小林私という興味深い存在ーーたった一人でやりきったWWW初ワンマン 人を引きつける剥き出しの歌声と予測不可能な展開
演奏以外に関することで、この日一番に思ったのが“よく喋る人だな”ということ。ライブは1~2曲演奏するごとにMCを挟むスタイルで、沈黙が怖いのか、たくさんの人に見られているのが恥ずかしいからなのか、小林は基本、隙あらば冗談を言い、観客が笑うより先にセルフでツッコミを入れたり、自虐的な発言をしたりしている。歌詞を飛ばしてしまったときには演奏をそこで止めたり、スマホで調べたりする。「1回やっておきたいことがある」と言ってギターを置いたと思いきや、唐突に、ステージの端から端まで全力でダッシュし始める。そして本編終了後は、ステージから一旦捌けずにアンコールを始めてしまったため、“グッズのTシャツに着替えて再登場”という予定していた段取りを実現できなくなる。普通ならばそこで終わりだが、彼の場合、ステージ上でそのまま着替えを始める。
“初ワンマンをたった一人でしっかりやりきる”というのはなかなかすごいことだが、彼自身に“自分はすごいことをやっている”という認識があるのかどうか、いまいち読み取れない。演奏中とそれ以外にギャップを感じる。とはいえ、音楽に集中しているときと思いっきり緩めているときの境界が曖昧というか、その両方が平然と同居しているような気もする。これはもしかしたら配信をやっている人――同じ部屋から音楽も雑談も放送している人特有の個性なのだろうか。
ともかく、このなかなか掴めない感じ、もっと言うと“次は何をやってくれるんだろう?”と期待させてくれる感じが、この日WWWに集まった(+ライブ配信を観ていた)ファンたちのことを惹きつけているのかもしれない。“どんなアーティストなのか少しでも知りたい”という思惑でライブを観に行ったのに、こんなにも“結局何者なのか分からなかったな”という気持ちにさせられたアーティストは初めてだ。小林私。興味深いと思える存在がまた増えた。
■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。
■セットリスト
1.悲しみのレモンサワー
2.リブレス
3.HEALTHY
4.スープが冷めても
5.飛日
6.サラダとタコメーター
7.ヴィラン/てにをは
8.ひび割れた日々、君と二人
9.恵日
10.声が怖いので
11.泪
12.香日
13.日暮れは窓辺に
14.共犯
15.生活
16.風邪
Encore
1.Secret
2.生活