田中ヤコブ『おさきにどうぞ』連載 第2弾
田中ヤコブ×堀込高樹(KIRINJI)対談、互いのソングライティングを語り合う “独特であるため”に貫くアレンジや作詞の美学とは
「偉人の功績をコピーするのではなく、自分のなかに取り込む」(田中)
田中:高樹さんの作る曲って、常に遊びが残っているような気がして、そういうところも含めて完璧だなと思うんです。あえて隙を作っているように感じるんですが、実際はいかがですか?
堀込:あまり考えたことはないんですけど、「これじゃちょっと真面目すぎるな」と思うことはあるかな。例えば曲を聴いた人から、「これは◯◯のオマージュですか?」みたいことを聞かれることがよくあるんですけど、僕はただ「ちょっといいな」と思ったから真似しただけなんですよ。例えばThe Beatlesが好きで、The Beatlesと同じようなことをしたら、たぶんそれはオマージュなんだろうけど、そういうつもりは全然ないんですよね。
田中:おこがましいですけど、今の話にはすごく共感してしまいました。参照元を崇拝しすぎて同じことをやるのって、僕は先人の思想をそもそも否定することになるような気がしていて。偉人の功績をコピーするのではなく、自分のなかに取り込むってことが大事なんじゃないかなと。
堀込:そうですね。先ほどの隙についていうと、僕の場合は歌唱もあるんじゃないかな。例えば、ここで平井堅さんみたいな人が歌えば正真正銘のAORができ上がる気がするんだけど、僕の歌はあくまでも素人の延長にあるものだから、やっぱりその違いはありますよね。田中さんは声が柔らかくて、割とキーが高いじゃないですか。それもあって(ボーカルの録音を)ダブルにしてるのかなと思ったんだけど、どうなんですか?
田中:おっしゃる通り、一本で歌うとすごく薄くなっちゃうんです。個人的には倍音のある声が好みなんですけど、自分の声はべったりしちゃうので。
堀込:ダブルにするとふわっとするよね。僕も好きなのでわかります。
田中:それに声を楽器として扱ってるところもあるので、歌詞にそこまでこだわりがあるかっていうと、実はそうでもないというか。
堀込:そうなんだ。田中さんのボーカルは柔らかいけどこもってないから、歌詞がすごく聴き取りやすいなと思いましたよ。メロディと一緒になったときにすごく耳に残りますよね。〈“なんとかなる”とかなんなの?〉(「小舟」)」とか(笑)。
田中:それは嬉しいです......! 僭越ながら、歌詞にあえてストレートな単語をぶっ込むところは高樹さんの影響が大きいので。
堀込:僕の歌詞ってそんな感じでしたっけ......(笑)。あ、でも「いつも可愛い」とかは確かにそうかもしれない。それこそ〈いつも可愛い〉って、すごくありきたりな言葉だけど、あまり歌詞には出てこないなと思って、それで曲にしようと思った記憶がありますね。
田中:それこそ高樹さんの歌詞は耳に残るんです。〈親父の通夜でからまれる〉(「奴のシャツ」)とか。思わずギョッとするんですよね。
ーー確かにKIRINJIには、パンチラインから膨らませたような楽曲がありますよね。最近だと「雑務」とか。
堀込:まさに「雑務」はそう。〈雑務〉という言葉の響きだけで押し通そうとして作った曲ですね。
田中:もしかして「Pizza VS Hamburger」もそうですか?
堀込:あれは小学生の息子が着てるTシャツにピザの怪獣とハンバーガーの怪獣が啀み合ってるイラストが載ってて、「これは面白いな」となって書いた曲です(笑)。
ーー日常に転がってるものがインスピレーションとなって曲が生まれると。
田中:確かに高樹さんの歌詞は、卑近な例から歌に昇華していくような作り方が多いような気がしてました。それこそ普段の生活で気になってるものをピックアップしてるのかなと。
堀込:常にメモはとってるんですよ。最近だと......(スマホ内のメモを見返して)「未開封のCDは愛の証」と書いてありますね(笑)。これはアイドルに対する男の子の歌にしようかなと思ってメモしたものなんですけど。
田中:すごい、当たり前だけどめちゃくちゃKIRINJIっぽい(笑)。
堀込:他にも、なんで片足だけ靴擦れするんだろうと思ったときに、「靴擦れする足/しない足」と書き残したり(笑)。それこそ「靴擦れする足/しない足」って、誰もが経験することじゃないですか。僕はそういう「いちいちそれ言わなくてもいいじゃん」みたいなことを拾いたくなるし、そこから何か意味深な読み込みができたり、いくつかの解釈ができるようにしたくなるんです。聴いた人の人間性がわかったりするから、そういう歌詞が面白いかなと思ってます。「なるほど、あなたはそういう人間なんだね」みたいな。
ーー歌詞は作り手ではなく、聴き手の人間性を表すもの?
堀込:そうですね。たとえば新曲を出したときにエゴサーチとかすると、なかには「どうすればそういう解釈になるの?」みたいな反応もけっこうあるんですよ。でも、それはもう僕の責任じゃないから(笑)。僕自身はそんなことを書いてないし、それは曲が聴いた人の心を映す鏡になってるということですからね。
ーー田中さんはどのように歌詞を書くんですか?
田中:歌詞についてはけっこう行き当たりばったりかもしれません。鼻歌を歌ってるときにメロディにハマる瞬間が時々あって、それに近い単語から広げてみたり。
堀込:〈high-risk no-return〉(「TOIVONEN」)とか、たぶんそのやり方から出てきた歌詞でしょ?
田中:あ、完全にそうです!
堀込:そんな気がしました。鼻歌がうまくハマったんだろうなって(笑)。
田中:いつもエセ英語で歌ってるので、英語詞のところはほぼそれですね。
ーー最後に、田中さんのようなソリッドなロックを鳴らす若者が今の時代に登場したことを、高樹さんとしてはどのように捉えていますか?
堀込:田中さんのように荒削りなものを出すハードコアな人たちって、僕はいつの時代にも確実にいると思ってるんです。それこそ60年代の音楽が好きな人はそれ以降の時代にもずっといるわけで。ただ、そもそもThe Beatlesは宅録じゃなくて、超ハイファイじゃないですか。今はそれを継承しながら、60年代よりもさらにダーティな音でやってる人たちがいる。それって懐古趣味とも違うんですよね。田中さんはその最新版という感じがします。
田中:ありがとうございます。自分はそもそもただの音楽好きというのもあって、音楽をやってる方に反応していただけるのが嬉しくて。答え合わせじゃないですけど、ある種の正しさが担保されたような気がして、今日は本当に嬉しかったです。
対談前の事前質問&回答
田中ヤコブ
【Q】音楽活動を始めるに至ったきっかけを教えてください。
【A】親が好きだった。野球部をやめてやることがなくなったから。
【Q】自身の音楽活動において、最も影響を受けたアーティストを教えてください。
【A】真島昌利、ジェフ・リン
【Q】ソングライティングにおいて最も気にかけていること、こだわっていることを教えてください。
【A】自分が良いと思える曲を作る。
【Q】ここ最近の愛聴盤(もしくは曲、アーティスト)を教えてください。
【A】Kaede(Negicco)『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』、オフコース
【Q】対談相手のミュージシャンの第一印象を教えてください。
【A】遊びを残せる完璧主義者
堀込高樹(KIRINJI)
【Q】音楽活動を始めるに至ったきっかけを教えてください。
【A】家にギターとカシオトーンがあって、なんとなくイジリ始めました。コードを鳴らしながら適当に歌ってみたら曲っぽくなったので、「できそうだな」と思って作り始めました。
【Q】自身の音楽活動において、最も影響を受けたアーティストを教えてください。
【A】バート・バカラックなど
【Q】ソングライティングにおいて最も気にかけていること、こだわっていることを教えてください。
【A】直感で閃いたものを大事にすること。
【Q】ここ最近の愛聴盤(もしくは曲、アーティスト)を教えてください。
【A】チャーリー・ヘイデン「En la Orilla del Mundo」(『Nocturne』収録)、キース・ジャレット「Country」
【Q】対談相手のミュージシャンの第一印象を教えてください。
【A】ギターが独特
顔を隠しているのか、隠しているわけではないのか?
宅録か、宅録ではないのか?
【Q】田中ヤコブ『おさきにどうぞ』で気に入った曲を教えてください。
【A】「BIKE」「膿んだ星のうた」「小舟」
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■リリース情報
田中ヤコブ『おさきにどうぞ』
2020年10月14日(水)¥2,200+税
<収録曲>
01.ミミコ、味になる
02.BIKE
03.cheap holic
04.LOVE SONG
05.えかき
06.Learned Helplessness
07.THE FOG
08いつも通りさ
09.どうぞおさきに
10.膿んだ星のうた
11.TOIVONEN
12.小舟