加藤ミリヤは世代を超え愛され続けるーー瑛人、yama、LiSAら参加の初トリビュート盤に込められた、大いなるリスペクト

 デビュー15周年イヤーを迎えた加藤ミリヤが、10月28日にリリースした初のトリビュートアルバム『INSPIRE』の内容がすごい。新世代シンガー・瑛人とyamaが歌い、川谷絵音がプロデュースを手掛けた「Love Forever」を筆頭に、YOASOBIのikuraとしても活躍する幾田りら、LiSA、kizuna AI、春茶、アイナ・ジ・エンド(BiSH)、中島美嘉、仲宗根泉(HY)、阿部真央、AI、青山テルマ、清水翔太ら、そうそうたるメンツが大いなるリスペクトを込めながら独自の解釈で稀代の名曲たちを新たに生まれ変わらせている。この参加アーティストのラインナップを見るだけでも、加藤ミリヤの楽曲がいかに幅広い世代に影響を与え、愛され続けてきたかは明白であろう。

瑛人×yama「Love Forever」(『INSPIRE』-加藤ミリヤTRIBUTE-より)

 そして、本作における各曲でのカバーアプローチも実に多彩だ。例えば、加藤ミリヤと清水翔太がコラボし、“ミリショー”なる愛称とともに多くの人に愛された「Love Forever」は瑛人とyamaがデュエットし、サウンドプロデュースを担う川谷絵音が手がけた洒脱なトラックの上で“ヤマエイ(瑛人が命名)”バージョンとして新鮮な歌声を響かせている。幾田りらは「Aitai」をカバーし、最新の感性でリプロダクトされたアレンジとともに、“会いたい”思いを痛いほどに詰め込んだ詞世界を切ない声で表現し尽くす。他にも熱く重いロックアプローチが光るLiSAによる「WHY」や、リラックスしたムードを携えたアプローチに加藤ミリヤとの信頼関係が滲む清水翔太による「愛は変わらず」など、聴きどころは満載。そんな個性の強いアーティストたちのフィルターを通しても、なお色濃くにじみ出てくる加藤ミリヤならではのオリジナリティにも、きっと驚かされることになるはずだ。

清水翔太「愛は変わらず」(『INSPIRE』-加藤ミリヤTRIBUTE-より)

 2004年9月、加藤ミリヤは高校1年生でメジャーデビューを果たした。BUDDHA BRANDの「人間発電所」をサンプリングしたデビュー曲「夜空」は、その大ネタ使いは元より、それに負けないスキルフルで存在感のあるボーカルでシーンに大きな衝撃を与えた。サンプリングをJ-POPに持ち込んだことも含め、ヒップホップ/R&Bという自身のルーツをアイデンティティとするアーティストスタイルはデビュー当初から揺るがないものとなっていた。

 2005年にはECD「ECDのロンリーガール feat. K DUB SHINE」へのアンサーソングとして「ディア ロンリーガール」をリリース。ティーンエイジャーのリアルな思いを綴ったこの曲は女子高生を中心に圧倒的な支持を集め、そこから彼女は女性の思いを代弁しながらガールズカルチャーを牽引する、カリスマ的な存在となっていく。また、孤独を感じながら愛を強く求めていく姿も、加藤ミリヤの楽曲では常に重要なファクターであり、多くの女性に共感を与えてきた。年齢を重ねる中で愛に対しての向き合い方が徐々に変化していき、“愛されたい”から“愛したい”へ変遷していく流れさえも楽曲に余すことなく落とし込んできた。だからこそ彼女の楽曲はあらゆる世代に刺さるのであろうし、聴き手もまた彼女と共に人生を歩んでいこうと思えるのだ。

 海外の音楽的トレンドを敏感にキャッチし、それを昇華することで常にリスナーに新鮮な驚きを与えてくれるのも、加藤ミリヤらしいところ。時にはロックやフォークといったサウンドアプローチを試み、想像を上回る新たな表情を見せてくれたりするから堪らない。ヒップホップ/R&Bという太い幹が存在するからこそ、自由奔放に枝葉を伸ばせるということなのだろう。その進化し続ける音楽性こそが、ジャンルを超えたあらゆる人たちに愛される秘密でもあると思う。トリビュートアルバム『INSPIRE』では、そんな加藤ミリヤの魅力を踏まえつつ、それらを多彩なアーティストたちがどう料理しているのかに注目して楽しむことをオススメしたい。

幾田りら「Aitai」(『INSPIRE』-加藤ミリヤTRIBUTE-より)

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