米津玄師、サブスク解禁でバイラルチャート独占 思わず惹かれる言葉のフックと飽きさせないタイトな楽曲を分析
そして、このリスナーの直感にダイレクトに切り込んでくるのが、米津の曲の強みである。この原稿を書くにあたり、バイラルチャートにランクインしている全曲を1位から順番に聴いてみたのだが、どの曲もイントロが強烈。さらにイントロからAメロ、さらにサビまでの展開も、複雑であってもタイトで速い。楽曲をスキップさせないための術を心得ている。バンドと並行してボカロPでも活動していたことが、最高の形で彼の楽曲の武器になっている。
ボカロPの話題が出たところで、最後に6曲ランクインしたハチ名義の曲にも触れておきたい。トリッキーなフック満載、早口言葉のような細かい譜割、突然の転調など、2010年前後のボカロPトレンドを踏まえた楽曲がズラリ。Aメロからいきなりサビに展開する構成、愛嬌と中毒性のある音色を繰り返し使う手法などは、今の彼の楽曲にもつながっている。
“Lemon”には、品種によっては鋭い棘がある。その棘は、放っておいたらレモンそのものを傷つけてしまう場合もあるそうだ。「Lemon」という曲を最初に聴いた時、真っ先に浮かんだのがレモンの棘。米津は自分が“自曲の棘”で傷つく場合があることを知りながら、曲を作っているのではないだろうか。彼は多くの人とのコミュニケーションツールとして、傷つくことを恐れずに、楽曲を作り続ける。だから彼の楽曲には、人間の勇気が詰まっている。
■伊藤亜希
ライター。編集。アーティストサイトの企画・制作。喜んだり、落ち込んだり、切なくなったり、お酒を飲んだりしてると、勝手に脳内BGMが流れ出す幸せな日々。旦那と小さなイタリアンバル(新中野駅から徒歩2分)始めました。
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