『氣志團万博2020 ~家でYEAH!!~』開催直前 綾小路 翔に聞いた、フェス主催者としての葛藤と新たな挑戦への素直な気持ち

 本日9月26日、『氣志團万博2020 ~家でYEAH!!~』がStreaming+、Stagecro wd、WOWOWメンバーズオンデマンドにて配信される。

 『氣志團万博』は、2012年から氣志團の故郷にある千葉・袖ケ浦海浜公園にて行われてきた音楽フェス。ホストを務める氣志團だからこそ成立する、他では見ることができない異種格闘技戦のような豪華ラインナップが例年大きな話題を呼んでいる。氣志團のおもてなし精神溢れる“お祭り”は、音楽ファンも大きな期待と信頼を寄せる人気フェスへと発展した。本来であれば今年は9回目の開催を迎えるはずであったが、昨今の社会情勢を踏まえ、今年はオンラインでの開催となる。

 リアルサウンドでは、開催直前の本フェス主催者である氣志團・綾小路 翔にインタビューを行い、以下にテキストとしてまとめた。オンライン開催を現実のものにするまでの葛藤や、改めて今考える『氣志團万博』のフェスとしてのアイデンティティなど、赤裸々な思いが語られている。いよいよ迎える開催の時を前にぜひご一読いただきたい。(編集部)

『氣志團万博2020 ~家でYEAH!!~』無観客フェスに至るまで

 2020年の氣志團はイベントやツアーも控えていましたが、2月1日(『HOSTED BY coldrain「BLARE FEST.2020」』愛知・PORT MESSE NAGOYA)以来、人前で演奏していない状況が続いていました。これは自分の性格的なものなのですが、もともとあまり希望的観測を持たない人間で、何をやるにも最悪な場合を考えているタイプなんです。なので、今年の『氣志團万博』は30組以上の発表が4月にある予定でしたが、今まで通りの開催を考えながら動いていくのはおおよそ難しいのではないかと思い、3月の終わりくらいには無観客のライブ配信をしようという話をしだしていました。

 あの頃は誰もが隣の様子を伺うようなムードでしたよね。無理もないです。あんな情報が錯綜している時分に自分たちの感覚だけで突き進むなんて、どんな落とし穴が待っているかもわからないわけで。何しろ誰も経験していないことですから。怖すぎますよね。それでも我々は、慎重かつ迅速に、自分たちが今できることをいち早く発表することに意義と意味を感じていました。でもそのためには開催する規模を決めて、それに対する予算を組まなければならず、2カ月くらいは3歩進んでは5歩下がるというジレンマ、二転三転からの七転八倒……といった状態が続いていました。僕は当初「毎年行っているあの場所に同じステージを立てて、ただお客さんがいないだけ、あとはいつもと変わらずやろう」と考えていました。配信はキャパが無限大とはいえ、集客の見込みは想像がつかない。チケット代もどれだけの金額が妥当なのかも誰もわからない中で、そもそも一からステージを立てるのは莫大なお金がかかるし、芝生をグリーンバックのように使ってCGで上から映そう! なんていう僕のアホアホアイデアはもってのほかでした(笑)。

 それと同時にご出演者様にとっても、こういった事態の中で動くことや無観客に対するモチベーションなど、みなさんそれぞれの考えやポリシーがありました。僕もそういうみなさんの考えを聞いていくうちに「これは一回、全く違うイベントだと思って動こう」という考え方に切り替わっていきました。屋号は同じだけどやることは違うといいますか。今まで頑なに和菓子屋をやってきたけれど、今年はバームクーヘンを売ります、くらいの気持ちでやらなくてはいけないなと。

 とにかく最初は『氣志團万博』のあの景色をみんなに見せたいという強いこだわりを持っていましたが、そもそも今本当にみんなにとって大事なことはなんなんだろうと考えた時、まずは音楽でみんなを楽しい気持ちにすることができたらいいなという気持ち、いわば己の原点に立ち戻っていたことに気付きました。しかも配信という形になれば、今までは物理的に来れなかった方たちも参加できるというメリットもある。

 このコロナ禍は、来年大丈夫という保証が全くないですよね。本当に元に戻る日が来るのか、そして仮に元に戻ることが出来たとしてもそんなに近い時期の話ではないのかなと思った時に、自分たちが帰る場所がなくなっている可能性が高いということも考えました。

 我々はそもそもライブハウスに育ててもらって今があります。ライブハウスがなくなってしまったら元も子もない。ライブハウスのためにできること、そしてもちろん医療従事者の方々もそうですし、大雨や台風の被害にあった九州や千葉など満身創痍の日本ーーひいては世界中に何か応援できる、貢献できることはないかと考えたら、絶対に例年の開催地である、あの場所が絶対なわけではないなと。むしろ今回はライブハウスでやるべきじゃないかという気持ちに切り替わったんです。

 心境としては9年前にフェススタイルで最初の『氣志團万博』を立ち上げた時と全く同じような感覚です。経験がないという意味では今回の方が未知数。これまでは他のフェスの方達のノウハウを教えてもらったり、覗いたりしながら見よう見まねでやってきましたけど、今回はお手本がないですからね。

 来年はみんなでまた外で大騒ぎできるのが一番ですが、もしできなかったとしても、今年僕たちがオンラインという形でやることでノウハウを残すことができる。0から1を僕らが作っておけば、次に1からみんながスタートできるじゃないですか。こんな時に失敗できるのも僕らみたいなキャラだろうという感じもあります。おそらく初回はすごくいろんなことが起きちゃうと思うんですよね。でもこういうときはヒーローよりもヒールの出番、つまりは僕らみたいなのがいけばいいんだという謎の使命感もあって(笑)。勘違いかもしれないですが、そこが一番の原動力です。

 目標はとにかく少しでも自分たちがお世話になった人たちに恩返しをすること、それとこの先まだまだどうなるかわからない時代に対して僕らが一個礎みたいなものを築くきっかけであったり、そこの一部の一本柱くらいになれたらいいなと。先ほども言ったように、一番いいのはあっさりと今のような状況が来年なくなって、まるで何事もなかったように楽しい毎日に戻れること。だとしたらだとしたで、数少ない貴重な経験ができたラッキーボーイなんじゃないだろうかっていう、そういう希望的観測だけは持っていますね。

 実際今回やることは、当初思い描いたこととはかなり違う方向ではあります。最初はやりたかったことがやれないことにしょげたりもしていました。でも新しいことを始めるという気持ちに切り替わってからは、当然ハラハラもしていますけど、逆にすごくワクワクドキドキもしています!

直面している状況でしかできない経験をしたい

 『氣志團万博』は、本当に地域密着の夏祭りといいますか。『氣志團万博』なんて言うと、それはそれは自意識過剰かつ承認欲求の高いイベントタイトルに感じますが(笑)、良くも悪くもヘンテコでイビツなフェスになりましたね。面白がってくださる方々も年々増えていますし、もちろん未だに訝しく思われてしまうことも常にありますが(笑)。

 ピンチはチャンスではないですけど、こういう時に逆転の発想で楽しめたら一番いいですよね。ただただしょげて暮らすのは嫌ですし、もともとこちとら後ろ向いたら断崖絶壁、下を向いたらどん底、「もう前だの上だの向くしかねーんだよ!」っていう。開催を決めてからもいいことだけではなくて、そこからいろいろなご意見をいただいた時には一瞬だけもうやめちゃおうかなと思う瞬間もありました。あまりにもリスクの方が高いと言いますか、単純に蓋を開けたらチケット1000人しか買ってもらえなかった……なんてことになったら、これ一体どうなっちゃうんだよ? みたいな。こればっかりは本当にわからないですからね。

 今でこそ周りには単独公演やイベント、音楽に限らず配信に取り組んでいらっしゃる方々がいて。それぞれ無料・有料、いろんな形でみなさんトライしていますが、話を聞けば千差万別、すごいことになっている人たちもいれば、これは厳しいという人もいるし、なんともわからない。チケットの値段もいろいろ協議に協議を重ねて自分たちで設定しましたが、もう本当に、ケツの毛まで抜かれる思いでヒリ出した価格ですけれども、それでも高いと思われる方もいますし。でも、考えてくれよと。いつもこの倍以上のチケット代で完売しても、俺たち大きな黒字にはなったことないんだぜ!? っていうのが本音ではあるんですけど(笑)。今回のご出演者のみなさんには本当に正直な話、情けないですけど、泣いていただいたというか……本当に勉強していただきました。だけどみなさん、「みんなで音楽届けようよ!」という気持ちでご参加くださってるんですよね。なので今回は本当にみなさんに借りを作る形だなと思っています。絶対に返しますけどね。このご恩は。なので、また解散出来なくなりました(笑)。

 とにかく大仰なことから、泣き言や愚痴めいたことも言いましたが、正直一番強いのは好奇心ですよね。今やネットで世界中のいろんなとんでもない景色がいつでもどこでも覗ける時代だし、どこだって体験できる気になれる時代ですから。オンラインでいろんなものを学べるし、知ることができる。だけど僕は、どうしても自分で見たいし、聞きたいし、肌で感じたいんですよ。たとえ誰かに「あそこに行くとガッカリするよー」なんて言われたとしても、この目で見ないと気がすまない。現地で「本当だー! がっかりー!」って言いたい。自分ではそれをOL気質と呼んでるんですけど(笑)。女の子って、男の子よりよっぽどタフだし勇敢。そこに憧れがあって。バックパッカーをやりたいということではなくて、休みのたびに世界遺産とかを回るフットワークの軽さ。色んなしがらみをしなやかにかわしながら、様々な場所に行って、いっちょかみの体験をしたいというのが自分の人生のモットーなんです。

 単純にこんな時代が来た中で、この状況に直面したのならば、その中でもがくっていう経験をしたいっていうことですよね、きっと。だから『氣志團万博2020 ~家でYEAH!!~』は自分にとってかけがえのない経験になるのだろうなということも予感しています。これまでの人生を振り返ると、やってきたことで本当に何にもならなかったことってなかったなとも思いますし。……まあそうだな、キャバクラくらいかな。この人生で何にもならなかったのは(笑)。キャバクラ以外は大体何か自分の役に立って……いや、よく考えるとキャバクラも役に立ってるかも。形には残ってないですけど(笑)。そんないろんな経験が自分の中には活きているんですよね。

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