「NIGHT ON THE PLANET –Broken World-」インタビュー
大森靖子の“言葉”に対する意識 全編英語詞に挑んだ経緯、独自のファッション観も明かす
冬にリリースされる大森靖子のニューアルバム『Kintsugi』に向けた配信の第4弾は、なんと全編英語による歌詞の「NIGHT ON THE PLANET –Broken World-」。英語でも日本語と変わらぬ歌唱を聴かせる大森靖子にも驚かされる。2019年にテレビアニメ『ブラッククローバー』のオープニングテーマとしてリリースされた「JUSTadICE」は海外でも人気を集め、Spotifyで1,200万回以上も再生されているが、今回はどんな反響を呼ぶのだろうか。また、「NIGHT ON THE PLANET」はkeisuke kandaのワンピースからインスピレーションを受けたということで、今回は大森靖子のファッション観についても聞いてみた。(宗像明将)
言葉の持っている表情ってもっと豊か
ーー「NIGHT ON THE PLANET –Broken World-」は全編英語詞で驚きました。去年の「JUSTadICE」が海外のリスナーにも人気で、Spotifyで1200万回以上再生されていますが、あの海外での反響には驚きましたか?
大森靖子(以下、大森):実感はないですね。週1くらいで海外の方が「『ブラッククローバー』の曲はまた大森靖子がいい。機会があったらまた書いて」ってメッセージをくれて、気に入ってくださっているんだな、とは思っていましたが。日本のカワイイカルチャーが好きな層とはまた違う層が聴いてくれている感じ。アニメの主題歌は「当たれば反響がすごいだろう」と思って頑張って作ってはいたけど、聴いてもらえて嬉しいですね。
ーー海外のリスナーは、基本的には歌詞の意味がわからないわけですよね。
大森:歌詞の意味より先に、メロディがかっこよかったからじゃないですかね。あと、日本語の言葉の発音の感じがおもしろく聴こえるんだと思う。外国人がしゃべってる日本語かわいい、みたいな。
ーーそもそも大森さんは英語は得意なんですか? 以前ニューヨークに行っていましたが、向こうで会話はできました?
大森:全然していない。日本語で「ありがとう」って押し通した(笑)。
ーー「Thank you」も言わない(笑)。英語詞はどう制作したんですか?
大森:日本語詞で作った曲を大沢伸一さんにアレンジしてもらったら、「英語で歌ったらかっこいいだろうな」って感じのアレンジで。それで、意訳家さんに英語詞にしてもらいました。英語の発音指導もしてくれるイケイケなお兄さんでした。
ーー大森さんの歌詞のイメージは、英語でも伝わりそうですか?
大森:歌い方とかで伝わるかな。でも、自分が日本人的である認識もあまりないし。
ーー「JUSTadICE」の反響を受けて、海外ウケを狙って英語詞の曲を作ったというわけでもないんですね。
大森:うん。でも、ちょっと日本の考え方って窮屈(笑)。限界がきているところもあるので、このご時世だけど世界に目を向けて音楽活動をしていきたいというのは正直ある。
ーー今って海外にファンはいるんですか
大森:たまに。前、ロシア料理を食べに行ったら、すごくかわいいロシア人に「あなた大森靖子でしょ? ロシアにいた時からずっと聴いていた!」って言われてびっくりしました。
ーーロシアで! 海外で売っていきたい気持ちはあります?
大森:ありますね。ニューヨークの地下鉄で、「PINK」を弾き語りする撮影をしたんですよ。そしたら通りすがりの人が、ちょっと遠くにいる佐内(正史)さんに「Thank you.」って言って。「私に言うんじゃないんだ」って(笑)。でも、そういうのかっこいいな、って。海外でのライブは韓国のカフェみたいな場所でしかしたことがないけど、感情をすごく顔に出して表現してくれて、「伝わるんだ」って。今の日本って全事象をひとつの言葉に暴力的にまとめて、違うことのように描く力が生まれてしまっていると思う。そこから解放されたほうが伝わるんだろうな。今までは家を出たくないから日本からも出たくなかったけど、それがなくなってきた今、めっちゃ海外に行きたい。
ーー今の日本人は言葉に囚われすぎている?
大森:強い言葉ひとつに囚われすぎているし、その表情が単一化されやすい。言葉って、笑って言うのと悲しそうに言うのとでは意味が違うし、つけるメロディによって意味が変わる。言葉の持っている表情ってもっと豊かなのに、そこを察してもらえていなくて言葉がかわいそうに思えてきて。日本語の意味を知っている人よりも、日本語の音や表情を楽しんで聴いてくれる人のほうが、むしろ日本語を理解できているんじゃないかな。
ーー言葉の意味合いに囚われて、歌の表情が二の次にされてしまう、と。
大森:「この言葉をこういう風に歌うと意味が変わるからおもしろいよね」って、真逆の言葉を隣に置いてみたり、1番と2番で違く聴こえるように作ってきたつもりだけど、それを楽しむ余裕が今はないのかな。まあ、ないよね(笑)。
ーー英語での表現で意識したのはどんなところですか?
大森:かわいく聴こえればいいやって(笑)。それは日本語でもずっとやってきたけど、リズムのハメ方、スピード感の出し方とかは英語にも適用できるし。
ーー生々しい歌詞を溢れそうな情感で歌っているのも「かわいい」?
大森:うん、そういうほうがかわいいと思う。嘘の声で歌うんじゃなくて、「こういう当て方かわいくない?」みたいな発明を提示したい。
ーー「PINK」みたいに叫ぶように歌うのも「かわいい」のひとつである、と。
大森:うん。映画『愛のむきだし』の満島ひかりさんみたいな。あれも「PINK」っぽくて超かわいい。
ーー日本語や英語で区別する意識でもないんですね。
大森:つんく♂さんみたいな、日本語でもリズムが立つような歌い方を自分流にアレンジして、それを英語詞にも適用した感じ。結局つんく♂さんって「日本語をどう英語っぽく歌うか」だから。そこで感情を乗せて歌えるように一語一語整理して、自分の歌い方を作って。つんく♂さんはヌメッとさせる感じだけど、私は破裂音を破裂させてカラッとさせたい。
ーー「NIGHT ON THE PLANET」のアレンジはMONDO GROSSOの大沢伸一さんで、ベスト盤『大森靖子』の「PINK -MONDO GROSSO Remix-」以来の顔合わせですね。今回はバラードですが、どんなコミュニケーションをしたんですか?
大森:大沢さん、私のTwitterや新曲もすごくチェックしてくれていて。「『NIGHT ON THE PLANET』、泣きながら編曲しました」ってDMくれたり。
ーーすごい。大森さんは自分の曲で泣くことはありますか?
大森:ありますよ。カラオケで歌って「めっちゃいい歌詞じゃん」とか(笑)。
ーーどうしてこの曲のアレンジを大沢さんに頼もうと思ったんですか?
大森:夜のどん底を作れるイメージがあったから。
ーー世間的には、大沢さんは渋谷系のクラブミュージックの文脈で華やかな夜のイメージがある気もします。
大森:私の中にはないかも。その時代に東京にいなかったからだと思うけど、一番鋭利な夜って感じ。その文脈の人の誰とも似てなくないですか? その時にそこで音を鳴らしていたというだけの認識。そこに自分と親和性もあると思って。
ーーそして、「NIGHT ON THE PLANET」は神田恵介さんのブランド・keisuke kandaのワンピース「ナイト・オン・ザ・プラネット」から取ったそうですね。
大森:展示会に行ったら『タクシードライバー』(1976年の映画)の主人公みたいな格好をした恵介さんが、「このワンピースの『ナイト・オン・ザ・プラネット』は、『タクシードライバー』のイメージ」って言っていて、つまずく長さの丈とか、すごい綺麗だと思って買って。でも、ワンピースよりも、恵介さんが部屋の中なのにずっとグラサンをつけていた印象のほうが残っている。『タクシードライバー』、久しぶりに見ようっと。
ーー売春をさせられている女の子が、主人公のタクシードライバーの男と出会って、女の子を利用する男たちを主人公が殺していくストーリーですよね。
大森:そう。主人公の狂って殺すヒーローの役、それを女の子のからだで現代で自分がやってる気持ちです。あと、最近はまどマギ(『魔法少女まどか☆マギカ』)のアルティメットまどかに自分を投影しすぎてやばい。女の子が悪いやつと契約をして魔法少女になる話で。悪いやつは魔法少女を魔女にして、その時に出る汚れたパワーを吸い取るのが目的で。主人公のまどかは知らぬ間に何回も人生を繰り返して、毎回絶望の果てに死を迎えていて。結局まどかは「誰も魔法少女にならない代わりに自分の命を消す」と決めてアルティメット化して地球を抱きしめる、みたいなシーンがあるんです。その気持ちになる。壮大なネタバレ(笑)。
ーー『タクシードライバー』にしろまどマギにしろ、大森さんが絶望していることになる(笑)。
大森:そうです(笑)。
ーーその絶望感がkeisuke kandaのワンピースと呼応するみたいな?
大森:まぁ、そうなるよね。女子側に共感はできる人はいるけど、そこに共感性を持ってなんとかしたい人なんて世の中にそんなにいるわけない。誰もわかってくれなくて当たり前で。別にそれが絶望とは思わないけど、それを殺そうとされると「わーっ!」ってなる。仕事なり態度なり、「こうすることが生きやすい良い未来に繋がっている」というのはわかってもらえないんだろうな、って。
ーーMVにも、映画『タクシードライバー』の世界観を落とし込むそうですが、どんなものになる予定ですか?
大森:車のスクラップ工場でワンテイクで撮る予定。話の後ろから撮っていって、それを逆再生してふつうに見えるようにする。
ーーそんな大変な映像を、なぜワンテイクで?
大森:バカだから(笑)。でも、大丈夫だと思う。
ーー監督は誰なんですか?
大森:二宮(ユーキ)がやります。二宮を育てよう計画。いろんな人と関わってもらって大きいことにチャレンジしてもらいたい。関わる人はみんなそうであってほしいけど。
ーー二宮さんが総指揮をした、ZOCの10月1日の中野サンプラザでの『AGE OF ZOC』の配信、すごく良かったですよ。
大森:ありがとうございます。実はZOCのライブ、ひとつ消えているんですよ。5人になって、(雅雀)り子ちゃんが入る前の5人でのライブをちゃんと形に残そうと撮ったんですけど、準備不足でボツにした。全部そのせいではないけど私のソロと比べるとカメラワークが慣れていなくて、ZOCで見せたいものを共有できていなかった。その反省点をめちゃくちゃ言った(笑)。そしたら歌割りや場所も全部覚えてきていて。あと、今までライブをしてきた感覚で5人はやっぱり少ない、って話になって。それでみんなでり子ちゃんに「入ってください」って頼みに行って。それからのサンプラ。だからそのライブを評価してもらえて良かった。