EP『Complexity & Simplicity of Humanity (and That’s Okay)』インタビュー

Newspeakが語る、コロナ禍で身近な人たちに思いを伝える大切さ 「曲を作ることで何かしたいと思った」

 新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、6月に「Pyramid Shakes」、7月に「Another Clone」、8月に「Parachute Flare」、そして9月に「Blinding Lights」と、4カ月連続でシングルを配信したNewspeakが、その4曲の頭に新曲「Complexity & Simplicity of Humanity」を加え、「Pyramid Shakes」と「Another Clone」の順番を入れ替えたEP『Complexity & Simplicity of Humanity (and That’s Okay)』で、リリースとしては一連の動きを締め括る(9月27日にはライブ『Newspeak presents “Weightless 2020_#01”』を開催する)。それにともない、各シングルについてのコラムや彼らと関わりのあるアーティストのコメントなどを掲載してきた当サイトの特集ページもいよいよ佳境に。満を持してRei、Yohey、Stevenが登場し、今回の企画に対する想いを語ってくれた。生々しい直感と綿密なインテリジェンスがひしめき合うミクスチャーセンスが生む、スタジアム仕様のビッグなサウンドのエネルギー源を辿ることで浮かび上がったキーワードは、対社会でも人類でもなく“身近な人”。最小単位が最大を生み出すNewspeakのロックとは。その真髄に迫る。(TAISHI IWAMI)

曲を出すことでできることはあるし僕らもポジティブになれる

ーーまずは、突然発表されたRyoyaさんの活動休止についてお聞きします。現状はバンドとして公式ホームページに掲載したシンプルなコメント以外、各メンバーからの発言は出ていませんが、今はどのような状況なのでしょうか。

Rei:今回のことを心配してくださっている方々はご存じだと思うのですが、Ryoyaからのコメントが出ていない以上、僕ら3人が個別で発言すると、それがポジティブな内容であったとしても一方的な意見になってしまいます。だから、彼のなかで整理がついて話せるようになったうえで、先のことについて発表できればと思っています。

ーーありがとうございます。では今回の4カ月連続シングルと、そこに新曲を加えた5曲入りのEP『Complexity & Simplicity of Humanity (and That’s Okay)』についての話に入ります。まずは、本題の前にあらためてNewspeakのこれまでの歩みについて質問させてください。Newspeakというバンド名は、ジョージ・オーウェルが第二次世界大戦後に執筆した小説『1984』で描いた、人々の思考を制限するための仮想言語のこと。そして1stアルバム『Out Of The Shrinking Habitat』というタイトルは、直訳すれば“収縮する生息地の外”という意味。さらに第一次世界大戦中に生まれた、どの勢力からの占有されない土地“No Man's Land”がもとになった『No Man's Empire』という2ndアルバムへ、まるで物語のように続きます。そこには何となくにせよ、コンセプチュアルな意図があったように感じるのですが、以前にみなさんと話した時に、実際はそうでもないとおっしゃっていました。そのことについて、あらためてお話しいただけますか?

Rei:バンド名やアルバムタイトルにチョイスしたワードのスケールがデカいうえに、物語として繋がっているように読み取れるので、そこにコンセプトがあると受け取られることは理解できますし嫌じゃないです。実際に歌詞の断片にも、バンド名や作品のタイトルと直結するような、ポリティカルな意味合いを持つ歌詞や社会への風刺も出てきますし。でも、ほんとうにあまり深く考えたことはなくて、その時々で、自分自身や周囲に起きている出来事を曲や言葉にしていっただけなんです。

ーーでは、それぞれのアルバムにあるエネルギーの源は何ですか?

Rei:Newspeakを結成する前の話に遡るんですけど、僕とYoheyは、それぞれにバンドをやりながらも、考えていることがうまく表現しきれないとか、どこかでくすぶった感情を抱えていました。Ryoyaも一度バンド活動からは離れていたところから、Newspeakでギタリストとして再び動き出すことを決め、Stevenも一度バンドを諦めてプロデューサーや作曲家として活動していたけれど、またバンドをやりたい、再び浮上したいという願いを持っていました。1stアルバムの『Out Of The Shrinking Habitat』は、そんな僕らが外の世界に飛び出そうとする気持ちが、もっとも強い原動力だったように思います。

Yohey:『No Man's Empire』もそんな感じだよね。

Rei:『No Man's Empire』は、僕らがSurvive Said The Prophetとの47都道府県ツアーを通して感じたことが大きかったですね。日本は東京だけじゃないし、バンド同士もお客さんの趣味趣向も、みんな見ている方向は違っていて当たり前で、ジャンル的な統一感とかそういう既成概念に縛られる必要はないって、ずっと思っていたことをリアルに感じられたことがもとになっています。ようするに、すべてはNewspeakとその周りという、最小単位での出来事を切り取ったものでしかないんですけど、そこに付けたタイトルがデカすぎたっていう(笑)。

ーーそれに対して今回の4カ月連続シングルとEPリリースは、コロナ禍を受けて“自分たちにできること”という、対社会とも取れる声明を出しました。

Rei:確かに、何か言葉を発したうえで作品を出したのは初めてで、しかもその対象が新型コロナウイルスのパンデミックだったので、今までとは違って、広く世の中に向けた意志やコンセプトがあるんじゃないかと想像される人もいると思うんですけど、むしろその逆なんですよね。

ーーよりパーソナルということですか?

Rei:はい。感情の浮き沈みって、コロナであろうがなかろうが誰にでもあるじゃないですか。ただ、コロナによって、その起伏が圧迫されてかなり密度が濃く激しくなった人は多いと思うんです。僕も例外ではなくて、その心理状態がとにかくしんどくて完全に周りが見えなくなったときに、大切な人が「みんな同じだよ」って言葉をかけてくれことが、リリースに踏み切った個人的なきっかけですね。それ以上でも以下でもない、シンプルなたった一言によって僕は救われた。だから僕は曲を作ることで身近な人たちに何かしたいと思いました。

Rei

ーーバンドとしてはどういう話し合いのもとに、制作を進めていったのでしょうか。

Rei:バンドとして何ができるのか、ずっとLINEとかで意見を出し合っていたんですけど、僕自身は話したように頭の中がパンクしかかっていたし、メンバーそれぞれにいろんな思いを抱えていたので、なかなか進まなかったよね。

Yohey:考えすぎて逆に何もできなくなってね。

Rei:いろんな感情が交錯して、僕らはそんなに大きなバンドじゃないけど、それこそ今までは考えてこなかった、社会という大きな単位に向けて何かを発信できるような企画とかも出そうとしたことはあったんですけど、それが多くの誰かを助けることには繋がらなくて。やっぱり身近な人に「大丈夫だよ」って言われるのがいちばん効くと思うんです。

Yohey:誰かを救うなんて大層なことは言えないし、みんなが音楽に何を求めているかもわからないけど、Reiが言ったように、誰かがそばにいるんだって感じられたら、少し心が軽くなるじゃないですか。環境的にそれが叶わずに、一人で乗り越えなきゃいけない人もたくさんいると思うんですけど、少なくともNewspeakのことを好きでいてくれる人たちには、音楽でそばにいてあげられる。そこで、よく見かける相田みつをさんじゃないけど“にんげんだもの”って、認められたら僕は嬉しいですから。

Rei:僕も著名な人の言葉を借りると、西野カナさんの有名なフレーズ、〈会いたくて 震える〉みたいなことを歌ってきましたし。『No Man’s Empire』に入っている「See You Again」はもろにそうですね。

Yohey:僕らにとってはライブに来てくれるお客さんも身近な人。ライブ会場ってみんなの待ち合わせ場所みたいなもので、今は実際にみんなと会って遊ぶことについて考えなきゃいけない時期ですけど、曲を出すことでできることはあるし僕らもポジティブになれる。今回のリリースにコンセプトがあるとすればそういうことですね。Newspeakの存在をもっと多くの人たち知ってもらいたいとか、社会に対してどう思うとか、そのもっと手前の話です。

Yohey

ーーStevenはどうですか?

Steven:二人みたいにいいことは言えないんですけど、そうだなあ、いろいろあったなあ。そうだ、家のリフォームをしました! DIYでウォールペーパーを貼り替えたりとか。

Rei:その変化は今いらないよ(笑)。Stevenはやたら「バスキングがしたいよ!」って言ってた。

Steven:次はいつライブができるかわからなかったし、外ならいいんじゃないかって。

Rei:レコーディング中にやたら言うから無視しましたけど(笑)。今度やろうね。

ーーなるほど。意外と言えば意外な答えなんですけど、話を聞いていてハッとしました。日常で自分自身や身近な人たちに思うことと社会や政治的なことは、そもそも地続きなので、わざわざ切り離す必要もないと思うんです。でも、身近な目の前のことをすっ飛ばして社会という先ばかりを見てしまって、頭を打つことが個人的にもよくあるんですよね。ドラマとかであるじゃないですか。「あなたは刑事としては立派だけど父親としては最低」みたいな。

Rei:僕だってそういうことはありますよ。でも、遠くを見すぎて近くにあるもっとも大切な何かを見失っている状態だって、教えてくれるのは近くにいる人。だから僕はポリティカルなことにも関心があるし、TAISHIさんがこのインタビューの前に書かれた「Blinding Lights」のコラムで、「Another Clone」で歌っている“理性”や4曲全体のアートワークにも触れてくれた部分で書かれていた“ダダイズム”とか、あとはSFなんかも好きですけど、政治や社会、思想といった大きな場所に曲を放り投げる感覚ではなくて、近くにいる人たちに思いを伝えるために、大きな世界のよく話をするんだと思います。Stevenもふだんからそういうところあるよね?

Steven:そうだね。今はいろんな社会問題も含めて、11月の大統領選挙でアメリカがどうなるのかすごく心配で、頭がいっぱいになりそう。そういう大きな動きに対するダイレクトなアクションはすごく大切だし、近くの仲間たちに楽しく幸せに暮らしてほしいって伝えるためにも、政治や思想について学ぶことは必要だと思う。

Steven

Rei:今回はさっきも話しましたけど、コロナ禍が引き起こした社会問題があって、多くの人々の感情がより激しく揺れ動くなかで曲を作って歌詞を書いたので、自分や仲間と世界との距離感が近いんだと思います。

ーーいろいろと腑に落ちました。だから『No Man's Empire』までのNewspeakと今回の企画では、メッセージの大筋は変わってないんですね。

Rei:結果的にまったく何も変わってないなって、僕も作っていて思いました。

Yohey:そのなかで、“より感情的”な作品ではあると思います。

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