大森靖子に聞く、“結婚”にまつわる自身の生き方とスタンス 「同じ理想を向いていたら絶対にぶつかることはない」

大森靖子が語る「KEKKON」と自身の生き方

 冬にリリースされる大森靖子のニューアルバム『Kintsugi』からの配信第3弾は、これまでライブのみで披露されてきた「KEKKON」。ジャケットは夫であるピエール中野とのツーショット、MV撮影には長男も参加しているなど家族全員参加状態だが、「KEKKON」ではファンとの関係性も歌っているという。他者との関係性において、大森靖子が今の日本社会に必要だと考える価値観とは何だろうか?(宗像明将)

「KEKKON」はファンとの関係性についても歌っている

ーー「KEKKON」は、ピエール中野さんとの夫婦関係を思いきり出したジャケットになりましたね。ピエールさんは嫌がったりしなかったんですか?

大森靖子(以下、大森):特には。最初、フィルターも何もかかっていない普通の写真にしたらさすがに生々しくて、「フィルターかけて」って言われて。枠とかをつけて、ちょっとアーティスト感を出しました(笑)。

ーーMVは息子さんが撮影したところもあるそうですし、家族総参加みたいな作品になっていますね。でも、そういう家庭的な「結婚」の意味だけではない?

大森:よく「ライブはセックス」って言うじゃないですか。でも、ライブは一回ヤったきりの関係とか、セックスよりも深くて尊いことをしている。「私は歌が望まれているから歌っているけど、ファンともっとすごい関係性になるにはどうすればいいんだろう? それって曲でできるじゃん!」って。「結婚しているのに結婚についての曲歌わないんですか?」とか「子供産んでるのにいつまでも若い女の子の曲歌ってるんですか?」ってけっこう言われてて。アルバムにはいっぱい入れてるんですけど、「じゃあ書くよ」みたいな。結婚って、人生を共にするための努力をちゃんとしていかないと関係性が持続しないのが当たり前じゃないですか。分かり合えないままだけど尊重し合うこととか、そういう想像力があるといいな、って。それを培うために、若い子にも聴かれるような曲を書き続けている。この間、芦田愛菜ちゃんが「信じること」について語っていてバズっていたけど、全員が持っているべき感覚なのに「すごいね」ってなっちゃうのがダメだよね。自分のフィルターを使わず相手を想像できるようになるのが大人の経験値の持ち方で。簡単に全員が同じ意見に流れちゃって、いじめやセクハラ、パワハラがなくならない原因ってこれじゃん、って。若い子のカルチャーの中に自分でいてみて、これはなくならないわ、って。

ーー歌詞には〈他人のままでOK/仮に君が僕を好きとかじゃなくても僕らはたのしい〉とあるし、個と個が結婚するものという考え方がベースにあると感じたんです。若い子に「KEKKON」の歌詞を通して伝えたいことってどんなことですか?

大森:分かり合えない部分を想像して、解像度を高めて、自分の中に取り入れる。それでも分からないところは分からないでOK、そういう相手でも受け入れる許容力を持ちましょう。

ーーそれってファンの人にどれくらい伝わっていると思います?

大森:自分のファンには伝わっているな、とは思うんですけど、周りが全てそれになると、私がその環境に甘えちゃう。ファンも、会社に行ったらまた日常がある。それを忘れたら、ただほわほわしているだけの活動になっちゃうから、ちゃんとそこにある地獄みたいなものを見逃さないでやっていくことが大事。この曲は個人的な結婚というよりも、ファンとの関係性についても歌っている。

ーー〈KEKKONしようよ 大嫌い 大嫌い/わかんねえ クソバカ KEKKONしようよ〉とありますが、ピエール中野さんにも、結婚するときにこんなことを言ったんですか?

大森:あはは。ファンにもピエールにも、別に誰に対しても思ってることは同じ。

ーー〈この世界にメンチ切るなら君とだと思う〉とありますね。ともに戦う仲間、みたいな。大森さんにとって、結婚は安定を意味しますか?

大森:そうじゃなきゃいけない人もいるんだろうな。それが幸せという人は、それはそれでいいけど、押し付けることは良くない。

ーー大森さんが考える幸せな結婚の形ってどんなものですか?

大森:結婚じゃなくてもそうなんですけど、相手に自分の夢や理想を投げつけるのはダメ。それは相手と一緒に描かないと。正面からぶつかって行ったらぶつかって来られるけど、同じ理想を向いていたら絶対にぶつかることはない。この曲に関しては、いろんな結婚があるんだな、って思ってくれればそれでいい。別に結婚して幸せです、という人に「それが幸せなのか!」って別に私が言う必要もない。でも、それは壊れやすいものですけどね。

ーーこの国に限らず、恋愛って「支配」と「依存」という感じがしませんか?

大森:人生、何に依存するか、みたいになっちゃってますもんね。ゲーム、酒、勉強、仕事……その依存を器用に分散させたもの勝ちみたいな。恋愛がわかりやすいから恋愛にいっちゃうんですかね? いっぱい分散させた方が絶対に楽なのに。

ーー大森さんも家庭、子育て、仕事などに分散させてますよね。それがうまいこと一本にまとまっていて、名人芸みたいなことをやっている。

大森:あはは。ラッキーなことに、そういう仕事なので。

ーーそんな大森さんは、曲に対していろいろ自己投影されることも多いと思いますが、どんな感覚でしょうか?

大森:曲は別にいいですよ、媒介であって私じゃないから。私自身にそう思ってくれる人は、たぶんすぐに「裏切られた」って思っちゃうからかわいそう。覚悟を持って投影してください。「自分が描く大森靖子」ってもう「自分」だから。でも、「そっちの大森靖子」と「こっちの大森靖子」を照らし合わせて、意外にそっちの方がいいな、みたいなこともあるけど(笑)。私は良い意味以外で裏切ることはないし、「そっちが思っている私」よりも、「私」のほうがクオリティが高いので。「自分が描く大森靖子」が崩れることが自分の傷に繋がって、その傷ごと楽しめないんだったら、きついよ(笑)。

ーー傷ごと楽しむというのはすごいレベルの話ですね。

大森:道重(さゆみ)さんとか峯田(和伸)さんとか、自分が好きな人に対しては、自分の想像を超えて何か違う面白いことをやってくれる方がアガる。だから、「裏切られた」って感覚はよく分からない。

ーー普通は安定したいし、安心したいんでしょうね。

大森:そうですね。思考が二次元っぽい。

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