「Midnight Call feat. kojikoji」インタビュー

ぜったくんに聞く、“これからのコミュニケーション”に思うこと kojikojiとの「Midnight Call」、人生を楽しむ秘訣も語る

 町田市在住のラッパー /トラックメイカー・ぜったくんが、シンガーソングライターのkojikojiをゲストボーカルに迎えた新曲「Midnight Call feat. kojikoji」をリリースした。

 本作は、新型コロナウイルスの感染拡大により、ステイホームを余儀なくされた男女による「恋愛一歩手前」のやりとりを描いた甘酸っぱいデュエットソング。前作『Bed TriP ep』でも聴かせていたメロウでドリーミングなトラックと、心地よくも一度聞いたら耳から離れなくなるメロディが印象的だ。ぜったくんとkojikojiがお互いの気持ちを探りながら、「かけ引き」ともいえない不器用な会話を続けている様子は思い当たるフシありありで、思わずキュンキュンしてしまうこと必至だ。

 前作のタイトルが象徴するように、コロナ前にもベッドルームで楽曲制作を行なってきたぜったくんだが、この半年間で何か変化はあったのだろうか。コロナ禍での過ごし方や、コロナ以降のコミュニケーションの形についてなど、新曲の制作エピソードとともに話してもらった。(黒田隆憲)

ぜったくん「Midnight Call feat. kojikoji」Music Video

自粛期間に強くなった“人に会いたい”という気持ち

ーーぜったくんは、コロナ禍の自粛期間はどんな日々を過ごしていましたか?

ぜったくん

ぜったくん:僕の場合はコロナになる前から「ステイホーム」な生活をしていたので(笑)。どんどん世の中が変わっていっても僕自身は何も変わらない日常を送っていましたね。ただ、今までは「別に人に会わなくてもいい」と思っていたのが、いざそれを封じられてしまうとすごく「会いたい」という気持ちが強くなって。それで電話とかかけまくったり、オンラインゲームで繋がっている友人と長時間話し込んだりしていました。

ーーそれ、不思議ですよね。僕も生活パターンはコロナ前とそんなに変わっていないはずなのに、世の中全体が自粛モードになったら妙に閉塞感を覚えてしまって。

ぜったくん:そうなんですよ。コロナの時って意外と作業が捗らなくて。ずっと家にいることは変わらないのに、音楽制作も何か散漫になってしまって。

ーー自粛期間が続いて精神的に落ちている人もたくさんいましたよね。ぜったくんは、コロナ以前にリリースした「Bad Feeling」(前作『Bed TriP ep』収録)でも、鬱々とした気分の時のことを歌っていましたが、実際「Bad Feeling」になった時は、どんなふうに対処していますか?

ぜったくん「Bad Feeling」 Lyric Video

ぜったくん:それって本当に難しいですよね。落ち込み過ぎてしまって自分ではどうしようもない時ってあるじゃないですか。今回の新曲「Midnight Call」を書いているときも実はめっちゃ落ち込んでいましたし。というか、そもそも「幸せ!」みたいな状態ってそんなに続かないじゃないですか。なのでもう、気分が落ちた時は諦めることにして、ゲームに集中したりNetflixを観たり、なるべく普段通りに過ごすように心がけていますね。

ーー「Midnight Call」の歌詞にも〈だいたいはNetflix〉なんてフレーズも出てきますよね。自粛期間は映画やドラマなど結構観ました?

ぜったくん:観まくりました(笑)。NetflixとAmazonプライム、それからYouTubeはコロナ前から必須アイテム。とにかく動画はたくさん観ましたね。例えば昔のアニメを掘り起こしたり、王道の名画を観直したり。『とらドラ!』という、10年くらい前に放送されていた王道のラブコメアニメがあるんですけど、「こんな学生生活が送れたら良かったな」と、一人悶々とし過ぎて気分が悪くなるくらい観ていました(笑)。

ーーそういった映画やアニメからの影響が、楽曲に反映されることもありますか?

ぜったくん:『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のような、いわゆる「時間旅行モノ」が好きなんですよ。前作『Bed TriP ep』に収録されている「Parallel New Days」という曲は、世界線を移動する話がモチーフになっているんですけど、そこには映画からの影響も表れています。ただ、基本的には自分の身の回りのことをモチーフにしていますね。

ーー先ほどオンラインゲームの話もされていましたし、「Bad Feeling」の歌詞にも〈コール オブ デューティ〉や〈シージ〉(レインボーシックス シージ)などゲームの名前が並んでいますが、ぜったくんにとってゲームの影響も相当大きいのでは?

ぜったくん:あははは。ゲームやり過ぎ問題はありますね。実際のところ、自分の「成長」が分かる唯一のツールがゲームだと思っているんですよ。

ーーというのは?

ぜったくん:僕が好きなのは「FPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)」と呼ばれる、プレイヤー視点で人と撃ち合うオンラインゲームなんですけど、毎日欠かさずそこで射撃訓練をしていると、めちゃめちゃ射撃の腕が上がるんです。最近、自分が上手すぎてびっくりするくらいなんですよね。

ーー(笑)。

ぜったくん:音楽って、作曲にしてもトラックメイキングにしても簡単には優劣が付けられないじゃないですか。勝ち負けの世界ではないんですけど、対戦ゲームは自分が練習した分だけ確実に上手くなる(笑)。それを確かめられる唯一の手段なんです。

ーーああ、なるほど。筋トレにちょっと近いものがありそうですね。

ぜったくん:あ、そう思います(笑)。頑張ってきた成果がちゃんと確認できるという意味では同じです。最近は『レインボーシックス シージ』というゲームにハマって、その訓練に余念がないです。ただ、このゲームは5人で1チームなので、敵のチームの5人が全員ボイスチャットなどで繋がっている友人同士だと、情報量が圧倒的に多くてめちゃくちゃ強いんですよ。こっちは2人とか3人とかなので、射撃の腕を上げても情報戦で負けてしまうからそこを何とかしないと……。

ーーまずは友達作りからですね(笑)。

ぜったくん :そうなんです。最近は鳥取の銀行員と仲良くなりました(笑)。

ーー人との繋がり方にも変化はありました?

ぜったくん:どうだろう……元々そんなに友人がいる方ではなかったんですけど、大切な人がより大切な存在にはなりましたね。それこそ「Midnight」に「Call」することも多かったし(笑)。

ーーSNSなどを見ると、コロナ禍には人々の意見の「対立」や「分断」も加速したように思ったのですが、ぜったくんは何か感じることはありましたか?

ぜったくん:基本的に僕は、「誰かを幸せにしたら誰かが不幸になる」と思っていて。コロナ期間中は弱い立場の人たちが声を上げているんだろうなと思って見ていたし、もし自分がその立場になったらやはり同じことをするだろうなと思っていました。結局、戦争もそうやって起きるんじゃないかなと。「正義」の反対は「悪」ではなく、別の「正義」なのだなということを、この期間は本当に思い知らされましたね。

ーー例えば、小説や詩集などからインスパイアされることもあるのですか?

ぜったくん:僕、本は全然読まなくて。ただ、太宰治の『女生徒』を読んで、他の作品も読みたくなって久しぶりに『人間失格』を読み直したんですよ。確か中学生の時に一度読んだことはあったのですが、最初の10ページくらいで気持ち悪くなっちゃって(笑)。ちょっと自分に近くて、その表現が的確過ぎて「これ以上読み進めたらバッドに入ってしまう!」と思って途中でやめてしまいました。

ーーどこがそんなに似ていたのですか?

ぜったくん:『人間失格』の主人公って、全てのことを客観的に見過ぎていて、例えば親と話している時に「どんなことを言えば相手は喜ぶか?」みたいなことをずっと計算しているんです。それを太宰は「お道化」と呼んでいて、俺は「お道化」かもしれない……って思っちゃったんですよね(笑)。

ーー同族嫌悪みたいな(笑)。歌詞のリズム感や、韻の踏み方などはどういうところから影響を受けてきたと思いますか?

ぜったくん:それでいうと、PUNPEEさんやRHYMESTER、KICK THE CAN CREWのような日本語ラップが大きいですかね。特に最近はPUNPEEさんからの影響がかなり大きいです。最初はギャングスタラップの「強くあろう」みたいな文化に憧れていたんですけど、それって自分にとっての「リアル」ではないことに気付いて。そこを追求していくうちに、日常を切り取りつつ「こんな言い回しがあったんだ」「こんなにも共感できるんだ」と思わせるようなリリックに惹かれていくようになりました。今は、言い回しの新しいフレーズを発見するのが楽しいというか。そういう意味では、漫画の言い回しなども参考にしていますね。

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