショットを繰り出す。髪を結んだ玲央(Gt)が投げキッスをした瞬間、同じくこの配信を見ている“上手の住人”達が悶えていることが容易に想像がついた。

 「どんどん届けてくれよ、届くからな!」とコメントを求めつつ、「全員ラリってるか!」と「EVILLY」で視聴者を狂わせていく。さらにドーパミン全開の観客を酔わせるかの如く「lizard」、「melt」とダークな空間を展開。妖しげに揺らめく炎とアングラな空気を醸し出す映像エフェクトで観る者を引き摺りこんでいく。連れ込まれた闇の中では「forgiven」が優しく観客を迎え入れ、深みのある歌声と低音が客人を撫で回す。続く「Ambivalent Ideal」では語るような歌とシャウトの美しいコントラストで、これまでの夜空を漂うような世界を燃え盛る情景へと塗り替えていく。炎の傍らで声を紡ぐ葉月の姿は口元を血で汚した悪魔さながらである。

 ライブも折り返し地点に差し掛かったところで「あなたが今どこにいるか知りません! 家なのか、車なのか、会社なのか分かんねぇけど! そんなもん関係ねぇ全部ぶっ壊せ! 行くぞ!」と「59」、「-273.15℃」を解き放つ。先刻までのエロスから一転、剛毅なサウンドで殴り掛かる。「一緒に死にてぇ奴いるか!」と「ALL THIS I'LL GIVE YOU」、「MIRRORS」とテンポの速いアッパーな楽曲を続け、攻撃の手を緩める気配は微塵もない。「無観客でもこんなに楽しいってことは、皆がいた頃はもっと楽しかったんだなと思い出します。この期間があとどれだけ続くかまだ分かんないけどさ、その会えない寂しさを全部! 男も女も関係なく吹き飛ばせるほどのセックスしようぜ!」と昨日に続き「pulse_」へ。“ヤリたい”コールが聞こえない寂しさを忘れさせてやる、と言わんばかりの力強いプレーが炸裂する。「ごちそうさん!」の後は「これだけ離れていても俺らとお前らの絆を歌います!」と「ADORE」へ突入。〈共に叫び謡う“お前ら”の元で〉という力強い叫びが、観る者それぞれの距離を超えていった。何度も感謝を伝えながら1日目に引き続きメンバー全員が今の心境を語り出す。

「lynch.のライブはフロアにいる皆と作ってきた(玲央)」
「自分で空けた穴は自分で埋めるって皆と約束したんで(明徳)」
「皆がいてくれてこそのライブだから(悠介)」
「音楽に対するモチベーションが下がりきった子が周りにいたら、皆でケアしてあげてまた連れてきてほしい(晁直)」
「皆がいらっしゃらないのでね、寂しいんですよ(葉月)」

 メンバー全員“皆”と口にする。彼らも昨今の情勢で様々なダメージを追っているはずなのに、まず何よりもファンのことを想っている。この人達についていけば大事にしてもらえるという安心感や、まだ見ぬ夢を一緒に見に行こうと言葉にしてくれる信頼が、15年という月日をかけて多くの人を魅了してきたのだろう。そして様々な要素を柔軟に取り入れながらも腹に据えた一本の信念は決して曲がらず、常に前だけを見続けているその姿に皆が憧れるのだろう。配信無観客ライブというイレギュラーが、どれだけlynch.がかっこいいバンドなのかということを再認識させてくれたところで「A GLEAM IN EYE」が濃密な二日間のラストを飾った。

 二日間を通じ、初の配信ライブを観終えて配信でもこれだけ暴れられる、という新たな可能性を提示してもらえたように思う。地方に住んでいたり、やなかなかライブに行けない人にとって、配信ライブという選択肢はとても良いものだと思う。だが、やはりlynch.のライブは生で観てフロアで暴れてこそ、と飢餓感が増したファンも多かっただろう。このレポートを読んでいる“You”は対面と配信、どちらでヤリたいですか?

■タンタンメン
自身の活動から得た経験を元に音楽記事を執筆する元バンドマンのフリーライター
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lynch.公式サイト

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