17歳とベルリンの壁、バンド像を刷新する挑戦のアティテュード 立体的な構築美と歌の存在感が光る『Abstract』を聴いて

 シューゲイザー、ドリームポップの影響を強く受けるバンドたちが、ここ数年でさらなる成長を遂げてきている。その勢いは海外だけに留まらず、 近年では日本の新世代バンドたちの活動も目まぐるしい。17歳とベルリンの壁も、その一端を担う存在だ。

 17歳とベルリンの壁は、東京を中心に活動するシューゲイザー・ドリームポップバンドで、 2013年より活動開始。数字、漢字、カタカナすべてを含めた印象的なバンド名は、 NUMBER GIRLの歌詞によく登場するワードであり、同バンドの影響を公言しているBase Ball Bearに 『十七歳』という作品と「17才」という楽曲があったことから“17歳”というワードを用い、 特に由来のない“ベルリンの壁”を組み合わせたそうだ。

 低体温な男女混合ツインボーカル、淡いベールを紡ぐギターサウンド、 柔らかくも安定したリズムセクション。 シューゲイザーとドリームポップ、それぞれのジャンルの系譜を忠実に受け継ぐ正統派的魅力がありながら、 ギターポップ的要素も備える。

 2015年7月に1stミニアルバム『Aspect』をリリースすると、早耳リスナーからたちまち反響を呼び、2017年の2ndミニアルバム『Reflect』とともに、国内外のシューゲイザー、ドリームポップファンから賞賛を集め、今もなおロングセラーを記録中だ。2018年にリリースした3rdミニアルバム『Object』では、淡く歪む音像からクリアなバンドアンサンブルに移行し、ポップなメロディがより際立つようになるとともに、垢抜けた印象を見せた。

17歳とベルリンの壁 - 終日 [MV]
17歳とベルリンの壁 - プリズム [MV]
17歳とベルリンの壁 - 表明式 [MV]

 そして8月5日に、4枚目のミニアルバムとなる『Abstract』をリリースした。今作は、“17歳とベルリンの壁”というイメージをまたひとつ更新し、さらなる可能性を打ち出す作品になったといっても過言ではない。今回はバンドのフロントマンであるYusei Tsuruta(Vo/Gt/Syn)にインタビューを行い、今作の制作秘話からバンドの変化に至るまでを紐解いていきたい(以下、発言は全てYusei Tsurutaによるもの)。

「昨年5月からプリプロを開始して、ほぼ1年かけてアルバム制作に取り掛かっていました。新譜に収録されている曲は、すべて前作『Object』のリリース後に制作したもので、古いものだと2018年秋にできていて、新しいものだと2019年秋に制作していたりと、制作時期はバラバラです」

17歳とベルリンの壁 - 2019.06.23[Live]

 今作に収録されている楽曲は随分前から作られており、現に2019年6月に収録されたライブ映像では、新曲A、B、Cとして収録楽曲3曲を演奏している。

「新譜に6曲を収録するということ自体は、最初から決めていました。候補を2曲ほど作った段階で、アルバムの全体像を明確にイメージしてから必要な曲を足していくような作り方をしていたところ、自然とこの6曲が集まりました」

 17歳とベルリンの壁の楽曲は、Tsurutaがデモを作成し、バンドに共有して完成形へ仕上げていくそうだ。導かれるように集った6曲には、これまでと違う3つの大きな変化があった。 その1つが、サウンドデザインの構築だ。『Aspect』から『Reflect』にかけては、楽器の音から歌声に至るまであらゆる音を重ね、時にはThe Pains of Being Pure at Heartを彷彿とさせるストレートなギターポップサウンドも取り入れつつ、多重録音ならではの曖昧さや独特な浮遊感と心地良さを生み出していた。 しかし『Abstract』では、すべての音がクリアな聴き心地となり、ギターのハイトーン&ミドルトーン、リズムセクション2人のロートーンの棲み分けがはっきりしているように聴こえる。さらには楽曲自体もシンプルな構造であり、繊細な音色から歪む低音まで、潰れるものが何一つない。それなのに、これまで以上に立体感のあるサウンドスケープとなっている。ミニマルな手法でありながらも、立体感や重厚感が増した理由とは何なのだろうか。

「まず音の違いとしてはレコ―ディングスタジオとエンジニアの方の違いによる影響が大きいと思います。『Aspect』『Reflect』はMannish Recording Studioで、『Object』『Abstract』はStudio Crusoeでレコーディングしました。あと、私自身としてはシンプルな構造と音の立体感は相反するものではないと思っています。例えばギターを大量にダビングすることでしか出ない厚みもありますが、一方で1本1本の細かいニュアンスは失われてしまいます。構造をシンプルにすることで、1本ごとに使える音域が広くなるので、過度なEQやコンプの処理を抑えれば、小さな質感まで伝わるようなナチュラルで立体的な音になると思います」

 実際に音を収録する際、さまざまなアイデアを投じたそうだ。

「『Abstract』では、ギターのダビングがこれまでで最も少ないと思います。隙間なくギターで塗りつぶすような音像の曲は平面的になりがちなので、ダビングしたギターそれぞれの役割を考えて、不要な帯域は切り捨てるようにしました。他にも音作りだけでなく、アレンジやフレーズを考える段階から、多層的なサウンドデザインになるようイメージしていました」

 ただ一辺倒に重ねていくのではなく、各パートが自立して聴こえる中、繊細な一手が垣間見える。 その人間らしさを逃さないように設計されている。 シンプルイズベストな構築の中でこそ浮かびあがるメンバー4人の個性に、 リスナーにとっては新しい魅力と発見が得られることだろう。

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