SKY-HIが示した、配信ならではのライブの魅せ方 オンラインで“みんな”に届けたエンタメの真骨頂

SKY-HI初の有料配信ライブを振り返る

「今日ここでやってることは、画面の向こうのみんなは生で見れるはずのものだった。それが見れなくなって……そういうこともあるんだよね。そのときにさ、しょうがない、“1”ができないから0.5で我慢してもらおうとか、0.7までやってやったぜとか、イヤじゃん。“1ができないんなら、AとかBをやってます”ということを続けてきて、ついに今日、俺は仲間と一緒にステージに立つことができました」

「この編成、ソリッドでムダはないけど攻撃力はあるからさ、どうぞ受け取ってください。この世の中は最高のことばっかじゃないが、最高に近付けることはできる。そういう存在がたぶん、俺たちなんだと思うんだよね」

 というMCの後は、SKY-HI自身のキャリア、そのなかで感じた悔しさ、葛藤と“それでも自分の手で未来を掴むんだ”という意思を刻み込んだ楽曲が続く。ロッキンなギターサウンドと〈誉も傷もName Tag〉〈自分で築いたName Tag〉というラインが共鳴する「Name Tag」、色眼鏡をアドバンテージに変え、嘲笑を歓声に変えてきた道のりをダイレクトに描いた「Walking on Water」、和テイストのアレンジによって、ラッパー道を突き進む決意を際立たせた「SS」。自らの人生を強く反映させた楽曲は視聴者の感情を強く揺らし、コメント欄には「泣ける」「神セトリ」といった言葉が連なっていた。

 「状況はいつも変わるよ。人から見た成功もいくつか手に入った。人には伝わらないような悲しさや悔しさもいっぱいあった」「もう終わりにしようかなと思ったことが何度あったかわからない。それでも、そばに音楽があったからな」「こいつと一生付き合っていくと決めて、今日ここで、画面の向こうのおまえのところまでたどり着いた」「今日巡り合えた君の、いままでとこれからを、君の人生を肯定しよう。君が生きる意味も価値も、この音楽で証明しよう」。そんな言葉にーーそれはもはや、ひとつのリリックであり、音楽だったーー導かれた「Young, Gifted and Yellow」は、間違いなくこの日のライブの最初のクライマックスだった。出会うことができたオーディエンスの思いを引き受け、音楽を介したコミュニケーションによって、そのすべてを肯定する。この凄まじい覚悟こそが、SKY-HIの音楽の核なのだと改めて実感できるシーンだったと思う。

 鍵盤の弾き語りによる「LUCE」「そこにいた」で、今はいなくなってしまった大事な人への思いを綴り、月光を想起させる照明のもとで披露された「Over the Moon」では叙情的なロマンティシズムを紡ぎ出す。

 「いままで出会ったすべての大切な人、むかつく人にも、時折こういうふうに曲を届けていきたい。愛を込めて歌います」というMCとともに「アイリスライト」を歌い上げた後は、自粛期間中にバンドメンバーとともに作り上げた「#Homesession」。コロナ禍における不安、恐怖から目を逸らさず、〈根っこに持っとくものは愛〉を軸にしながら楽曲に昇華したこの曲は、早くも新たな代表曲となりつつある。わかりやすい派手さはないし、大合唱できる曲でもないが、「#Homesession」に込められた普遍的なメッセージは、アンセムと呼ぶにふさわしい。

 ここからライブは後半へ。まずSKY-HIは、改めて画面の向こうのオーディエンスに語り掛ける。オンラインでしか作れないことをやろうとしていたら、「これ、生でみたらやべえな」となり、「この感じのやつを、全国にお渡ししにきたい」と思っていること。ろくでもない状況のなかでも、近くにいる人に対して愛しさ、感謝を感じたときは「悪くないな」と思えること。オンラインライブでいろんな人と繋がれて幸せを感じていることーー。

 「コロナ禍のなか、分断と差別を加速させるのが本当に怖かったんだよね」「もう1回原点に立ち返って、自分のとなりにいる人、自分と考えが違う人を愛してあげたら、それが何より一番じゃないかなと思う」「大事にしてほしいのは、自分自身を愛してほしいということ」という言葉から「Marble」につながる瞬間は、まさにSKY-HIの真骨頂。現実の社会に起きている問題をしっかりと反映させながら、誰もが楽しめるポップミュージックへと結びつけるセンスと技術はまちがいなく、彼のアーティスト性の中心にある。

 さらに「I Think, I Sing, I Say」「New Verse」ーーどちらも深いメッセージ性と音楽的な豊かさを兼ね備えた曲だーーを挟み、「カミツレベルベット 2020」「リインカーネーション」というライブアンセムを重ね、ライブ本編は終了。すぐさまコメント欄には「アンコール」という言葉が凄まじいスピードで並び始めた。SKY-HIはステージ袖で視聴者のコメントをチェックした後、再びステージへ。「俺たちのところまで声を飛ばしてくれる?」と「Blanket」を披露し、アンコールを始めた。タイのポップスター・STAMPとのコラボ曲「Don't Worry Baby Be Happy」で心地よいグルーヴを作り出し、「Seaside Bound」「Double Down」というアッパーチューンを連発。「Snatchaway」の圧倒的な高揚感とともにライブはエンディングを迎えた。

 現実の社会とそこで生きる我々の感情と強く結びついた歌詞、グローバルポップの潮流とJ-POPのテイストを融合させた音楽性、真摯なメッセージ性をカラフルなエンターテインメントと結びつけるステージと演出。初の有料オンラインライブ『SKY-HI Round A Ground 2020 -RESTART-』でSKY-HIはアーティストとしての新たな進化を見せてつけてくれた。9月23日リリース予定のベストアルバム『SKY-HI's THE BEST』への期待がさらに高まる。そして、コロナ禍以降の音楽シーンの可能性を示唆する素晴らしいコンテンツだったと思う。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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