碧海祐人が語る、楽曲に通ずる“地元からの逃避行”というテーマ 影響を受けたカルチャーも明かす

碧海祐人、作品に通ずるテーマ

 愛知在住のシンガーソングライター・碧海祐人が、デビューEP『逃避行の窓』をリリースする。

 音数を極力削ぎ落としたジャジーでメロウなトラックの上を、気怠くもスウィートな歌声がたゆたう。ヒップホップやR&Bなどからの影響を強く感じさせつつ、フックの効いたメロディにはJ-POPのエッセンスも散りばめられており、そのハイブリッドなポップセンスは星野源や米津玄師にも通じるものがある。また、サンファやキング・クルール、トム・ミッシュらを輩出したサウスロンドンの音楽シーンや、アンビエントミュージックなどからインスパイアされた音像は一筋縄ではいかない中毒性を孕んでおり、ノンプロモーションながら数多くの人気プレイリストに選出されるなど、すでに国内外のリスナーから熱い注目を集めている。

 地元の愛知で鬱々とした日々を過ごし、「音楽は常に自分にとって“逃避行の窓”だった」とインタビューで語ってくれた碧海。そんな彼がこのデビュー作に込めた思い、そこに至るまでの道のりなどについて、じっくりと聞いた。(黒田隆憲)

Mr.Childrenからジム・オルークまで……碧海祐人を築いてきた音楽ルーツ

ーーまずは、碧海さんが音楽に目覚めたきっかけを教えてもらえますか?

碧海:母親が音楽教師の免許を持っていて、ピアノの教師をやっていたこともあったので、小さい頃から身近に音楽はありました。家には何故かギターがあって、中学生の頃からコブクロさんやMr.Childrenさんなど、トップチャートに入ってくるようなメジャーな曲をずっと練習していましたね。高校に入る頃になると、自分でも曲が作れたら面白いだろうなと思って、最初はありきたりな曲をずっと作っていました(笑)。

ーーバンド活動はやらなかったのですか?

碧海:高校生の頃に文化祭用のバンドを組んだことはあったんですけど、それきりで終わってしまいました。「オリジナルを作ろうよ」と言っても、そこまでの熱量が他のメンバーになかったんです。大学に入ると課題が忙しくて、「こりゃバンドなんてやってる時間ねえぞ」と自分から遠ざけてしまったところもあります。それで、家にこもって一人で音楽を作るようになりました。授業の関係でMacBook Proを購入したんですけど、そこに入っていたGarageBandを開いたのがきっかけです。最初のうちは、高校生の頃に作ったオリジナル曲を引っ張り出してきて、ちょっと録ってみたのが始まりです。それが今につながっている気がしますね。

ーー「ありきたりな曲」とおっしゃいましたが、どんなオリジナル曲だったんですか?

碧海:それこそ「弾き語りの延長」というか。いろいろな曲をコピーしていくうちにコードの流れとか、どう歌ったらその人たちっぽくなるか?とか。無意識下で分析をしていたところがあって。それを自分のオリジナルに取り込んでみるような感じでしたね。

 オリジナル曲を作ることに対して、最初からあまりハードルを高く設定していなかったのは、まずは模倣から入ったところは大きかったのかもしれないです。たくさん模倣をしてきたので、それが自分の引き出しになっていたというか。で、その頃からヒットチャート以外の音楽もどんどん掘っていくようになったんですけど、それもGarageBandを使ってアレンジなどやるようになったのが大きいと思っていますね。

ーー影響を受けた音楽として、ceroや君島大空、米津玄師などを挙げていますが、その辺りを聴くようになったのもその頃?

碧海:そうです。特に、去年の春くらいに君島大空さんのEP『午後の反射光』を聴いたのが、自分の中ではものすごく大きかった。単に楽曲の寄せ集めではなく、EPというフォーマットを使って自分の世界観を提示することの意味を教えてもらったというか。「こういうことなんだな」って腑に落ちたし、自分もこういう作品を作りたいと強く思うきっかけにもなりましたね。

 あと、最近は「なんでも楽器やな」と思うようになって。ストローで笛を作ってみたり、昔使っていた小さなオカリナやハーモニカを引っ張り出してきたり。そういう「ジャンク楽器」が、実は『逃避行の窓』に結構入っているんですよ。あとは生活音。タンブラーに何かが当たった時の金属音に、エフェクターを通して変な音にしてみるとかは、一人で部屋で作っていたからこそ生まれたアイデアでした。

ーーそれってアンビエントミュージックからの影響も大きいですか?

碧海:ああ、それはあるかもしれない。一時期はブライアン・イーノやジム・オルークにハマっていたこともあったので。それに、そういう遊び心のようなものを取り入れることができるのは、バンドというフォーマットに縛られていないからなのかなとも思います。

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