eastern youth 吉野寿が語る、2020年ひたすらに生きてかき鳴らす“己の存在” 「せっかく生まれてきたのに殺されてたまるか」

イースタン吉野語る“己の存在”

「多数決で俺の人生を決めさせない」

一一歌になる言葉にも変化がありますよね。今回は〈存在〉、前作なら〈尊厳〉。時代につれて言葉が更新されている印象もあって。

吉野:まず「お前誰なんだよ?」ってところから曲を掘り下げていくんですけど、やっぱり俺も社会の中で生きてますから。世の中にいる自分、その中の自分、その自分の中の自分……っていうものを掘り下げていくときに、やっぱり普段皮膚で感じてることは出てきますよね。一人一人が非常に雑に扱われてるな、自分だけじゃなくて人間そのものが雑に扱われてるなと思うことが多いし。そんなわけねぇだろうと思うんですよ。ぞんざいに、雑に扱われて「邪魔な人は死んでください」「世の中に役に立たない人は死んでください」みたいなことを簡単に言う人がいて。それに対する違和感っていうか……憤りですよね。だからそういう言葉が出てくるんだと思う。そこが社会との接点にもなってると思うし。

eastern youth「ソンゲントジユウ」 ミュージックビデオ

一一「存在」には、今ここで生きてることだけじゃなく〈100万光年すべてを全部背負ってるんだ〉と、すごく大きな視点があるのが興味深いです。

吉野:よくあるじゃないですか。「土星までの距離は何万kmだ」とか「宇宙の果てって何だろう、そのまた果てには何があるんだ」とか。ほんと果てしない話ですけど、でもそれも、その人が死んだら全滅ですよ。死んだらその人にとって全宇宙は消滅するんです。全員を皆殺しにするには自分が死ぬのが一番早いし、死ねば宇宙も何もかも消滅する。全部ナシですよ。無。一人一人がそういう命なんですよ。一人一人が全宇宙を背負って死んでいくわけだから、ゆめゆめぞんざいに扱われる筋合いはないっていうことですよね。

一一あぁ。100万年連綿と続いてきた人類の命、みたいな話ではなく。

吉野:全然違う。自分だけの話です。自分だけの全宇宙。それと一緒に死ぬんですよ。人間一人一人がそういう存在なんだぞって、そういうことを言いたいんだと思う。簡単に「お前一人くらい死んだって葉っぱ一枚も動かねえんだ」みたいな言い方をする人がいますけど、確かに他人からすればそうです。そいつが死んだって他の人にとってはまだ宇宙もありますよ。でもお前が死んだらお前の宇宙は全部消滅する、死んでしまったら地球も宇宙も何もなくなるんだぞって。そこに差なんてない。「命はお前も俺も五分なんだ、わかってて言ってる? バカにするんじゃねぇぞ」っていう気持ちがこもってるんだと思う。

一一確かに、個々の存在、尊厳を尊べない事件や出来事は多いです。

吉野:すぐ数字として扱う。現象とか統計とか。「今日の感染者は〇〇人でした」とか言うけど、よく見てくれ、一人一人なんだぞ、と。400人が200人になったら「減ってよかったね」って言うけど、でも200人は酷い目に遭ってる。「ライブで何万人集まりました」とか言うけど、そんなザラーッと、シラス漁が1トンみたいに言わないでくれって思う。みんな自分のことは尊いと思ってるくせに、自分以外のものを数で考えがちでしょ。他の人も同じ命であり存在だってことを忘れてるんじゃないかと思う。だから、ぞんざいに扱われてる奴らは今すぐ存在を取り戻さなきゃいけないんです。

一一それって、「クラスの40人」や「ワーッとひとつの流れになる感じ」が嫌でたまらなかった原点と同じことですよね。

吉野:そうなんでしょうね。そんな難しい言葉で考えてなかったけど、違和感っていうか、馴染めない、くっそーと思ってた。しかも「馴染めないほうが悪い」とか言われて。そういう体験と繋がってると思います。だから、取り戻して、やり返す必要があるんです。それは俺にとってギターと声だった。それを何度でもやるんです。繰り返す。

一一その闘志みたいなものが50年以上続くって、驚異的だと思います。

吉野:普通ですよ。基本的な、根源的なことですから。存在っていうのは。それがなくなっちゃったら死ですから。殺されてたまるかと思ってますよ。冗談じゃねぇ、せっかく生まれてきたのに。嫌だ嫌だ、俺はまだ生きて酒飲んだりしたいんだって、それを言っときたかったんですよね。なんせこれが最後の一枚だと思って作ってたんで。

一一それは……比喩として、ですよね?

吉野:そうでもない。物理的にもけっこう、これから何枚も作ろうったって無理じゃないかなと思ってるところはありますよ。今回すごく難産だったんです。辛かった。これもう一回他のメンバーに強要することができるかなぁ、っていうくらいキツかったんです。これをもう一回できるかどうか、ちょっとわかりませんね。

一一大丈夫なんですか?

吉野:まぁ今ライブもないですからね。みんなゆっくり日常を過ごしてますけど。

一一わかりました。最後に、愚問かもしれないけど、タイトルに『2020』と付けたのはなぜでしょうか。

吉野:録音しながら世の中が急激にこんなふうになったんですよ。3月はびっちり曲作りして、4月1日くらいから録ってたんですけど、まぁコロナでどんどんヤバい空気になってきて。いよいよライブもできない、ライブどころか人類終わっちまうんじゃないか、みたいな。果たしてオリンピックもなくなり、ライブもまったくできなくなって……まぁどん詰まりですよね。それをひとつ言い表す言葉......まぁいろんなことを考えたけど、やっぱり『2020』でいいんじゃねぇの? って。一発で決まるというか、歴史的な記号ですよ、2020って。だから「乗っかっちゃえ、早いもん勝ち」と思って。

一一時代のドキュメントと思いきや、自分のことしか歌ってない作品ができた。

吉野:そうなんです。「2020年、俺は生きてました」。それだけです。

一一ただ、そこにこの時代の現実はきちんと投影されている。

吉野:そう。人間そう簡単に変わらんだろうと思ってますけど、より、悪いほうに極まりつつあるように見える。また全体主義になって、権力が強権的な体制になって。日本だけじゃなく世界的にもそういう風潮があって、大多数の考え方もそっちのほうに染まっていく。弱い奴らが死ぬのは当たり前、強い奴だけが食えるんだっていう生き残りゲームみたいになって。最悪だなと思ってます。いまや「自分と仲間だけが助かればいい」「そうじゃない奴は関係ない」「嫌ならこの国から出ていけば」みたいな言葉さえ露骨に正当化されていて。そういうことに対しては「俺は出ていかねぇからな!」と思っています。俺は居座り続ける。俺は従わない。多数決で俺の人生を決めさせない。そういうことを残しておきたかった。それは自分が自分であるっていうことですから。

eastern youth『2020』

■リリース情報
eastern youth New Album『2020』
8月19日(水)発売 ¥2,600(税抜)
発売元:裸足の音楽社
販売元:PCI MUSIC

<収録曲>
1.今日も続いてゆく
2.存在
3.カゲロウノマチ
4.雑踏に紛れて消えて
5.夜を歩く
6.それぞれの迷路
7.明日の墓場をなんで知ろ
8.月に手を伸ばせ
9.合図を送る
10.あちらこちらイノチガケ

■ツアー情報
『極東最前線 2020 あちらこちらイノチガケ』
11月21日(土)名古屋CLUB QUATTRO
open 17:00/start 18:00 前売¥4,500(前売/1ドリンク別)
Info. 052-936-6041(JAIL HOUSE)

11月22日(日)梅田CLUB QUATTRO
open 17:00/start 18:00 前売¥4,500(前売/1ドリンク別)
Info. 06-6535-5569(SMASH WEST)

12月5日(土)渋谷 TSUTAYA O-EAST
open 17:00/start 18:00 前売 ¥4,500(前売/1ドリンク別)
※5月16日公演にゲスト出演予定だったNUMBER GIRLの出演はなし。
Info. 03-3444-6751(SMASH)

裸足の音楽社 HP

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